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Simplify ITに見るデルのエンジニアリングチームの変化とは?

米Dell技術担当副社長に聞く

 デルが、新たな方針として「Simplify IT(シンプルなIT)」を打ち出している。複雑化するITシステムにおいて、ITをシンプル化することが、ユーザーの課題解決に直結するという考え方だ。この新たな方針によって、デルは大きく変化しようとしている。果たして、デルは、Simplify ITによって、どう変化するのか。エンジニアリングチームのリーダーを務める米Dellエンジニアリング担当副社長のリック・ベッカー氏に、技術的観点から話を聞いた。


米Dellエンジニアリング担当副社長のリック・ベッカー氏
―最近、デルでは、ITの複雑さが弊害となり、ユーザー企業においてさまざまな問題を生み出していることを指摘しています。この弊害とはなにか。その点を改めてお聞かせください。

ベッカー氏
 ひとつめの弊害が、ビジネスにおける経済性という点での弊害です。ITベンダーの多くは、顧客の問題を解決するために、独自の差別化したシステムを提供している。それは、ある意味、ひとつの解決策といえます。だが、同時に課題も出ている。それは、顧客が持っている問題が変わったときに、システムがついていけないという課題です。しかし、標準をベースとしたシステムならば、今までに行った投資や意志決定を無駄にすることなく、次の進化につなげることができる。かつてのように、x86やWindows、Linuxがエンタープライズで利用するのには不安があるという時代はすでに過ぎている。標準システムをベースに考えることが経済性を維持することにつながるのです。

 2つめは、サービスです。ソリューションを導入する上で、サービスの複雑さが弊害になっている。これをプラットフォームに組み込むことで、ITをシンプル化し、複雑さを取り除くことが可能になり、大幅なコスト削減ができる。サーバーの移行にしても、サービスをソリューションとして組み込むことで、複雑さを取り除くことができる。

 そして、3つめには、ムーアの法則で示されているように、プロセッサの処理能力はどんどん上昇し、同じ予算で多くの性能を発揮できる機器を導入することができるというメリットがある一方で、情報システム部門におけるコスト削減が求められており、性能向上にあわせた人材の確保ができない。つまり、システムを管理しきれないという課題がある。これもシステムの複雑性に起因したものだといえます。システム管理をシンプル化することで、複雑性の課題を解決できる。ライフサイクルマネジメントのために仮想化技術を使う、あるいはサーバー統合のために仮想化を使うといったことも管理の複雑性を回避することにつながる。私は、仮想化技術を標準ベースのプラットフォームに組み込むだけでも、ライフサイクルマネジメントにおける複雑性の問題を取り除くことができると考えています。これらは、パートナー企業と一緒になって提案することで、より最適な問題解決が図れると考えています。


―デル自身も、ユーザー企業の一社としてデルの製品を使っていますね。デルを、ITを使用する大規模企業と見た場合、社内的には、まだITの複雑性は残っていますか。

ベッカー氏
 デルの場合、x86による標準環境でシステム構築をしてきましたから、プロプライエタリによって発生する弊害はありません。しかし、シンプル化が終わったのかというと、答えはノーです。これは、長い旅路だと思っていますし、一定のシンプル化を実現しても、もっとシンプル化できないかという取り組みを繰り返し行っていく必要があります。


Simplify IT
―デルが掲げる「Simplify IT(シンプルなIT)」を実現するための構成要素にはどんなものがありますか。

ベッカー氏
 いくつかの要素があります。まず第一に、業界標準であるということです。先にも触れましたが、独自のものはカスタマイズされているため、導入するときには簡単に見えますが、変えたいといったときや保守の際に課題が出てくる。ビジネスが変わったときに適用できるかどうかが課題です。むしろ、その点では複雑になるといえます。費用対効果が高い形でデプロイすることができるのが標準化されたプラットフォームによるメリットです。

 2つめは、統合化されたソリューションに、プラットフォーム、ソフト、サービスを含めてしまうことです。例えば、デルが、OS、ソフト、ソリューション、サービスをひとつのものとして顧客に提供することで、シンプル化を図ることができる。

 3つめは、工場の段階で私たちがソリューションを統合化し、顧客のところに届ける仕組みを提供すること。当社では、CFIという名称でデルが提供する標準品以外の周辺機器の取り付けや設定までを完了した状態で工場から直送する仕組みを用意していますが、これもシンプル化の要素になる。顧客は、電源を入れてインターネットに接続できるようにすればいいだけです。

 4番目は、仮想化の上でサービスも組み込んでしまうという手法です。今、顧客が抱えているのは、サーバーの利用率が30%にも達していないということです。仮想化やシステム管理ノウハウを使い、多くのサーバーを、少ないサーバーで管理していくことが必要です。少ないサーバーに統合することで、複雑さをなくし、管理性を高め、人の確保といった課題も解決でき、稼働率をあげることができるようになる。デルでは、上流となるビジネスコンサルティングについても、焦点を当てた部分においては、積極的に投資していく考えがあります。これも、将来的には、ソリューションのなかに組み込んで提供していくことができるようになる。

 そして、5番目が権限が移譲された知識あるセールス要員の存在。デルが提供できるソリューションを売るのではなく、顧客が必要としているソリューションを提供するセールスチームが、ITのシンプル化には不可欠です。一方、省電力化への取り組みもシンプル化につながるものだといえます。


―省電力化におけるITのシンプル化とは。

ベッカー氏
 サーバーやストレージといったデバイスは、一定の電力を使用するが、そこにおいて、最大限利用率をあげていきたいというのが多くの顧客に共通した考え方です。デルでは、顧客が持つこうした課題において、いくつかの解決策を用意しています。

 ひとつは、コンサルティングサービスです。例えば、データセンターにおけるサーバーの管理だけにとどまらず、空気の流れや冷却システムの管理というように、新たな技術を使って、新たなデータセンターを構築していくことができる。もちろん、既存のデータセンターにおいて、既存の管理手法を使って、電力使用の効率化を図っていくという解決策もあります。

 そして、エナジースマート対応のサーバーを利用していくという手法もある。サーバー、ブレード、ストレージ、プロセッサ、ラック、メモリ、ファンといったさまざまなレベルで効率化を図り、結果としてデータセンター全体での効率化を図ることができるようになる。デルでは、省電力分野におけるエキスパートといえる人物を社内に迎え入れました。エネルギー効率への取り組みは、これからさらに加速していくことになります。


―Simplify ITの方針によって、デルのエンジニアリングチームには変化がありましたか。

ベッカー氏
 まさにさまざまな変化がありました。会社全体がSimplify ITの実現に向けてシフトしています。そのため、すべての組織、すべてのリージョンが変化しています。エンジニアリングチームも、顧客の問題点を理解し、そこで、消費電力、冷却技術の進化、仮想化の問題に取り組んでいる。デルは、何年にもわたって、「ベストバリューのデル」と言われてきましたが、これからは、消費電力、冷却効率に関してもベストバリューであり、さらに、セキュリティという観点でも最高のものを作ることを目指している。

 ソリューションの設計の仕方にも変化がある。ひとつの作業が終わって、次の作業に取り組み、それから顧客の要求を聞いて、また次の技術を組み込むという手法をとってきましたが、今は一度に設計のなかに組み込む手法としている。これにより、短期間で市場にソリューションを提供できるようになりました。


―エンジニアリングチームに求められるスキルにも変化が求められていますか。

ベッカー氏
 いくつかの観点では、新たなスキルが求められています。今までのデルにはなかったスキルが必要になったことで、新たな人を採用して、これをカバーするということもやってきました。また、フォーカスポイントを変えるといったことにも取り組んできた。来年の早い時期に、デルは新たなブレード筐体を投入します。既存のブレードサーバーの設計チームは、ベストバリューで、集積度の高いものを作ることをゴールに、設計に取り組んできました。これに対して、来年投入するブレード筐体は、コスト面や集積度でのベストバリューだけでなく、消費電力においてもベストであること、導入の容易性でもベストであることを追求した。その点では、優れたものが完成したといえます。


2008年初頭に発表予定の新ブレードサーバー
―このエンジニアリングチームのフォーカスポイントの変化は、今年に入ってからですか。

ベッカー氏
 このブレード筐体の開発は、2年以上前から取り組んでいます。Simplify ITは、キャンペーンとしては、ここにきて始まったものですが、それを実現するために、デル社内での変化は2年前から始まっていたといってもいいでしょう。

 2年前と今のエンジニアリングチームの違いを示すならば、2年前には、とにかくベストバリューで、最も安いコストで、製品を作ることに注力していた。しかし、今の私のチームは、顧客のITのシンプル化をお手伝いすることにフォーカスしている。これは大きな違いです。だからといって、ベストバリューを気にしていないわけではない。お客のITのシンプル化を実現するためには、ベストバリューも重要な要素であることをエンジニアリングチームはしっかりと理解しています。


―この2年でエンジニアリングチームは強くなったと。

ベッカー氏
 デルのエンジニアリングチームに対する評価については、長い間、誤解があったと思っています。デルは、とにかく「低コストである」ということを強調してきたために、エンジニアリングチームも強くないのでは、と見られてきた。私は、以前HPに在籍していましたが、そのときに、「デルは自分で開発をしていない」と、デルのエンジニアリングチームを見下していた。それに対して、デルからも特に反論がなかったので、本当にそうだろうと思っていた(笑)。

 だが、デルに入ってみてわかったのは、実際にはそうではないということです。他のITベンダーと同等の強さを持っている。そのチームが、ベストバリューに加え、Simplify ITにフォーカスしていくのです。ブレード筐体は、外から見ると、デルも、富士通も、IBMも、日立も同じに見えるでしょう。しかし、高い集積度が求められ、電力消費や冷却装置についても最新のテクノロジーを使うものであり、中身はまったく違う。ぜひ来年の早い段階に投入するデルの新ブレード筐体に期待してほしい。電力消費、冷却能力、環境配慮、シンプル化という点で大幅な強化を図り、価格的にも満足がいくものになる。業界で最も優れたブレードになるという自信があります。


―これはデルにしか開発できないものなのでしょうか。

ベッカー氏
 私がHPからデルに異動した理由は、顧客に対して「自由」を提供できるという点にあります。顧客との話によって、私が理解していたのは、業界標準の製品であり、統合化されたソリューションであり、かつイノベーションが反映されている。そして、ベストバリューで、価格が抑えられたものが欲しいという点でした。それを実現するためには、どこのベンダーで実現できるのか。一番デルが実現の可能性があると考えました。デルの戦略は、独自のもので縛ったりせずに、業界標準をベースにして、顧客に対して選択の自由を与える。これこそが、ITベンダーにとっても、また、顧客にとっても、最も合理的な仕組みだと考えています。


―デルが目指す次のステップはなんですか。

ベッカー氏
 われわれは、顧客が抱えている問題はなにかということを常に見て、それに対して迅速に動かなくてはなりません。電源効率や冷却効率といった取り組みに加え、バックアップ、リストア、データ保護をはじめとするセキュリティへの取り組み、仮想化技術やIDM(インテリジェントデータマネジメント)への取り組み、そして、システム管理によってデータセンターの複雑さを解決していくことも必要です。今はシステム管理の部分においては、なにができる、これができるというように、大量の情報が飛び交うベンダー間の情報合戦になっている。顧客に対して、ありとあらゆる情報をわたすことに疑問を感じている。当社や当社のパートナーは、必要な情報を顧客に対して提供することを考えていく必要があると思っています。的確な情報を提供することで、どんなシステム管理の効果があるかを提示していきたいですね。

 一方で、今後は、ユニファイドコミュニケーションやVoIP、IP管理に注力していきます。デルは、ハード設計においてはすばらしい技術力を持っています。われわれのエンジニアリングチームは、そのハードウェアプラットフォームの上に乗せるソリューションやソフト、サービスに特化しているチームです。私の頭のなかのほとんどが、ソフトとサービスのことで占められていますよ。Simplify ITの実現には、ソフトおよびサービスの役割が重要ですから、われわれがやらなくてはならないことは、たくさんありますよ。


―日本のユーザーの課題はなんでしょうか。

ベッカー氏
 日本のユーザーへのメッセージとしては、とにかく標準ベースの製品を採用してほしいという点です。これが日本のユーザーのメリットにつながる。つまり、ビジネスニーズや、個人的ニーズが変化したときに、迅速に対応し、その大きな変化に耐えるためには、標準ベースでなければならない。ダイナミックに変化させることができ、柔軟性を持ったIT投資をしてほしい。それと、仮想化技術の利用をもう少し真剣に考えてほしい。それによってIT環境やパソコン環境を簡素化していくことができるからです。Simplify ITは、日本のユーザーにこそ、効果があると思いますよ。



URL
  デル株式会社
  http://www.dell.com/jp/

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( 大河原 克行 )
2007/12/05 00:00

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