持続可能な社会を目指し、NEC矢野社長が提案する“明日を創るイノベーション”

C&Cユーザーフォーラム 2009基調講演

代表取締役 執行役員社長の矢野薫氏

 日本電気株式会社(NEC)主催の「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2009」が11月5日、東京国際フォーラムで開催した。テーマは「明日を創るイノベーション~人と地球にやさしい情報社会を目指して~」。基調講演を行った代表取締役 執行役員社長の矢野薫氏は、世界情勢の変化、それに伴う企業の責任、課題と解決のためのキーワードなどを紹介した上で、NECが取り組む業務改革や環境への活動を説明した。

 矢野社長はまず世界情勢に触れ、「世界同時不況、各国での相次ぐ政権交代など、世界の風景は一変した。新興国が存在感を増すにつれ、グローバル化が加速。企業にはますますビジネスのスピードと柔軟性が求められるのとともに、社会の課題を解決する存在に変わる必要がある。企業内部にも課題は多いだろう。それでも社会的責任を果たすために、“明日を創るイノベーション”を創出していかなければならない」(同氏)と語った。

 同氏によれば、企業の課題は「グローバル化」「社会的責任」「情報システム部門の経営一体化」。それらを解決するためのキーワードが「業務プロセスの改革」と「プロセス改革を支えるIT」という。「企業は業務プロセスをシンプルにグローバルに統一する必要がある。情報の“見える化”もこれまで以上に重要。それは現場だけでなく経営の革新にもつながるものだ。そのためにITが重要だが、ITも変革する必要がある」(同氏)。

企業が直面する課題(左)と解決のためのキーワード(右)
NECの業務改革

 そうした変革はNECでも進められている。矢野社長によれば、同社の課題は、個別最適されたまま、あまりにグループが大きくなりすぎたことだ。「ITの構築・運用も業務マネジメントも、各社が個別に実施してきたため、全体の事業を可視化することが困難になった。そのため、経営システムを全体最適へと抜本的に改革する必要が生じてしまった」(同氏)という。

 そこで同社では「業務構造改革」「業務プロセス改革」「ITシステム改革」の3つを進めた。改革前、同社の業務構造はグループ・ビジネスユニットごとに異なるローカルプロセスが採用され、顧客へのチャネルが複数存在する混乱の中にあった。これを改善するため、すべてのグループ会社・ビジネスユニットで統一制度を採用。グループで100以上存在していた業務プロセスもメインの4本をはじめとする計22本に集約することで、バリューチェーンの最適化を図った。この結果、「関連間接部門費用を2割以上削減することに成功した」(同氏)という。

 ITシステムの変革でも、エンタープライズクラウドにより、グループ会社がグローバルに共用できる「グループ共通基盤」の構築に着手。「世界中で約14万人の利用を想定、TCOの2割削減をめざして、2010年1月にはまず経理システムが新たに稼働する予定」(同氏)となっている。

業務構造の改革業務プロセスの改革ITシステムの改革
NECのクラウド化・シンクライアント化の取り組み

 この変革を基盤に、NECの“明日を創るイノベーション”としては、7月にCO2排出量を“実質ゼロ”にする計画が順調に進んでいるとの発表があった。これは「ITのグリーン化」「ITによるグリーン化」でCO2排出量を相殺するものだが、これ以外にも、自社内クラウド環境の構築やシンクライアント化も進めており、CO2排出量の約60%削減が見込まれているという。

 低炭素社会の実現に向けてはこのほか、JAXA温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」に搭載された観測センサー「TANSO」や、日産リーフに搭載されたリチウムイオン電池を開発した。また、豊かな個人生活の実現に向け、職場、家庭、医療機関、地域をIT・ネットワークでつなぐことでヘルスケアのイノベーションに取り組んでいるとのことで、「米国では、データセンターに設置された画像解析サーバーを利用して、自社設備のない医療機関でもスライドごとに課金されるSaaS方式で、がんの画像診断が可能なシステムを実現している」(同氏)と紹介。

観測センサー「TANSO」。地球上の約5万6000ポイントの温室効果ガスを観測IT・ネットワークと電池技術で社会のグリーン化に貢献がんの画像診断支援システム

 こうした取り組みがやがて“持続可能な社会”を形作っていくという。最後に矢野社長は「“明日を創るイノベーション”のためには、各企業の技術・ノウハウを人・社会・地球への貢献のために新結合する必要がある。豊かな個人生活、安心・安全な社会、地球環境との共存、産業の活性化。これら持続可能な社会のためには、変化に即応する自立型の情報通信インフラで共創を加速していかなければならない。当社では“人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー”を目指した『NECグループビジョン2017』を策定した。こうした考えを全社員で共有するのは簡単なことではないが、Face-to-Faceの話し合いの機会を多く作ることで浸透に努めている。今後もこうした取り組みを地道に続けることで、“明日を創るイノベーション”を創出していきたい」と意気込みを語った。




(川島 弘之)

2009/11/5 16:11