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相次ぐ従業員の自殺 中国Foxconn工場の怪


 iPadのような新しい機器には、ユーザーやメディアの熱い視線が注がれる。だが、それらが作られている現場にスポットが当たることはあまりない。だが今回、異常な事件で製造の現場が世界の注目を集めることになった。電子機器でも“世界の工場”となった中国の深センで、若い工場従業員の自殺が相次いでいる。いったい何が起こっているのだろう。

今年に入って半年で10人の自殺者、未遂も含めると12人も

 中国国営新華社通信は5月27日、深センで前日深夜近く、Foxconn Technology(富士康)の工場敷地内の建物から身を投げた23歳の男性が死亡したと伝えた。男性は勤務して1年足らず。そして今年に入って同社の従業員で10人目の自殺者となった。未遂も入れると、6カ月で計12人が自殺を図ったという。

 このニュースは、Foxconnの親会社、台湾Hon Hai Precision Industries(鴻海精密工業)の会長であるTerry Gou氏が記者会見した翌日にもたらされた。Gou氏は深センの自社工場で、従業員の自殺予防対策に取り組むことを表明したばかり。従業員の死の連絡をどんな気持ちで受けたのだろう―――。

 Foxconnは世界最大の電子機器受託生産メーカーである。Apple、Dell、Hewlett-Packard、ソニー、任天堂などが顧客に名を連ね、なかでもAppleは同社をメインのサプライヤーとしている。「iPhone」「iPod」「MacBook」そして「iPad」などのアップルの製品がFoxconnの工場で作られているという。

「これ以上自殺者を出さないため、できることはなんでもする」

 記者会見は、9人目の自殺者が出た次の日に行われた。新華社などによると、Gou氏は国内外の報道関係者を前にして、「これ以上自殺者を出さないため、できることはなんでもする」と語ったという。

 具体的な対策として、飛び降り自殺を防ぐネットの建物への設置、100人のカウンセラーの配置、社員を約50人のグループに分けてのコミュニケーションの促進、賃金引き上げ、などを挙げた。また精神科医を招き、従業員がカウンセリングを受けられるようにしているほか、100人以上の従業員がボランティアカウンセラーとして訓練を受けているという。

 Foxconn内で起こる異常事態への警鐘は、それ以前から鳴らされていた。5月中旬には9人の社会学者が同社に職場改善を求める公開書簡を送っており、労働権利団体も賃金と労働条件、経営体制の改善を求めて抗議活動を展開したという。この団体はNew York Times紙に対し、「勤務中に私語が一切禁止されており、同じ製造ラインにいる従業員同士さえ知り合う機会もない」と語っている。

 25日の記者会見時にFoxconnは深センの工場を報道陣に公開した。Foxconnの中国の全従業員80万人の半数程度が深センで勤務しているという。敷地内には、レストラン、銀行、ショップ、巨大なプールをはじめとするレクレーション施設など、何でも揃っており、従業員は敷地内の寮に住んでいる。工場内敷地内に“街”ができあがっているのだ。

 工場内を視察した報道陣に対して、従業員は「待遇はよい」と答えたというが、実際の作業現場はそうでもなさそうだ。

本当に待遇は良いのか? 「南方周末」の記者が潜入取材

 若者に人気があるリベラル派新聞、南方周末は、Foxconnの深セン工場に、インターン記者を約1カ月間送り込み、工場を潜入取材した。これを英語圏に伝えたGizmodeによると、長時間立ったままの単純作業、短い休憩時間など過酷な労働環境が浮かび上がってきたという。

 また、入社時に、長時間労働になることに会社側は責任を負わないということを書面で求められたことなどを伝えている。初任月給は900元(約1万2000円)からで、都市部の最低賃金レベルにあたる。iPhoneなど彼らが作った製品は、自分ではとても手が届かない高根の花なのだ。Foxconnは事件を受けて賃金の引き上げを発表している。

生産委託するAppleやHPも調査に動く

 自殺者が相次ぐことに、労働環境が関係していることは間違いないだろう。一方、専門家からは、この自殺が後追いの連鎖反応を引き起こしているとの指摘も出ている。自殺が連鎖するのは世界共通だが、中でもアジアに多く、ニュースに影響されて自らの命を絶っているのではないか、という社会学者の意見をNew York Times紙は伝えている。

 Foxconnの従業員のほとんどは20代で、家族と離れて寮で生活する若者たちだ。深セン市人民政府のLi Ping総書記は、1980年代、1990年代に生まれた若者はプレッシャーにさらされると適応力がなく、そうした若者が、Foxconn のように集団になると状況はさらに悪化する、と新華社に語ったという。中国で「一人っ子世代」と呼ばれる若者たちのメンタリティ要因を指摘するものだ。

 Foxconnに生産委託しているApple、HPなども問題を受けて調査を開始したようだ。香港では労働組合がiPhoneボイコット運動を展開しており、製品イメージへの悪影響も出始めている。発注側としても放置しておけない事態になってきた。

 特定の企業で自殺が多発するというのは、Foxconnの例が初めてではない。フランス最大手通信企業、France Telecomは2009年秋、2年間で32人もの自殺者を出し、メディアに大きく取り上げられた。原因は民営化と不景気に伴う大規模なリストラといわれている。

 Foxconnの10人の自殺は、急成長する中国、そしてグローバル経済の影の部分を見せ付けているように感じられる。

(岡田 陽子=Infostand)

2010/5/31/ 09:44