日立がクラウド事業統括本部を設立、加速する「Harmonious Cloud」戦略


日立 執行役常務 情報・通信システム社プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎氏

 株式会社日立製作所(以下、日立)は5月27日、クラウドソリューション「Harmonious Cloud」の事業推進体制を強化すると発表した。情報・通信システム社内に、日立、日立システム、日立情報、日立ソフト、日立電サのクラウド事業推進部門の主要メンバー約300名で構成された「クラウド事業統括本部」を6月1日付けで設立し、クラウドソリューションの提供を加速させる。

 クラウド事業統括本部の主となる役割は、グループ全体でのクラウド戦略の策定。各社の知見やこれまでのクラウド事業で培ったノウハウを共有し、新ソリューションの創出や他社クラウドとのアライアンスを推進する。方針を定めるのは「クラウド運営委員会」なる既存の組織で、クラウド事業統括本部はその実行部隊。基盤製品を開発する「製品開発部門」、プライベートクラウドを提供する「営業・SE部門」、パブリッククラウドを提供する「サービス提供部門」を設置し、実ソリューションへ落とし込んでいく。

 現在決まっている方針は、(1)日立とグループ各社のクラウドサービスメニューの一元管理、(2)日立とグループ各社間でのクラウドソリューション開発計画の共有、(3)新製品情報や適用ノウハウの共有、(4)他社クラウドとのアライアンス策定、(5)クラウドソリューション同士の接続性検証結果の共有、(6)クラウドソリューション導入実績およびユーザー環境における課題の整理と解決策の共有。

 (4)のアライアンスでは、「現時点で詳細は言えないが、すでに数社と検討中」と日立 執行役常務 情報・通信システム社プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎氏。その視線の先に、クラウドソリューション同士を実際に接続させる「Harmonious Cloud Framework」の実現まで見据えた(5)では、「すでに課金や認証といった仕組みのほか、クラウド活用デザインパターンの検証が始まっている」という。


クラウド事業統括本部の体制クラウドソリューション同士を実際に接続させる「Harmonious Cloud Framework」の実現も見据える



日立のクラウドソリューション

日立 情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部長の高野雅弘氏

 では、日立は現状、どのようなクラウドサービスを提供しているのか。

 クラウドに対する同社の考え方は、「事業の迅速性といったメリットともに、コンプライアンス、セキュリティ、性能保証などの課題を担保するのが重要。そのためには、システムの特性に応じて適材適所にクラウドを適用する必要がある」(日立 情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部長の高野雅弘氏)というもの。

 つまりはハイブリッドクラウドの推奨で、「金融機関の例では、メール・ファイル共有・スケジュール管理・設備予約・経費購買申請などのノンコアな定型業務はパブリッククラウド、勤怠管理・コンプライアンスチェック・プロセスモニタリング・BI・顧客管理・マーケティング・収益管理・リスク管理などの非定型で社外にデータを置けない業務はプライベートクラウドといったすみ分けが進んでいる」(高野氏)という。

 この考えの下、Harmonious Cloudでは以下のようなサービスを提供する。

PaaSクラウド導入コンサルテーション
クラウド導入支援サービス
プラットフォームリソース提供サービス
リソースキャパシティ保証サービス
可用性強化サービス
ソフトウェアスタック提供サービス
SaaS事業者向けサービス
クラウドバックアップサービス
Microsoft統合開発環境提供サービス
SecureOnline統制IT基盤提供サービス
SaaS情報共有基盤サービス-コラボレーション機能
日立企業間ビジネスメディアサービス「TWX-21」
特許情報提供サービス「Shareresearch」
SaaS型環境情報管理サービス「EcoAssist-Enterprise-Light」
SecureOnline在宅勤務サービス
ITSSスキル管理システム
SaaS型連結納税ソリューション「C-Taxconductor」
特定保健指導支援サービス「はらすまダイエット/保健指導」
デジタルサイネージプラットフォーム「MediaSpace」
SaaS型帳票サービス「帳票スクエア」
プライベートクラウドプライベートクラウドコンサルティングサービス
プライベートクラウド設計・構築サービス
プライベートクラウド運用・保守支援サービス
業種・業務向け日立自治体クラウドソリューション「SUSTINAD」
ネットワークバンキング共同センタサービス「FINEMAX」
LSI/プリント基板 設計ユーティリティサービス


 今回の統括本部設立には、これらサービスの拡充も盛り込まれている。

 プライベートクラウドでは「導入・構築の迅速さ・確実さの向上」として、現状システムを把握・分析する「プライベートクラウドコンサルティングサービス」で最短12営業日での試算結果報告を実現しているほか、非機能要求グレード検討会が2月に完成版を公開した「非機能要求グレード」を基に、確実にプライベートクラウドを構築できるよう、標準アーキテクチャモデル・プロセス・ツールも整備。

最短12営業日で試算結果を報告する「プライベートクラウドコンサルティングサービス」非機能要求グレードを基に、確実にプライベートクラウドを構築できるよう、標準アーキテクチャモデル・プロセス・ツールを整備

 パブリッククラウドでは、自治体システムの業務・運用ノウハウをサービス化した「SUSTINAD」をはじめ、日立グループ20万人で実績のある情報共有基盤のサービス化など、「実績のあるサービスを拡充し、現状約70種ほどのサービスメニューを2010年度中に100メニュー以上に増やしていく」(高野氏)という。

パブリッククラウドサービスでは業種共通分野、特定業種分野に向けて、業務ノウハウをサービス化していく。目標は2010年度中に100メニュー以上を取りそろえること日立グループ20万人で実績のある情報共有基盤のサービス化も進める

 また、ハイブリッドクラウドでも組み合わせ例を拡充。大容量データを柔軟に保存する「クラウドバックアップサービス」や、本番・開発環境のシームレスな移行を実現するクラウド開発環境提供サービスをはじめ、「それぞれの良さを生かした企業情報システムのさらなる柔軟性向上に努める」(同氏)としている。

クラウドバックアップサービスの概要本番・開発環境のシームレスな移行を実現するクラウド開発環境
2015年に5000億円のクラウド関連売上高を目指す

 こうした一連の施策により、「500億円ほど」(同氏)という2009年のクラウド関連売上高を、2012年に2000億円、2015年に5000億円まで引き上げるのが目標となる。




(川島 弘之)

2010/5/27 16:42