Enterprise Watch
連載バックナンバー
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年

中小企業市場を開拓せよ!―“ITの原野”に挑むベンダーたち―

第二回・全社平均を上回る成長率を実現する―日本IBM


 「本気で中堅企業を攻めようとしているな」―日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)の「本気」を感じたのは、2003年1月1日付で、それまでソフトウェア事業を担当していた堀田一芙常務執行役がゼネラル・ビジネス事業担当に就任する人事発表を見た時だった。

 堀田常務は、日本IBMの役員の中で、最も外部向けアピールがうまい。パソコンを担当していたころから「日本IBMの顔」としてパソコン事業を積極的に外部にアピールし、取材、記者会見の場にも積極的に出ていった。ゼネラル・ビジネス事業の前に担当していたソフトウェア事業も、それまではIBMグループ内部での活用が多かったソフトウェア製品の知名度をアップさせることに大きく貢献した。

 その堀田常務がゼネラル・ビジネス事業の担当となったのだ。日本IBMがゼネラル・ビジネス事業の存在感を真剣に外部にアピールしようとしていると見て、間違いない。

 堀田常務自身も、「大変、面白いマーケットだと感じている」とゼネラル・ビジネス事業に手応えを感じているようだ。

 実はこれまでゼネラル・ビジネス事業の担当責任者の年齢は、40歳台だったそうだ。堀田常務の年齢は50歳台後半で、役職も常務執行役である。「私がゼネラル・ビジネスの事業担当となったことは、内外にゼネラル・ビジネス事業へのやる気を見せるという目的があったのではないか」と堀田常務自身も、日本IBM自身がゼネラルビジネスに注力することを示すために、自分が担当となったのだろうと分析する。


最初の1年は発表会よりもユーザー企業訪問に注力

日本IBM 常務執行役員 ゼネラル・ビジネス事業担当、堀田一芙氏
 しかし、意外にも堀田常務には珍しく、就任以降、記者会見は2004年10月に開催した一度だけだった。

 では、堀田常務は何に時間を費やしたのか。それはユーザー企業の経営者への訪問だったという。就任以来、とにかく客先を尋ね、率直な意見を聞いてまわったという。

 「実はこれまでは、直接ユーザーを訪ねて話を聞くという経験はあまりなかった。それだけにユーザーの意見は非情に新鮮で、有意義な声をもらっている」(堀田常務)

 ゼネラル・ビジネス事業とは、直販ではなく、パートナー経由でシステム販売を行う部門。対象となる企業は、直販で取り引きをしている以外の企業となるため、「中小企業」とは呼べない、かなり規模の大きな企業までを対象としている。

 そのため、「中小企業担当ですとあいさつをすると、うちは中小企業じゃないよとおしかりを受けることもある」という。

 だが、「現代のようにインターネットが発達していると、調べる、情報をとることに関しては、企業規模の大小で差が出るわけではない。重要なのは意志決定の速さ。意志決定が速い企業が勝つ時代だ。むしろ、企業規模が小さく小回りがきく、中堅中小企業の方が勝ち組となるチャンスがあるのではないか」と、現代は中堅中小企業の方がビジネス的に優位だと指摘する。


マブチモーターの本社設計管理も日本IBMの事業に

日本IBMが制作したダルマのパネル
 システム販売の際、他社にはない大きな強みとなっているのが、2003年まで堀田常務が担当してきた日本IBM製ソフトウェア、中でも「WebSphere」などのミドルウェア群だ。

 「かつては、ハードウェアを売るためにパートナー企業がもつアプリケーションと組み合わせて販売するというスタイルだったが、今、ビジネスの核となっているのは、ミドルウェアの存在だ。現代のように、パソコンやサーバーは通販を使って購入できる時代となると、ハードとミドルウェアとセットで販売し、『サポートをやってもらうために、どうしても日本IBMのパートナー経由で購入したい』とユーザーに思ってもらう部分を作っていく必要がある」

 ゼネラル・ビジネス事業を担当する前はソフトウェア事業を担当していただけに、堀田常務は自社の強みであるミドルウェアについて精通している。このことも、堀田常務がゼネラルビジネス担当となった背景にあったのだろう。

 ミドルウェア販売のためのエコシステムの構築も実現した。パートナーが販売しやすいように、地域ごとにどのソリューションをどのパートナーが売っていくのか、パターンを決めて販売を行う体制を作り上げたのだ。

 「パートナーとは、密接な連携体制を作り上げた。お互いの営業日誌まで公開し、ベンダーとパートナーとしてではなく、ひとつの会社としてお客さんを攻めていくという体制を作り上げている」

 こうした製品販売を進めていくための体制作りと共に、従来は製品としてなかったものまで販売を始めている。

 「例えば海外向けビジネスを進めていこうとしている企業に対しては、IBM自身の海外向けビジネスを展開するノウハウを提供する。ハードやミドルウェアといった製品だけでなく、売れるものはなんでも売っていく」(堀田常務)

 その顕著な例がマブチモーターが本社を設計する際の設計管理。日本IBMというよりは、建設会社の仕事と思えるような領域だが、日本IBM自身がもっているノウハウを提供するということで実現したビジネスだ。同社がここ数年進めてきたサービス事業への注力を具現化する案件である。

 多くの人にアピールするために、ダルマをモチーフにしたパネルの制作も実施した。

 「このパネルは、お客様が我々に求める、納期がきちんとしていて、壊れないシステムをきちんと持っていることをアピールすることを目的として制作した」(同常務)

 この辺の見て、わかりやすいアピールポイントを作るのは、アピールがうまい堀田常務ならではのセンスとの感がある。


IBM嫌いのユーザーにも愛されるiSeries

 また、日本IBMの中堅・中小企業向けビジネスにとって、欠かせないのがサーバー製品iSeriesの存在だ。

 かつては、「AS/400」という名称だったこの製品は、オフコンという領域にカテゴリーされていた製品だった。他社がオフコンを製品ラインアップからなくしていったにも関わらず、日本IBMは依然としてiSeriesの販売を続けている。これは、根強いiSeriesユーザーがいるからである。

 「日本IBMは嫌いだが、iSeriesが好きだから」と面と向かって堀田常務に宣言したユーザーもいたという。

 「iSeriesを使い続けたことで、IT投資が10倍は安くついたと感謝してくれるお客さんもいた。これだけバリューのある製品を持っていることが他社にはない、最大のイニシアチブといえるのではないか。さらに、そこにミドルウェア製品が加わることで、強力な製品力がそろう」と堀田常務が語ったように、実際、ゼネラル・ビジネス事業の売り上げは、日本IBM全体の成長率5%を上回る伸びを記録しているという。

 2005年、就任2年目を迎える堀田常務としては、この成長率を維持、いや上回っていくことが目標となっていくだろう。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/

関連記事
  ・ 第一回・なぜ、ベンダーは中小企業を目指すのか(2005/01/05)
  ・ 日本IBM、中堅企業を支援する「シニアプロコミュニティー」を立ち上げ(2004/11/17)


( 三浦 優子 )
2005/01/12 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.