マイクロソフトが語る、Azureの将来像


 AzureというWindowsベースのクラウドサービスを提案したマイクロソフト。Azureの登場により既存のWindowsベースのシステムは、時代遅れになり、すべての企業システムがクラウドへと移行していくとマイクロソフトは考えているのだろうか? こういった、疑問に答えてもらうために、今回、マイクロソフトでAzureを担当されているデベロッパー&プラットフォーム統括本部カスタマーテクノロジー推進部 部長の平野和順氏に話を伺った。


Azureはネット時代を支えるインフラ

―WindowsというパッケージOSを販売しているマイクロソフトが、相対するクラウドサービスのAzureを開発しているというのは、自分たちの行っているビジネスを壊すことではありませんか?

平野氏
 そんなことはありません。わが社のCTO(チーフ テクノロジー オフィサー)レイ・オジーは「ネットが社会の基盤となってきている今日、クラウドサービスをマイクロソフトが提供するのは必然だ。マイクロソフトがクラウドサービスを行うということは、単なるデータセンターをクラウドサービスとして提供するわけではありません。マイクロソフトが持っているさまざまなミドルウェアなどを提供することで、オンプレミスの環境をクラウド上に実現しています。これがなければ、クラウドは単なるサーバーのレンタルと同じです。多くの企業にとっては、自分たちが開発基盤としている、さまざまなミドルウェアがあってこそ、実際にクラウドが利用できるのです」と語っています。

Azureは、企業の社内にあるサーバーとの連携を考えたデザインとなっている
Azureは、単なるホスティングサービスではない。新しいクラウド型のプラットフォームだ。
Azureは、.NETを中核としている。.NETは、クラウドだけでなく、PCやモバイルなどさまざまなデバイスで利用される

 マイクロソフトでは、Azureを作ったからといって、オンプレミスのWindows OSやミドルウェアの開発を止めたり、販売を中止するわけではありません。今後も、Azureと同じように進化させていきます。

 ネットが当たり前のインフラになり始めてきている時代に、オンプレミスのソフトウェアしか提供していないというのは間違っています。また、クラウドが出てきたからといって、オンプレミスのシステムがなくなるわけではありません。こういったことを考えれば、Azureのようにクラウドとオンプレミスをシームレスに接続するサービスが必要になってきたのだと思います。

 もう一つ重要なのは、ネットの登場とともに、さまざまなデジタルデバイスの登場、アクセス方法の多様化(Webブラウザや専用アプリケーションでネットにアクセス)などにより、個人や企業が持つデータをクラウドがハブのように仲介する必要が出てきています。

 レイ・オジーが考えているクラウドは、単なるデータセンターではなく、データをさまざまなデバイスに仲介するインテリジェントなハブをイメージしているのだと思います。そのために、AzureにはLive Servicesといったサービスが用意されています。このサービスを使えば、より簡単にコンピュータ同士を接続していくことができます。こういったサービスを使っていけば、パソコンや携帯電話、新しいデジタルデバイスなどからデータを相互にやり取りできるネットワークが作れるのだと思っています。昨年のPDC 2008で流したAzureのビデオは、多くのユーザーにとっては、Azureでこんなことができるんだとわかりやすいでしょう。


―Azureができたからといって、企業のITシステムをすべてAzureに移行してくれというわけではないんですね。
マイクロソフトが考えるSoftware+Serviceの世界

平野氏
 もちろんそうです。われわれがAzureに移行してほしいといっても、お客さまがAzureにメリットを感じてもらわなければ、Azureは成功しません。また、Azureがあれば、企業のITシステムのすべてがまかなえるわけでもありません。やはり、Azure(クラウド)とオンプレミスのシステムは、併存するのだと思います。クラウドとオンプレミスが協調して、サービスを提供する環境をマイクロソフトでは、Software+Service(S+S)コンセプトで表しています。


開発者にとってのWindows Azureの価値

 実際、多くの企業の内部にオンプレミスのシステムが存在していて、それを廃棄してAzureに移行してほしいとはいえません。また、クラウドに持っていくことが適切なのかどうなのかというデータやシステムもあります。

 マイクロソフトでは、Azureの開発に関して、セキュリティ面では細心の注意をはらっています。しかし、重要なデータを外部に持つということを許していない企業も多いです。また、アプリケーションによっては、リアルタイム性が必要なモノもあります。こういったことを考えれば、クラウド側に持っていくべきシステムとそうでないモノが自然と分かれてくると思います。

―日本の企業でも、さっそくAzureべースの開発をされている企業がありますね。

平野氏
 Azureに関する開発者向けのセミナー「TechDays」の基調講演でJTBとイーストが開発されていた旅行の写真をアルバムにするToripotoというサービスをAzure化しています。このサービスは、当初イーストのサーバーで運用されていたモノをAzureに変更しています。

 また、グレープシティは、自社で運用されている学校法人向けのASPサービスをAzureに移行し、SaaSとして提供を考えていらっしゃいます。

東証コンピュータシステムの構築例

 面白いのは、東証コンピュータシステム(TCS)のサービスです。東京証券取引所が持っている膨大な証券取引に関するログをAzure上のSQL Servicesに保存して、証券会社から参照できるようにするものです。現在、TCSでは、データ量の関係から、各銘柄の株価は、終値などしか参照できません。Azureの膨大なストレージを利用することで、時々刻々と変化する株価データのすべてを保存することで、より詳細な株式チャートを提供することができます。これは、現在のTCSのシステムでは、提供できなかったことです。

 実際には、法令上いろいろハードルがあるため、すぐに実用化されるどうかはわかりませんが、クラウドを利用することで、新しいサービスが構築できるという、良い例だと思います。

 この3社以外にも、多くの企業がAzureに興味をもたれています。われわれも、実際に各社にお邪魔して、いろいろな説明をさせていただいています。その中での感触をいえば、コンセプト的な説明ではなく、実際にAzureはどのくらいのコストになるのか、どう開発するのか、今テストしているが、こういったところでつまずいているというお話が多くなっています。こういったところからも、Azureで実際にサービスを構築していこうと思われている企業が多くなっています。

 特に、ASPなどでサービスを提供されている企業は、Azureを使えば、自社でサーバー運用をしなくて済むようになるため、Azureに関しては非常に積極的です。もっとも、システムを構築したときにマイクロソフトの.NETベースで開発をされていた企業は、それほど苦労なくAzureに移行できるので、率先してAzureを評価されています。

―Azureに関して今後のスケジュールは?

Azureのロードマップ

平野氏
 3月に米国で開催されたMIX 09の直前にAzureのデータベースSQL Data Serviceの仕様が大幅に変更されました。当初のACEモデルからSQLモデルになりました。これは、PDCで公開したCTP版でのフィードバックを受けて大幅に変更されたのだと思います。やはり、開発者にとっては、オンプレミスで開発していたSQLが、そのまま使えるということが、開発効率のアップにつながります。

 また、アンマネージドのコードのサポートもMIX 09のタイミングで行いました。

 今後は、夏あたりにAzureの価格やSLA(サービスレベルアグリーメント)などを発表して、秋から年末には実稼働に入りたいと考えています。

 ただし、現在CPT版で提供しているのは、ファーストレベルのAzureです。OSを含めない仮想マシンだけを貸し出したり、Webサービス化されるOffice 14などを提供する計画もあります。こういった意味では、Azureはまだまだ進化していくのだと思います。





(山本 雅史)

2009/4/24 09:00