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640万事業所を狙え! 激震する小規模事業所市場

最終回・新たなビジネスチャンスを生む会計ソフト


オープン化が会計事務所の世界を変えた

弥生の代表取締役社長、平松庚三氏
 これまで小規模事業所をターゲットとした会計パッケージ「弥生会計」を販売してきた弥生は、本格的に会計事務所/税理士(以下、会計事務所)マーケットに参入。日本デジタル研究所(以下、JDL)、ミロク情報サービス(以下、MJS)に本気で対抗しようとしている。

 弥生の平松社長は、「会計事務所が望んだからこそ、当社も会計事務所向けシステムに着手することを決断した」と話す。

 「会計事務所が望んだ」というのは、前回、紹介したように「会計事務所の顧客である小規模事業所が弥生会計を利用し、それを見た会計事務所が同じ弥生会計を使うようになった。そこで、『こういう機能が欲しい』という声があがったこと」を指す。

 この会計事務所の変化の要因のひとつを、弥生の平松庚三社長は、「会計事務所の世界で利用するコンピュータにも、オープン化が進んだことが影響している」と指摘する。

 「普通の企業では、会計に利用するパソコンも、メール、インターネットに利用するパソコンも同じものを利用する。会計だけ別なハードウェアが必要で、しかも価格が高いなんて納得できないだろう。会計事務所も同じなのではないか。別なハードウェアが必要だということを納得できなくなっているのではないか」(弥生・平松社長)

 かつて、会計事務所向けシステムは、オフコンと同様、専用機であった。前回紹介したように会計事務所で利用する会計システムは、通常の会計システムとは異なり税務のための特別なソフトが必要だったこともあって、長らく専用機の時代が続いてきた。しかし、それにも限界があり、オープン化が始まっていると弥生の平松社長は指摘しているわけだ。

 しかも、前回触れたように会計事務所の顧問先である小規模事業所にもパソコン導入が進んでいる。これに伴い、会計事務所のビジネスモデルも変わりつつある。従来は顧問先に出向いて伝票や帳簿を見て、会計上の問題を指摘するスタイルであったが、今では会計事務所と顧問先である小規模事業所をネットワークで接続。必要なデータはインターネットで送り、わざわざ出向かずに会計指導を行うことも可能になった。

 弥生の提供するMARCHプロジェクトでも、会計事務所が利用するソフト「弥生会計AE」と、顧問先の小規模事業所が利用する「弥生会計CE」と二つのソフトを用意。さらに、データセンターとしての機能も提供し、データのバックアップも含めて、ネットワーク上でデータ連携ができる仕組みを作り上げている。

 秋には、店頭で販売している「弥生会計」と、「弥生会計CE」の2つを統合し、さらに簡単に会計事務所との連携を可能とする計画だ。


会計事務所にとってもプラスとなる小規模事業所の囲い込み

JDL 取締役 マーケティング本部長兼広報担当部長 森崎利直氏
 さらにテクノロジー面の変化だけでなく、会計事務所市場自身の変化も見逃せない。

 昨年、税理士法が改正され、従来のような記帳代行業務だけでは会計事務所の生き残りが難しくなっていることは前回紹介した。現状では、会計事務所の数が激減するといった事態にはなっていないものの、「今後、会計事務所が急増することはあり得ない。会計事務所向けシステムの売り上げが急増するとは考えられない」とどのメーカーも見ている。

 さらに、弥生が指摘するようにオープン化が進んでいけば、会計事務所向けシステムの単価が従来よりも下がる可能性は高い。会計事務所向けソリューションを提供してきたメーカーにとっても、変化が必要な時期に来ている。

 だからこそJDLでは、「会計事務所向けだけでなく、企業も含めた会計マーケットでのシェアナンバー1」という方針を打ち出した。

 「昨年の税理士法の改正で、会計事務所の法人化が認められ、広告宣伝も可能となった。今後、同業の中での競合が激しくなっていくだろう。そうなると、会計事務所としても顧問先の企業の囲い込みが必要となる。だからこそ、小規模事業所の会計ソフトを当社が抑える必要があった」(JDLの取締役 マーケティング本部長兼広報担当部長、森崎利直氏)

 さらに、「ブロードバンドを使い、顧問先と会計事務所をネットワークで結び、頻繁に経営アドバイスをしていくという関係を作り上げれば、ほかとの差別化につながるため、たとえば顧問料を下げて欲しいというようなマイナスの注文はつかなくなる」と、小規模事業所の会計業務のIT化が会計事務所にとってもプラスとなるという見方を示す。

 この顧問先企業のIT化を拡大するために、7月23日には中堅企業向け会計ソフト「JDL IBEX会計」を発売。「JDL IBEX出納帳3」、「JDL IBEX出納帳3カジュアル」よりも規模の大きな事業所をターゲットとしたビジネスもスタートした。「会計分野でのナンバー1」を真剣に狙うための施策に余念がない。


サービス事業への方向転換も

MJS 経営管理部経営企画 広報IRグループ兼e-Japan推進室統括部 吉岡賢司部長
 小規模事業所のIT化は、単に顧問料の問題にとどまらないプラス効果があるという見方もある。

 MJSでは、ミロク・ユニソフトという店頭で販売するパッケージソフト会社のほかに、ASPスタイルで小規模事業所の会計を担うための別会社、ミロクドットコムを2000年に設立している。

 「ミロクドットコムとミロク・ユニソフトは、同じ中小企業がターゲットとなるため、一部競合する部分もある。だが、ミロク・ユニソフトが狙うのは、すでにユニシンク時代の顧客をMJSの会計事務所向けシステムと連動するようにし、利便性をあげることに加え、自社で会計ソフトを導入し、さらに会計事務所との連動を必要とする顧客を増やしていくこと」(MJSの経営管理部経営企画 広報IRグループ兼e-Japan推進室統括部、吉岡賢司部長)だという。

 それに対し、ミロクドットコムがASPで提供するのは、「蓄積したデータをもとに、金融機関と連動していくこと」となる。

 金融機関との連携とは、蓄積された会計データをもとに、小規模事業所などが融資を受けるといったサービスを指す。金融機関では蓄積された会計データによって、その企業の財務状況が把握できるとともに、そのデータが間違いないことを会計士/税理士がお墨付きを与えることで、有望な小規模事業所を発見できるというメリットがある。

 MJSでは、こうした金融機関との連動したサービスをミロク・ユニソフトを利用する小規模事業所向けにも提供していく計画で、「中小企業の経営者にとっては、資金面での悩みはつきない。金融機関にとっても、有望な中小企業ユーザーをどう取りこんでいくのかという悩みをもっている。会計士が仲介役となって、有望な中小企業を金融機関に紹介していくことで、双方の悩みを解決していくことができるようになる」と説明する。

 MJSは新たなサービス事業の進出に積極的で、今年から本格的にスタートする電子申告についても、電子申告の際に必要となる電子証明書を発行するサービスを2003年からスタート。「従来の事業から、サービス事業へのシフト」を視野に入れたビジネス展開を進めている。

 ミロク・ユニソフトの三木社長はこうした動きは、「パッケージソフトメーカーの発想では出てこなかった新事業」として、サービス事業とパッケージソフトの連動が新たなビジネスを作り出すことに期待を寄せる。


会計ソフトが新たなビジネスチャンスを生む

 実は会計ソフトに蓄積されたデータをもとに、金融機関が融資を行うサービスについては、MJS以外の企業も意欲的だ。JDL、MJS同様、会計事務所向けシステムを提供するTKCでは、東京三菱銀行と連携し、2000年から「東京三菱の『TKC戦略経営者ローン』」を提供している。

 弥生でも、あおぞら銀行と提携し、中小規模法人向けファイナンスサービスをスタート。「弥生会計」の導入先を対象として、審査申込から借入申込までをすべてインターネットベースで実施できる第三者保証人不要の無担保ローンを皮切りに、ファイナンスサービス分野への進出を積極的に行う意向だ。

 一方、JDLは、こうした新サービスへの進出を今のところ発表していないものの、会計ソフトをそろえて、「会計事務所経由で顧問先に販売してもらうというサイクルを作ることができる。会計士は企業の経営状況を一番正確に理解できる存在なだけに、会計事務所が紹介した企業が倒産することはほとんどない。会計事務所は販売チャネルとしても、大きな力を持っている」(JDL・森崎取締役)と、会計事務所を積極的に活用していく考えを持っている。

 ただ、JDLが狙う会計事務所が販売チャネルという役割を担うというビジネスについては、「うまくいかないのでは」とMJSでは否定的な見方を示す。「これまでにも会計事務所を販売チャネルとして活用しようという試みが行われてきたが、どれもうまくいってはいない」(ミロク・ユニソフト・三木社長)

 各社で戦略の違いがあるものの、従来型の会計事務所ビジネスが変革期を迎えているという点では意見は一致する。どのメーカーも、この変革期にあわせて新しいビジネスを提案しているのだ。

 第一回の冒頭に書いた通り、会計という業務は、どの企業にも不可欠なもので、会計ソフトのマーケットサイズは大きい。しかも、今回の連載で紹介した通り、会計ソフト業界の変化によって、新しいビジネスチャンスが生まれようとしている。小規模事業所向け会計ソフトを巡る戦いも、まだ新しいスタート段階に過ぎない。新たなサービスの確立を巡り、まだまだ各社の戦いが続いていくだろう。



URL
  株式会社日本デジタル研究所
  http://www.jdl.co.jp/
  株式会社ミロク情報サービス
  http://www.mjs.co.jp/
  株式会社ミロク・ユニソフト
  http://www.miroku-unisoft.co.jp/
  弥生株式会社
  http://www.yayoi-kk.co.jp/

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( 三浦 優子 )
2004/09/01 00:07

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