NEC、「インターネットメカニズムを変える技術」など、研究開発の成果を披露

研究開発活動に関する説明会を開催

 日本電気株式会社(以下、NEC)は6月29日、自社の研究開発活動に関する報道向けの説明会を開催。現在開発中の新技術について、デモンストレーションなどを実施した。

執行役員兼中央研究所長の國尾武光氏

 NECでは、本社とグループ企業をあわせたNECグループ全体の研究活動を、中央研究所を含む「知的資産R&Dユニット」によって行っている。執行役員兼中央研究所長の國尾武光氏によれば、その活動は大きく「将来の事業を創出する革新的なイノベーション」と、「現在の事業をより強くしていくための継続的なイノベーション」に分けられており、特に中央研究所では、主に3~5年先の実用化を見据えた“明日”の技術開発を行っているという。研究開発費は全社で約2800億円であり、そのうちの約1割が“明日”の技術開発に振り分けられている。

 組織は、先を見据えた新たな情報処理・通信のあるべき姿を本質的な観点から研究する「C&Cイノベーション研究所」、新技術をもとに新たなイノベーション創出に取り組む「ビジネスイノベーションセンター」を設置。このほか、ソフトウェアやサービスを中心とした「ソリューション基盤研究グループ」、「IT・NWシステム研究基盤グループ」、「材料・プロセス基盤研究グループ」の3部門、計8研究所が設けられ、全体で約1000名が所属している。

 また、「自社だけですべてに取り組むのは不可能」(國尾氏)であるため、社外の技術を取り込んでR&Dのスピードと効率を向上させる「オープンイノベーション」の取り組みも継続。さらに、「ライフサイクルの短縮とニーズの多様化などを受け、研究員自体がマーケティングをしながら技術開発をする必要がある」として、コンカレントR&Dにも積極的に取り組んでいる。

中央研究所の組織研究開発の活動領域

 今回の説明会では、このような中央研究所の活動の中から生まれた、3つの技術のデモンストレーションも実施された。

 1つ目の「プログラマブルフロー・スイッチ」は、ネットワーク機器からデータプレーンの機能を抜き出したハードウェアで、コントロールプレーンに相当する機能を持つ、外部の制御サーバーからの統合管理を実現する。現在の一般的なネットワーク機器は、両プレーンの機能を搭載しているが、そのために柔軟性に欠け、画一的なサービスしか提供できなくなっているとのこと。これではクラウド時代に求められる柔軟性を満たせないとして、NECでは「要求に応じて柔軟にサービスを構成できるオーダーメードインフラ」(中央研究所 支配人の陶山茂樹氏)の必要性を強調。このビジョンを実現するための重要な要素として、「インターネットのメカニズムを根本から変える」(陶山氏)プログラマブルフロー・スイッチの実用化を目指すとした。

 制御サーバーとプログラマブルフロー・スイッチ間のインターフェイスには、OpenFlowコンソーシアムが規定するOpenFlowインターフェイスを利用する。なおNECではすでに、米Stanford大学、NICTと共同で世界初の実機動作と国際連携実証を2008年10月に成功させているが、商用までにはまだ時間がかかる見通しである。

制御サーバー(左)とプログラマブルフロー・スイッチ(右)プログラマブルフロー・スイッチの概要フローの状況に応じて経路を動的に制御するなど、柔軟なネットワーク制御機能が提供できるという

 2つ目の技術は、「大規模データのストリーム処理」技術。爆発的に情報量が増える現在の社会の中において、「情報は宝の山であり、それを処理する技術が必要になる」(中央研究所 支配人の澤田千尋氏)との考え方から研究されている。この技術では、センサーなどから継続して送られてくる大量のデータに対し、多段階に部分分析処理を行うことで、流れ作業的なリアルタイム分析を実現している。また、前回の計算結果を再利用し、差分のみを新たに計算する手法も導入。処理の高速化を達成している。

 澤田氏は適用例として、1台1台の車をセンサーとして活用し、道路の混雑状況を可視化する用例や、シンクライアントの利用状況をセンサー情報に見立て、その利用の多寡に応じて動的にサーバーの台数を増減する例を紹介。加えて、電子マネーやケータイを活用したマーケティングなど、新規ビジネスにも適用可能とした。技術面では、マルチコア対応のストリーム処理や、1台ではなく広域に分散した複数台のPCを利用する「広域分散システム連携ストリーム処理」などへの応用も検討していくとしている。

中央研究所 支配人の澤田千尋氏大規模データのストリーム処理技術の概要大規模データストリーム処理の活用例。車をセンサーとして活用することで、大規模かつリアルタイムな道路の混雑状況可視化を実現している

 3つ目の技術としては、NECが長年手掛けてきた音声認識技術を紹介した。同社では1960年に京都大学と共同で音声タイプライタを試作したほか、世界初の連続音声認識装置を発売するなど、現在まで継続して音声認識技術の開発を手掛けている。最新の技術では、実環境での会話認識をテーマに、雑音環境下でも複数話者からの同時発話を認識したり、話題の転換にあわせて臨機応変に話題辞書を切り替えたり、といった技術を開発。最新の事例としては、裁判員裁判用法廷へ音声認識システムを導入することが決まっており、8月の運用開始を目指して検証が続けられている段階である。

 一般的なサービスとしても、この技術を活用したSaaS型の会議録作成支援サービスを開始。5月に発表された株主総会向けサービスでは、すでに電鉄会社の株主総会で利用された実績もあるとのことで、今後も、同分野での開発を続ける予定である。

NECの音声認識技術の歴史開発成果を活用し、SaaS型の会議録作成支援サービスを提供している





(石井 一志)

2009/6/29 14:48