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Serial Attached SCSIでも確固たる地位を築くアダプテック


Adaptec本社のワールドワイド・セールス担当副社長でアダプテックジャパン株式会社の社長も兼任しているラス・ジョンソン氏
 SCSIといえばアダプテック。これは誰もが異論のない方程式だろう。そして、時代は移り変わり、SCSIもシリアル転送へと移行しつつある。いわゆるSerial Attached SCSI(以下、SAS)の到来だ。アダプテックは、当然このSASにおいてもパラレルSCSIのときとまったく同じ方程式を成立させようとしている。今回は、Adaptec本社のワールドワイド・セールス担当副社長でアダプテックジャパン株式会社の社長も兼任しているラス・ジョンソン氏に、SASに対するアダプテックの取り組みやSAS製品群の特徴をお聞きした。


Serial Attached SCSIに対応したホストバスアダプタとRAIDカードを投入

 今年11月から12月にかけての時期は、多くのベンダがSAS製品を投入する“SASのビッグバン”と呼ばれている。アダプテックもこのビッグバンに先駆けて、ホストバスアダプタ、RAIDカード、ストレージエンクロージャ、外部ストレージサブシステムといった幅広いSAS製品群を一気に投入してきた。


Adaptec Serial Attached SCSI 48300カードの特徴(出典:アダプテックジャパン株式会社、以下同様)。今回発表された製品はPCI-X版だが、近い将来にはPCI Express版も発表されるとのこと。
 従来のSCSIカードの延長線上にある製品が、ホストバスアダプタのAdaptec Serial Attached SCSI 48300カードだ。8ポートのSASコントローラを搭載しており、内蔵用の4ポートコネクタ(SFF8484)と外付け用の4ポートコネクタ(SFF8470)を1つずつ装備する。これらのコネクタを用いて、ダイレクト接続では最大8台、エクスパンダを使用することで最大16台のSASデバイスを接続できる。パラレルSCSIでは16ビットワイド転送時で15台のSCSIデバイスを接続できることから、ほぼ同等の接続性を確保できると考えてよい。ただし、SASはポートあたり3Gbpsの信号帯域幅を持つことから、それぞれのデバイスに割り当てられる実質的な帯域幅はパラレルSCSIと比べものにならないほど広い。これはSASならではのメリットといえよう。

 なお、このSAS 48300カードには、簡易のRAID機能としてRAID 0、1、10、JBODをサポートしたHostRAIDが搭載されている。これにより、ホストバスアダプタでありながら、ちょっとしたRAIDカード的な使用も可能にしている。拡張インターフェイスにはPCI-Xバス(133MHz動作)を採用しており、32/64ビットPCIバスに装着して使用できる下位互換性も併せ持つ。今回の発表には間に合わなかったが、近い将来にはPCI Express版のSASホストバスアダプタも発表する予定だという。


Adaptec 4800SASおよび4805SAS RAIDカードの特徴。128MBの大容量キャッシュメモリを標準搭載する。基本構成でも主要なRAIDレベルを十分にサポートしているが、後述するAdaptec Advanced Data Protection Suiteの追加によってさらに高度なデータ保護機能を付加できるのが特徴だ。
 そして、本格的なRAID機能を搭載した製品が、Adaptec 4800SASおよび4805SAS RAIDカードである。拡張インターフェイスとして4800SASがPCI-Xバス、4805SASがPCI Expressをそれぞれ採用しているが、それ以外の特徴は共通となっている。SASデバイスを接続するコネクタには、内蔵用の4ポートコネクタ(SFF8484)を2つと外付け用の4ポートコネクタ(SFF8470)を1つ装備する。合計すると12ポートになるが、RAIDコントローラが管理できるのは合計8ポートだ。従って、5ポート以上使用する場合には、2つの内蔵用コネクタを使用するか、内蔵用と外付け用コネクタを1つずつ使用するかのどちらかになる。

 これらのRAIDカードがサポートするRAID機能は、Adaptec RAID Codeが提供するRAID 0、1、5、10、50、JBODである。2TB以上のRAIDボリュームにも対応し、最大512TBのボリュームを作成できる。また、ホットスワップやホットスペアに加え、オンライン容量拡張やRAIDレベルマイグレーションといった便利な機能も備えている。キャッシュメモリとして128MBのECC付きDDR2メモリを標準で搭載しており、オプションのバッテリーバックアップモジュールを追加可能だ。


RAIDカードにさらなる“知能”を与えるAdaptec Advanced Data Protection Suite

 Adaptec 4800SASおよび4805SAS RAIDカードには、「Adaptec Advanced Data Protection Suite」がオプションで用意される。これは、RAIDカードが基本的に持つRAID機能に、いくつかのデータ保護手法を追加するための機能拡張オプションだ。アダプテック製品のRAID機能は、RAIDコントローラとファームウェアによって実現されるが、このうちファームウェアの機能を拡張するのがAdaptec Advanced Data Protection Suiteなのだ。

 ただし、ファームウェアに新機能向けのコードを追加するわけではなく、ファームウェア上にはすでにすべてのコードが含まれた形で出荷されるという。Advanced Data Protection Suiteは、いわばライセンスキーそのものであり、このライセンスキーを用いてアクティベーションを行い、高度なデータ保護機能がアンロックされる形となる。「すべてのお客様がすべての機能を必要としているわけではありませんので、価格性能の面を考慮してキーインの仕組みを取り入れました。まずは基本機能からスタートし、それで足りなくなった段階でAdvanced Data Protection Suiteを導入すればよいでしょう(ジョンソン氏)」。

 RAIDカード単体でもRAID 0、1、5、10、50など、実用的なRAID機能が数多く提供されるが、Advanced Data Protection Suiteを追加することでさらに以下の5つのデータ保護機能が提供される。

  1. ホットスペース(RAID 5EE)
  2. 分散型ミラーリング(RAID 1E)
  3. デュアルドライブ故障保護(RAID 6)
  4. スナップショット・バックアップ
  5. コピーバック・ホットスペア


RAID 5を拡張するホットスペース、RAID 1を拡張する分散型ミラーリング

Adaptec Advanced Data Protection Suiteが提供する5つのデータ保護機能。
 1のホットスペース(RAID 5EE)は、RAID 5向けに用意されたホットスペア用HDDにも分散書き込みを行うことでアクセス性能を高める手法である。通常、ホットスペア用HDDはHDDに障害が発生した際に迅速にRAIDセットを再構築するために用いられる。しかし、裏を返せば、正常稼働時にはホットスペア用HDDが丸々無駄になっていることも意味している。

 そこで、ホットスペースでは、正常稼働時にRAIDボリュームの容量を変えずにホットスペア用HDDも含めた形でRAID 5を構成する。RAID 5のアクセス性能は、RAIDセットを構成するHDDの台数が多ければ多いほど有利になる。つまり、ホットスペア用HDDを含めてRAIDセットを構成することにより、アクセス性能をいくらか高められるわけだ。そして、これらのうち1台に障害が発生したら、残りのHDDでRAIDセットを再構築し、故障したHDDをRAIDセットから完全に切り離す。あとは、故障したHDDを新しいHDDに入れ替え、すべてのHDDに対してホットスペースを再度適用することで元通りに復旧できる。

 2の分散型ミラーリング(RAID 1E)は、奇数台数を含む2台以上のHDD間でミラーリングを行うための手法である。通常、ミラーリングもしくはRAID 1と呼ばれるものは、物理的な2台のHDD間で完全に同期をとっている。これに対し、分散型ミラーリングは、複数のHDDのうち2台にブロック単位でミラーリングを行い、このミラーリングを行うHDDの組み合わせをブロックごとに変えていく。こうすることで、データ自体は必ず2台のHDDに含まれつつ、RAIDセットを構成するHDDの台数を2台以上で自由に決められるようになる。分散型ミラーリングを広義のミラーリングと定めれば、そのうち最小の2台構成時の分散型ミラーリングが従来型のミラーリング(RAID 1)に相当する。


RAIDカードでは珍しいスナップショット・バックアップをサポート

 3のデュアルドライブ故障保護は、RAID 5と同じ分散パリティを採用しながら、パリティを二重にとることで2台までの故障を許容するデータ保護手法である。一般にRAID 6と呼ばれており、このRAID 6の必要性や仕組みについては、筆者の連載「安価&大容量ディスクサブシステムに欠かせないデータ保護技術「RAID 6」」でもすでに取り上げたので参考にしていただきたい。近年、RAID 6を標準でサポートする製品が増える中、アダプテック製品でオプション扱いにした理由をジョンソン氏は次のように答える。

 「現在、すべてのお客様がRAID 6を必要としている状況ではありません。ただし、今後はRAID 6への要求が日々強まっていくでしょう。特にSAS HDDよりも故障率の高いSATA HDDを採用した大容量システムでは、RAID 6による堅固なデータ保護がたいへん役に立ちます。従って、ベンダとしては、RAID 6を必要とするお客様にすぐ対応できる準備だけはしっかりと整えておかなければなりません。そこで、RAID 6をオプション扱いとし、キーインという形でいつでも追加できる体制を用意したのです(ジョンソン氏)」。

 4のスナップショット・バックアップは、RAIDカードが管理しているデータのスナップショットを瞬間的に取得する機能のことだ。これにより、RAIDアレイをオフラインにすることなくテープやその他のディスクにバックアップをとれるようになる。通常、こうした機能はインテリジェンスを備えたNASやミドルレンジ以上のディスクサブシステムに装備されるものだが、拡張スロットに挿すタイプのRAIDカードでもスナップショットをサポートした点はなかなか興味深い。

 5のコピーバック・ホットスペアは、ホットスペア用HDDのドライブスロットを固定する機能だ。ホットスペア用HDDは、一番右側もしくは左側のドライブスロットを指定することが多いが、運用中にHDDが故障してHDDを入れ替えていくうちにホットスペア用HDDの位置も変わってくる。HDDを交換するたびにホットスペアの位置が異なるのは、運用管理上あまり嬉しくない。そこで、コピーバック・ホットスペアでは、故障したHDDを新しいHDDに交換した後、オリジナルの位置にホットスペア用HDDが来るようにRAIDセットの再構築を行う。これにより、どの位置のHDDを何回交換したとしても、常にユーザーが指定した位置にホットスペア用HDDが存在するようになる。


SAS HDDを効率よく搭載するためのディスクエンクロージャにも力を入れる

 アダプテックは、ホストバスアダプタやRAIDカードといった拡張カードだけでなく、SAS HDDを効率よく搭載するためのストレージエンクロージャや外部ストレージサブシステムにも力を入れている。


SAS HDD、SATA/SATA II HDDを搭載可能なストレージエンクロージャ。取り付けには、ハーフハイトの5インチベイを3つ使用する。
 まず、ストレージエンクロージャとしてAdaptec Storage Enclosure 335SASを新たに発表した。335SASは、最大4台のSASもしくはSATA/SATA II HDDを搭載可能なエンクロージャで、前述のホストバスアダプタやRAIDカードとの接続に最適な製品だ。デスクトップPCやサーバー、ワークステーションの5インチベイ(ハーフハイト)×3に組み込んで使用する。拡張ベイの少ない筐体では、CD/DVD系の光学ドライブを内蔵できない可能性が考えられるが、335SASの上部にはスリムタイプの光学ドライブを内蔵できるようになっている。このため、拡張ベイの数がギリギリの筐体では光学ドライブをスリムタイプにすることで、余計な拡張ベイを消費しないですむ。さらに、エンクロージャ管理のSES2規格にも対応しており、上述のアダプテック製品と組み合わせることで本体のLEDによってHDD、温度、ファン故障を通知可能だ。

 現在、Seagate Technologyや富士通から2.5インチのSAS HDDが発売されている。当然、サーバーやワークステーションの筐体に内蔵されるストレージエンクロージャならば、省スペースという観点からも2.5インチHDDに対応した製品が望まれるところだ。「2.5インチHDD向けのストレージエンクロージャもすでにロードマップに入っており、来年の発表を予定しています。5インチベイ×1で4台くらい内蔵できるものを考えています。日本では、特に省スペース、省電力、静音、低発熱といった特徴が求められており、日本のストレージ環境では2.5インチHDDが重要な役割を果たすかもしれません(ジョンソン氏)」。

 もう一つの外部ストレージサブシステムには、Adaptec SANbloc 5000f RAIDサブシステムとAdaptec SANbloc S50 JBODの2種類が発表された。5000fは、ホスト接続インターフェイスとして2GbpsのFibre Channel、HDD用のバックプレーンとしてSASを採用したものだ。2Uラックマウントの筐体に12台のSASまたはSATA HDDを内蔵でき、さらに8台のJBOD筐体を追加することで合計108台(500GB SATA HDD搭載時には54TB)まで拡張可能だ。また、内蔵のRAIDコントローラによってRAID 0、1、5、10、50をサポートし、より便利なデータ保護機能としてスナップショットにも対応する。さらに、管理インターフェイスとして業界標準のSMIS(Storage Management Initiative Specification)に準拠する。SMIS準拠のファームウェアは年末に公開される予定で、これによりSMISに対応した主要なストレージソフトウェアから5000fを直接管理できるようになるという。

 S50 JBODは、ホスト接続インターフェイスとバックプレーンの両方にSASを採用したディスク筐体である。2Uラックマウントの筐体に3.5インチのSASまたはSATA HDDを12台まで内蔵できる。さらに8台の筐体を追加して、合計108台(500GB SATA HDD搭載時には54TB)まで拡張を図れる。原則的には後述するRAIDサブシステムの拡張用筐体として用いられるが、単体で使用することももちろん可能だ。ただし、単体ではRAIDボリュームを構成できないことから、RAIDカードと接続する形が推奨される。「RAIDカードと直結することで、SASの帯域幅を最大限に引き出せるというメリットも同時に生まれます。5000fではFibre Channelによって200MB/secの制限を受けますが、S50 JBODなら合計1200MB/secもの最大データ転送速度を確保できるからです(ジョンソン氏)」。


Adaptec SANbloc 5000f RAIDサブシステムの特徴。2Uラックマウントの筐体に12台の3.5インチHDD(SASまたはSATA/SATA II)を内蔵できる。内蔵のRAIDコントローラによって、RAID 0、1、5、10、50をサポートする。
Adaptec SANbloc S50 JBODの特徴。Adaptec SANbloc 5000f RAIDサブシステムと同様に、2Uラックマウントの筐体に12台の3.5インチHDD(SASまたはSATA/SATA II)を内蔵できる。ホスト接続インターフェイス、バックプレーンともにSASを採用しており、原則的には5000fの拡張用筐体として用いられる。

Serial Attached SCSIの本格的な船出

 「パラレルSCSIの時代には、アダプテックの製品に対する互換性や品質の高さが大きく評価されました。これを可能にしたのが、600台のサーバー、3000台のデバイス、12種類のOSからなる大規模な互換性テストラボです。SASにおいてもパラレルSCSIと同様の互換性テストを行い、お客様の信頼を勝ち得たいと思っています」。

 「また、SASの導入を円滑化するために、リセラー、ホワイトボックス、企業IT担当者の皆様に向けたSASサポートプログラムを展開します。例えば、SAS関連の技術情報を提供するSASエデュケーションセンター、SAS製品を実際に評価していただけるSAS評価キット&スターターキット、経験豊かなストレージエキスパートがお客様の質問にお応えするストレージアドバイザーブログなどを用意することで、まったく新しいテクノロジとなるSASの啓蒙を積極的に行っていきます(以上、ジョンソン氏)」。

 筆者は、姉妹誌のPC Watchを含め、数年前からSASに関する記事を寄稿してきたが、今回のアダプテックの取材を通じてようやく“SASの船出”を実感することができた。長らく待たされたシリアル版のSCSIだが、ついに本格始動といってよさそうだ。



URL
  アダプテックジャパン株式会社
  http://www.adaptec.co.jp/


( 伊勢 雅英 )
2005/12/12 00:00

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