シェア減少に歯止めはかかるか? Symbianのオープンソース化


 スマートフォンプラットフォーム「Symbian」を管理する非営利団体Symbian Foundationが、そのソースコードを公開した。オープンソース化計画を発表してから1年8カ月、当初の予定を前倒しての公開である。10年を超える歴史を誇り、スマートフォン市場で最大のシェアを誇るSymbianだが、市場の反応はかなり冷静だ。

 Symbianは、携帯電話向けの初の本格的な標準OSだ。その歴史は1980年代までさかのぼり、2008年までNokia、Motorola、Ericsson、パナソニックなどが共同出資して設立したライセンス会社Symbianが、OSの開発と携帯電話メーカーへのライセンスを行っていた。

 当初はライバルらしいライバルといえば、Microsoftの「Windows Mobile」ぐらいしかなく、Symbianは長い間、ニッチなスマートフォン市場を独占してきた。しかし、ビジネスマンのニーズを満たしたResearch In Motion(RIM)の「Blackberry」、そして2007年に登場したAppleの「iPhone」の参入で、モバイルコンピュータ時代の幕が開くと、目に見えてシェアが縮小した。

 そんななかで、Symbianを全面的に採用する携帯電話最大手のNokiaは2008年6月、Symbianを買収してSymbian Foundationを設立。コードをオープンソースにする計画を発表した。

 今回のコード公開はその計画に沿ったものである。このオープンソース化によって、携帯電話メーカーは開発コストを引き下げることができる。また開発者にはアプリケーション開発を奨励して、相乗効果を狙う。

 Symbian Foundationによると、Symbian携帯電話はこれまで世界で累計3億3000万台を出荷したという。今後の出荷台数について、2010年単年で1億台、2011年には2億台という大胆な予想も打ち出している。Symbian Foundationの執行ディレクター、Lee Williams氏は「世界的なスケール」を強調する。

 だが、当初の予定よりも4カ月前倒しでの公開にもかかわらず、メディアの反応はいまひとつだ。

 オープンソースという点では、モバイルプラットフォームのオープンソースプロジェクトは、もはや目新しいものではない。最近ではGoogleの「Android」があるし、古くは「LiMo」などLinux陣営が行ってきたことだ。

 アプリケーション開発の注目度では、どうしてもiPhoneやAndroidに軍配が上がる。iPhoneは「App Store」でアプリケーションメカニズムを確立し、モバイルアプリブームを起こした。Androidは、現在のシェアは小さいものの、米国では2009年9月から11月の3カ月間でシェアを倍増させるなど、重要なプラットフォームになりつつある。Googleが1月に「Nexus One」を発表したこともあり、今後が注目されている。

 こうしたなかでSymbianについて、Forresterのアナリスト、Ian Fogg氏は「マインドシェア」が課題だと指摘する。iPhone、Android、Blackberryなどは「斬新」「クール」などを連想させるが、Symbianにはそれがないというのだ。「Symbianはとにかく、マインドシェアを奪還する必要がある」とFogg氏はBBCに述べている。

 こうした見方はユーザーの間でも強いようで、Symbianオープンソース化を報じるTimes Onlineのニュースには、「すでに手遅れ」という複数のコメントが読者から寄せられている。

 また、San Francisco Chronicle紙は「Symbianがオープンソース革命をリードすると期待すべきではない」というタイトルで、「AppleとRIMは、自社しか端末を製造しないにもかかわらずOSで大きな成功を収めている」というABI Researchのアナリスト、Kevin Burden氏のコメントを紹介。ソフトウェアからハードウェアまでを1社で開発して成功したAppleとRIMの例から、OSと端末を切り離す戦略は不利であるとの見方を示した。

 一方、PC Worldは、それでもオープンソース化はメーカーと開発者にメリットをもたらし、Symbianは、ある程度活性化するとみる。スマートフォンメーカーは、Androidの成功を受けてオープンソースモバイルプラットフォームに前向きになっており、Symbianは代替OSとして検討されるだろう、というのだ。

 PC Worldは、開発者については「App Storeのような急ピッチでの成功は達成できないだろう」としながらも、「3億3000万という潜在顧客は無視できない」としている。これにはIDCのアナリスト、John Delaney氏も同意見で、「開発者の目的は結局のところ、開発したアプリから収益を得ること。これはプラットフォームの利用者数に直結する」とSan Francisco Chronicle紙にコメントしている。

 調査会社のOvumが2月初めに発表したレポートによると、Symbianのオープンソース計画が発表された2008年には60%程度だったシェアは、現在、48%に落ち込んでいるという。2015年にはさらに3割程度まで縮小すると予想している。

 このところ動きが少ないMicrosoftも、2月15日に開幕する「Mobile World Congress」では、何らかの発表をするとみられている。ニッチからメインストリームに変化するスマートフォン市場で、オープンソース化によって流れを変えることができるか――。Symbianの正念場である。



(岡田 陽子=Infostand)

2010/2/15/ 09:10