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ブロケードが目指すユーティリティコンピューティングとは? [後編]

~モノリシックデータセンターの実現に向けた道のり~

ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社 代表取締役社長の津村英樹氏
 ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社 代表取締役社長の津村英樹氏に、ブロケードがストレージソフトウェアを投入した理由とブロケードが目指すユーティリティコンピューティング戦略をお聞きした。後編では、モノリシックデータセンターの実現に向けた道のりとして、ブロケードが提唱しているSANの進むべき方向性について解説していく。


SANが現在到達しているのはビジネス継続を実現する4番目のフェーズ

SANの技術トレンド(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。現在到達しているのは4番目のフェーズである。今後は、5~7番目のフェーズに向けてSANは進化していく。
 中編では、メインフレームとオープンシステムの利点を兼ね備えたモノリシックデータセンターの概要を取り上げたが、このモノリシックデータセンターを実現する上でSANの技術進歩が欠かせない。ブロケードは、これまで歩んできた、そしてこれから進化していくべきSANの技術トレンドとして7つのフェーズを提案している。

 1番目は、サーバーおよびストレージコンソリデーションだ。これは、複数のサーバーとストレージをSANで結ぶことにより、ストレージの使用効率を高めるのが狙いである。2番目は、このようにして接続されたシステムを集中管理するフェーズ、3番目は、接続された複数のサーバーとパス切り替えソフトなどを組み合わせてシステムの可用性を高めるフェーズとなる。そして、4番目のフェーズがディザスタリカバリのソリューションを通じてビジネス継続を実現するフェーズで、現時点で実現できているのはここまでだ。

 しかし、現状のSANを調べてみると、実は非常に小さなSANが増えているにすぎない。もし、これらのSANでディザスタリカバリを実現する場合、各SANアイランドで個別に対応しなければならず、莫大なコストがかかってしまう。このような流れから、SANアイランド同士を結んでSAN統合を行う5番目のフェーズが必要になってくる。

 ただし、SANは歴史的にレイヤ2(いわゆるスイッチの階層)で発展してきた背景があり、異なるベンダのSANをいきなり接続すると、きわめて深刻な問題が発生する可能性がある。そこで、ブロケードはBrocade SilkWormマルチプロトコルルータを昨年発表した。このマルチプロトコルルータは、スイッチよりも上位層でデータをやり取りを行う。これにより、スイッチの再構築イベントや障害イベントなどが他のSANアイランドに伝搬することなく、リソースや回線を共有するために必要な情報だけがSANアイランド間を流れる。


低価格サーバーのデータ統合も図れる技術としてiSCSIに注目

 “マルチプロトコル”ルータという名称からも明らかなように、異なるプロトコルへの相互変換とそのルーティングも同時にサポートされる。最も一般的なのはFCIP(Fibre Channel over Internet Protocol)へのゲートウェイであり、これは遠距離にあるリモートサイトへのディザスタリカバリに多く利用される。

 また、最近ではiSCSIも注目のプロトコルだ。Windows/Linuxサーバーの低価格化は著しいが、こうした低価格サーバーにFibre Channelベースのストレージを接続するとなると、Fibre Channel HBAの価格がボトルネックになる。このようなケースでは、安価なEthernetを流用できるiSCSIが役に立つ局面も考えられる。もちろん、厳密にはTOE(TCP Offload Engine)などを搭載した高価なiSCSI HBAを必要とする場合もあり、Fibre Channel HBAとiSCSI HBAを比べたらコスト差はあまりないかもしれない。しかし、いくらかパフォーマンスの低下に目をつむることができれば、安価なLANポートを使用してストレージをすぐに接続できるiSCSIは魅力的な選択肢となりうる。

 「iSCSI用のドライバや相互接続性の問題が解決されれば、iSCSIはこれから一気に普及するのではないでしょうか。よくお客様やメディアの皆様から“iSCSIが普及したらブロケードは困るのではないか?”と心配されることがあるのですが、それは大きな誤りです。ブロケードは、Fibre Channelポートを持たない低価格サーバーまでをデータ統合の対象にできる技術として、iSCSIに大きな期待を寄せています。より大規模なデータ統合を図れれば、それだけSANの市場も広がっていきます。つまり、弊社の製品に対する需要も高まることを意味しています」。

 「ただし、iSCSIがサーバー側のインターフェイスとして普及してきたとしても、ストレージ側までiSCSIで接続する必要はないでしょう。LANスイッチでサーバー側を統合するのは当然ですが、だからといってストレージ側までLANスイッチに接続するのは現実的ではありません。ブロケードのマルチプロトコルルータを間に挟めば、LANスイッチ上のサーバに既存のFibre Channelストレージをそのまま接続できるからです。もちろん、部門で閉じるところではiSCSI接続のストレージを使ってもいいと思いますが、データセンターの中で用いられるミドルレンジ以上のストレージは、従来通りに高速かつ動作も安定したFibre Channelで接続すべきではないでしょうか(以上、津村氏)」。


各拠点のファイルサーバーをデータセンターに集めるTapestry WAFS

5番目のフェーズで実現されるデータ統合(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。データ統合を図る上で、SANアイランド同士の統合とファイルサーバー統合が欠かせない。
 データセンター側のストレージ統合と並んで欠かせないのが、拠点ごとに分散しているファイルサーバーの統合である。中編でも取り上げたように、企業内にあるデータの75%以上はデータセンター外で管理されている。データセンターによる集中管理を実現するには、これらのデータをデータセンター内に移動しなければならない。それを可能にするのがTapestry WAFSと呼ばれるファイルサーバー統合ソリューションだ。

 ファイルサーバーを統合するという観点でいえば、単純にファイルサーバーをデータセンターに置き、WAN回線を経由して直接アクセスすればいい。しかし、Windowsクライアントで通常用いられているCIFSプロトコルはLAN環境のみに最適化されており、帯域幅が狭く、遅延の大きなWAN環境では十分なパフォーマンスを発揮できない。Tapestry WAFSは、WANに最適化された独自プロトコルとキャッシュ技術を採用することで、この問題を解消している。

 具体的には、中央のデータセンター側にコアアプライアンス、各拠点にエッジアプライアンスと呼ばれるゲートウェイ装置を置くことにより、WANを介した中央データセンターへの高速アクセスを可能にしている。多くの環境では、各拠点のファイルサーバーをそのままエッジアプライアンスに置き換えるだけですむため、各拠点でのファイルアクセスに変更がない。つまり、Tapestry WAFSによって大々的にファイルサーバー統合を行ったとしても、各拠点の業務にはまったく影響がないのが大きな利点だ。

 Tapestry WAFSで特徴的なのは、クライアント側のプロトコルとしてCIFSにフォーカスしていることだ(技術的にはUNIX系OS向けのNFSもサポート)。現在、小さな営業所や末端の業務部門で用いられているファイル共有プロトコルの95%はCIFSであるという。従って、CIFSにフォーカスするだけで、ほとんどのファイルサーバーを統合できることになる。コアアプライアンスとエッジアプライアンス間では、SC/IPと呼ばれる独自のプロトコルを使用してファイル転送を行う。SC/IPは圧縮機能もサポートしており、狭帯域のWAN回線をより有効に活用できる。

 Tapestry WAFSのベースとなる技術は、TACIT Software(以下、TACIT)が持っている。ブロケードはTACITと戦略提携を結んでおり、TACITのWAFSソリューションをTapestry WAFSとしてブロケード流にアレンジしているわけだ。他社でもWAFSソリューションを展開しているが、津村氏は、ブロケードがTACITのソリューションを選択した理由としてデータの非同期転送をサポートしている点を挙げた。

 Tapestry WAFSのアプライアンスには、キャッシュ用のHDD(ローカルディスク)が搭載されている。このため、データの読み出しは可能な限りキャッシュから行い、WAN回線によるパフォーマンス劣化を回避する。また、データの書き込みはこのキャッシュに対して行い、クライアントを短時間で開放してあげる。こうすることにより、LAN内に置かれたファイルサーバーに匹敵するアクセス速度を実現している。ただし、データの整合性や一貫性を維持する必要があることから、現在オープン中のファイルを指し示すロック情報などは同期転送でやりとりが行われる。


WAFSソリューションの次に来る技術(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。WAFSソリューションによってNASを統合したら、これらの中にあるデータにもシームレスにアクセスできたほうがいい。それを実現するのがグローバルネームスペースだ。
 さらに、WAFSの次に来る技術として、グローバルネームスペースにも注目しているという。ファイルサーバーをデータセンター側に集めたからには、その中のデータも各拠点からシームレスにアクセスできたほうが望ましい。こうしたNAS統合を図るのが、グローバルネームスペースである。「Tapestry WAFSのアプライアンスにはWindows Storage ServerベースのOSが搭載されていますので、Windowsですでに用意されている分散ファイルシステム(DFS)を活用することでNAS統合を図れます(津村氏)」。


ストレージ仮想化とデータ移行機能を柱とする次世代のSANファブリック

インテリジェントなSANファブリック(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。ストレージ仮想化とデータ移行機能を実装することにより、データのコストを動的に削減していく。
 SANの6番目のフェーズが、インテリジェントなファブリックの形成である。ここでは、5番目のフェーズで統合されたデータに対する動的なコスト削減を目指す。その一つの方法がストレージ仮想化だ。「ストレージ仮想化を通じてストレージの使用効率を現在の50%から80%に高められたとすれば、それだけで投資効率を1.6倍に高められます。今まで無駄にしていたストレージを効率よく使ってあげるだけで、かなりの投資削減効果を見込むことができるのです(津村氏)」。

 ストレージ仮想化は、すでにディスクアレイの中の機能として実用化されているが、データセンター全体でデータ統合を図るためには、より大規模な形でストレージ仮想化を行わなければならない。そこで、ブロケードはスイッチベースでのストレージ仮想化を強く推進している。ただし、自社だけで推進するのではなく、主要なストレージベンダとタッグを組んでいるところが特徴的だ。

 たとえば、富士通のバーチャリゼーションスイッチ「ETERNUS VS900」は、ブロケードのスイッチ技術やSilkWormファブリックアプリケーションプラットフォーム(Fablic AP)をベースとしながらも、その上に載る仮想化ソフトウェアを富士通が開発している。これにより、富士通のミドルウェア製品であるSystemwalker Resource Coordinator V12との連携を実現している。また、EMCの仮想化ソフトウェアソリューション「Invista」は、ブロケードのFablic AP上で動作する。つまり、ブロケードのSilkWormファミリーにEMCのInvistaを追加することで、バーチャリゼーションスイッチに早変わりするわけだ。

 そして、こうしたストレージ仮想化ソリューションを通じてコンポーネントひとつひとつの無駄をなくすと同時に、ITコンポーネントの価格下落をいかにうまく投資削減に結びつけていくかが重要になってくる。サーバーのCPUパフォーマンスやストレージのGB単価は年率で40%以上も下がっており、2年後には同じものが半額以下で買えてしまうのが現状だ。だったら、どんどん新しいハードウェアに乗り換えていった方がいいという考えも出てくるだろう。実際、アメリカの企業ではネットバブル崩壊までの平均リース期間が2年未満だったという。これに対し、日本のリース期間は4年以上と比較的長めだが、それでも年々短縮の傾向にある。


 ここで求められるのが新しいハードウェアへのシステム移行、とりわけストレージの世界では新しいストレージへのデータ移行となる。イメージとしては、業務を通常通りに動かしながらも、知らない間に新しいディスクアレイへとデータが移行しているようなものを指す。データ移行で重要なことは、移行し終えて残った従来のハードウェアをいかに再利用するかである。業務の中には、高いパフォーマンスと可用性を求めるものもあれば、逆に要件が緩いものもある。従って、高いパフォーマンスと可用性を求める業務は積極的に新しいディスクアレイへと移行し、それ以外の業務は従来のディスクアレイを再利用することで、さらなるコスト削減効果を見込めるのだ。

 「同じベンダ製品間のデータ移動は一般的に行われていますが、ブロケードは異なるベンダ製品間のデータ移行に注目しています。Tapestryシリーズの次のラインナップとして、こうしたヘテロジニアスな環境下で動作するデータ移行ユーティリティソフトウェアを計画しているところです。また、データ移行を確実に行うには高度な人的リソースが不可欠です。そこで、ブロケードはブロケード製品に対するサポートサービスやプロフェッショナルサービスなども積極的に立ち上げていきます。ブロケードの社内にSANのノウハウを持ったスタッフを用意し、最初のうちはそのスタッフがインテグレーションやコンサルティングを行ったりします。そして、いずれは技術パートナーと提携を結び、ビジネスの規模を大きく広げていく予定です(津村氏)」。


サーバーとストレージを完全に仮想化したユーティリティコンピューティング環境

7番目のフェーズとなるユーティリティコンピューティング(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。ここではサーバーの仮想化も行われ、アプリケーションの動作に必要なプロセッシングリソースはプロセッシングエレメントの集まりとして取り扱われる。
 最後の7番目のフェーズが、ユーティリティコンピューティングの実現である。データセンターの観点からいえば、モノリシックデータセンターの実現だ。ここでは、6番目で実装されたストレージ仮想化に加え、サーバーの仮想化も実装される。ブレードサーバーの普及が進む今日、サーバーの物理的な台数が増えていくのは目に見えている。このため、ブロケードは、無数に散らばったサーバーをどのように運用管理するかという課題に対して的確な技術提案を行っている。

 そして、その一つの切り口がSAN Bootである。たとえば、何千台もあるサーバーのOSをアップグレードしようとしたとき、物理的に1台ずつ作業するのはたいへんなことだ。LANを通じた集中管理ソリューションもあるが、結局はリモートからそれぞれのサーバーのOSをアップグレードすることに変わりはない。一方、外部ストレージ上にブートイメージを置くSAN Bootを利用すれば、すべてのサーバーはこのブートイメージからシステムを起動する形となる。従って、OSをアップグレードする際には、このブートイメージに対して更新作業を行うだけですむのだ。これは、サーバーを昔でいうところの“端末”の姿に変えるようなものだ。ブロケードの提唱するサーバーの仮想化とは、このSAN Bootをうまく活用しながら、これらの端末化されたサーバーを仮想化し、仮想化されたプロセッシングエレメントをあたかも複数のサーバーがあるかのように業務ごとに割り振る作業を指している。

 そこで、ブロケードは、これらの仮想化されたサーバーとストレージのプロビジョニングを簡素化するために、Tapestry ARM(Application Resource Manager)と呼ばれるソリューションを新たに発表している。「現在、Tapestry ARMはブロケードのパートナーとお客様に対して早期リリースされています。まだお試し版という位置づけにあり、お客様はこのソフトウェアがどのように動くかを検証するために使用している段階です。各方面からのフィードバックを反映し、半年から1年後には正式な製品をリリースしたいと思っています(津村氏)」。


ユーティリティコンピューティングのイメージ(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。
 ブロケードが考えるユーティリティコンピューティングのイメージとは、ストレージ仮想化とデータ移行を組み合わせたストレージグリッド、さらにはアプリケーションリソースのプロビジョニングと仮想マシンモニタリングを組み合わせたコンピューティンググリッドをひとつの集中管理コンソールで管理するというものだ。そして、そこに時間単位でアプリケーションを割り振る機能や過負荷のアプリケーションサーバーに動的にプロセッシングエレメントを割り振るといったエージェント機能を次々と載せていく。さらに、ストレージに対しては、データの重要度や使用頻度に応じてデータの格納場所を移していくILM的なエージェント機能を加えることで、前編でも取り上げた“水道局”のようなモノリシックデータセンターが実現されるのだ。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/

関連記事
  ・ ブロケードが目指すユーティリティコンピューティングとは? [前編](2005/09/07)
  ・ ブロケードが目指すユーティリティコンピューティングとは? [中編](2005/09/12)


( 伊勢 雅英 )
2005/09/22 08:56

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