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マイクロソフト、鳥取県との提携で地域活性化

「鳥取県は情報インフラの利活用が課題」と樋口社長

調印が行われた鳥取県知事公邸
 マイクロソフト株式会社と鳥取県は3月26日、「ICTを活用した地域活性化」に関して提携すると発表した。

 この日、午後1時15分から鳥取県知事公邸で行われた調印式では、マイクロソフトの樋口泰行社長、鳥取県の平井伸治知事、鳥取県教育委員会の中永廣樹教育長が出席。樋口社長は、「地域のもつ可能性を最大限に引き出し、鳥取県の課題解決および豊かな生活ができる地域社会の実現を加速させる」とした。


調印式で覚書にそれぞれサインする3人 調印後に握手する(左から)マイクロソフトの樋口泰行社長、鳥取県の平井伸治知事、鳥取県教育委員会の中永廣樹教育長

3人が調印した協働プログラムに関する覚書 調印に使用されたペンは、県産のひのきで作られた特製

ITベンチャー支援プログラムで採択されたITベンチャー企業関係者
 今回の提携は、鳥取県が10年後の鳥取県の姿を見据え策定した「鳥取県の将来ビジョン」の実現を目指し、ICTの利活用の促進を通して、鳥取県の発展に向け連携するもの。昨年9月から両者が提携に向けた議論を開始し、今回の提携に至った。

 具体的には、鳥取県および鳥取県内の団体と共同で、ITベンチャー支援の「ITベンチャー支援プログラム」のほか、ICTによるNPOの基盤強化支援となる「NPOキャパシティビルディングプログラム」、高齢者のICT利活用支援の「高齢者向けICT利活用促進プログラム」、教員のICT利活用支援を目指す「ICTスキルアップオンライン」、「ICT活用ゲートウェイプログラム」を実施。2010年1月31日までの約1年以内に、持続的に活動できる仕組みを県内につくり、鳥取県内のICT利活用による地域活性化に貢献させるという。

 「ITベンチャー支援プログラム」では、地域産業の活性化を目指し、県内のITベンチャー企業、中小IT企業を対象に協働で支援。県内のIT産業の底上げを目指す。採択企業として、保険商品情報システムを展開するアクシス(坂本直社長)、遠隔ライブコミュニケーション・システム「Dynaroom」を開発したアカデミアシステムズ(鈴木元社長。準採択企業として、ITTR(サチン・チョードリー社長)、LASSIC(西尾知宏社長)を選んだ。いずれも鳥取県内のITベンチャー企業となる。

 また、「NPOキャパシティビルディングプログラム」では、よりよい地域コミュニティづくりを目指し、鳥取県内のNPO法人等を対象に、経営ノウハウやITを身につけ、業務の効率性や効果をより高めるための講座を実施。高齢者向けICT利活用促進プログラム」では、県内の高齢者が広くICTスキルを習得し、生活に役立てることができるよりよい地域コミュニティづくりを目指し、マイクロソフトが制作したICT活用に関する教材を活用し、県内のシニアネットをはじめとするNPO法人などの市民活動団体向けの講師育成研修および高齢者向けICT活用セミナーを実施する。


鳥取県企画部協働連携推進課協働担当の秋元竜主事
 「シニアがシニアに教えるという、教えあいによって、結果として、シニアの間にパソコン利活用を広げていく仕組みを確立したい。5月上旬から講師育成教育を開始し、毎年10人程度の講師を育成したい」(鳥取県企画部協働連携推進課協働担当の秋元竜主事)という。

 教育分野向けの「ICTスキルアップオンライン」では、鳥取県内の小中高校および特別支援学校の教職員を対象に、マイクロソフトとICT教育推進プログラム協議会が共同開発したeラーニング型の教職員向け研修カリキュラムである「ICTスキルアップオンライン」を利用し、実践的なオンライン研修を実施。教職員のICTスキルを高め、授業や校務でのICT活用を推進することにより、児童・生徒の学力の向上を目指す。また、「ICT活用ゲートウェイプログラム」では、ICT教育推進プログラム協議会が提供するICT活用のためのポータルサイトである「ICT活用ゲートウェイ」に、県内の小中高校および特別支援学校の教職員が参加。ICTを活用した先進的な授業例の提供や、授業用のテンプレートなどをダウンロードして入手し、活用できるようにする。

 プログラムの実施にあたっては、各プログラムの実施主体となる県内の団体と連携。セミナーや研修の共催のほか、施設や人員の提供、県内への告知活動を行う。マイクロソフトは、各プログラムの鳥取県内でのセミナーや研修の企画提案および実施、人材育成プログラムの提供、講師の派遣、教材の提供を行うことになる。

 鳥取県は、民間企業の企業市民活動との連携・協働を強化しており、県内にパソコン生産拠点を持つオンキヨーとも、鳥取県地域雇用創造計画「とっとり高度人財『燦然』プラン」において、高度な技術者などの育成を通じた産業集積による持続的雇用の創造を目指し、テクニカルサポート育成事業に取り組むといった動きも出ている。

 今回のマイクロソフトとの提携をきっかけにして、ICT産業の活性化や県民のICT利活用をより推進し、新時代に向かって持続可能な魅力あふれる地域を創り、県民がいきいきと暮らし、次代を担う「ひと」が育つ、「活力 あんしん 鳥取県」の実現を目指すほか、「高付加価値で打って出る産業」への転換を促し、産業活性化、就業環境を整備を目指すという。


鳥取県・平井伸治知事

鳥取県教育委員会・中永廣樹教育長

マイクロソフト・樋口泰行社長
 鳥取県の平井伸治知事は、「産業振興、教育、高齢者に対する福祉、地域福祉といった観点からも、地域の進化にITは不可欠となっている。鳥取県は、県を南北に走る国道9号に沿って高速・大容量の情報ハイウェイを構築し、全市町村を結んでいる。また、教育現場へのPCの整備でもほかの県に比べて進んでいる。さらに、eラーニングの仕組みも早期に導入している。だが、インフラはできたが、利用という観点から中身の促進を図る必要がある。教育分野においても、運用できる人材の養成が必要である。鳥取県では、ケーブルテレビで9割以上の普及率があり、このインフラを利用して、高齢者やNPOの活性化、人材の育成を行うことも可能。さらに、ソフトビジネスの中心は首都圏に集中しているが、鳥取県でも成長の余地があるはず。ソフト産業の育成にもつなげたい」などと語った。

 また、鳥取県教育委員会・中永廣樹教育長は、「鳥取県は、情報教育に力を入れており、小中高校でのPC整備や、教師へのPC整備率では全国トップにある。マイクロソフトとの提携によって、教員のICTスキルを高めて、有効に活用していきたい」などとした。

 マイクロソフトの樋口社長は、「鳥取県は、情報ハイウェイによるインフラ整備が完了しているが、それを十分に利活用できていないことに課題を感じる。利活用ノウハウを蓄積し、これを推進する人材の育成が必要になる。提携が終了する1年後に、利活用をドライブできる、核となる人材を育成できるかが鍵となる。それに対して、マイクロソフトは、育成プログラムの提供や、マーケティングの観点からも支援する」とした。

 マイクロソフトは、過去5年間で、30以上の自治体と企業市民活動で提携。今年に入ってからも佐賀県、高知県との提携を発表している。

 これまでの自治体との提携では、個別のプログラムごとに連携していたケースが多かったが、これまでのノウハウを活用し、複数のプログラムを一括で提供する「地域活性化協働プログラム」としての提携を推進しており、今回の鳥取県との提携でも、複数のプログラムを同時に提供する形としている。

 樋口社長は、「経済環境や企業の業績が、良いときも、悪いときも変わりなく継続的にシチズンシップ活動を行うことが大切。ビル・ゲイツも社会貢献活動を中心とした活動を進めているが、マイクロソフトとしてもビジネス環境とは切り離した形で、毎年、きちっと予算を確保する」として、社会貢献活動への取り組みを継続的に推進していく姿勢を示した。


マイクロソフト執行役常務パブリックセクター担当・大井川和彦氏
 また、自治体との提携を担当する、マイクロソフト執行役常務パブリックセクター担当の大井川和彦氏は、「提携が終了する1年後には、それ以降も継続的に活動が推進できる仕組みの確立が最低限の成果。それをベースにして、ITリテラシーを底上げしたNPOやシニアと、県の努力が組み合わさって、大きな観光ブランドを作るといったような成果が、さまざまな地域で見られることを期待している」などと語った。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/
  鳥取県
  http://www.pref.tottori.lg.jp/
  プレスリリース
  http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3658


( 大河原 克行 )
2009/03/26 16:20

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