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HP製品担当マネージャに聞くHP StorageWorks Ultrium960の魅力


 昨年12月16日の記事(日本HP、データ改ざん防止メディア対応など最新規格テープドライブ)でも既報のとおり、日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は高速、大容量のデータ記録可能なテープドライブ「HP StorageWorks Ultrium960 テープドライブ」を発表した。

 HP StorageWorks Ultrium960 テープドライブは、第3世代のLTO Ultrium Generation 3規格に対応した製品だ。今回は、米Hewlett-Packard ネットワークストレージソリューション ニアラインストレージ プロダクトマーケティングマネージャのマイク・ユーエル氏とネットワークストレージソリューション ニアラインOEMビジネスセグメント プロダクトマネージャのサイモン・ワトキンス氏に、HP StorageWorks Ultrium960 テープドライブの特徴やLTO Ultrium規格の今後の動向などをお聞きした。


米Hewlett-Packard ネットワークストレージソリューション ニアラインストレージ プロダクトマーケティングマネージャのマイク・ユーエル氏(写真右)と、ネットワークストレージソリューション ニアラインOEMビジネスセグメント プロダクトマネージャのサイモン・ワトキンス氏(写真左) HP StorageWorks Ultrium960 テープドライブとテープカートリッジ(リライタブルおよびWORMメディア)

第3世代まで到達した1リール方式のテープ規格「LTO Ultrium」

 まず、LTO(Linear Tape-Open)について簡単に整理しておきたい。LTOは、HP、IBM、Certance(旧Seagate Removable Storage Solutions LLC)が1997年に共同開発したオープンな磁気テープ規格である。当初は、大容量アーカイブ、バックアップおよびリカバリ用途に適した1リール方式のUltriumと、低容量ながら高速アクセスが可能な2リール方式のAccelisが発表された。しかし、市場が大容量を重視していることが判明し、最終的にはUltriumのみに統一されることになった。「現在、Accelisは製品のみならず、規格そのものが存在しません(ワトキンス氏)」。

 LTO Ultrium Generation 3は、このLTO Ultriumフォーマットの第3世代にあたるテープ規格だ。第1世代のLTO Ultrium Generation 1は、100GBのネイティブ容量と15MB/secの最大データ転送速度でスタートし、第2世代となるLTO Ultrium Generation 2では、ネイティブ容量が200GB、最大データ転送速度が30MB/secに増大した。さらに、今回発表されたLTO Ultrium Generation 3(以下、Ultrium-3)では、ネイティブ容量が400GB、最大データ転送速度が80MB/secまで到達している。このように、Ultriumは世代ごとに倍々で増え続けている。

 なお、LTO Ultriumの記憶容量やデータ転送速度は、データを2倍に圧縮した状態で表示するのが慣例である。つまり、Ultrium-3ならば、2:1圧縮時には記憶容量が800GB、最大データ転送速度が160MB/secということになる。2.5倍に圧縮できるデータがバックアップ対象ならば、テープカートリッジ1本で1TBのデータを記録できる計算だ。筆者は、古くからこの2:1などという圧縮比の根拠がいまいち理解できずにいたのだが、これに関してユーエル氏は次のように説明してくれた。

 「カタログなどで表示するテープの圧縮比は、ベンダがお客様に対してどのようなコミュニケーションをとるかによって異なってきます。自動車がよい例です。日本では一般道が30~60km/h、高速道路でも80~100km/hという速度制限のもとで自動車を走らせますが、スポーツカーなどでは停止状態から100km/hまでを6秒で到達できるといったような表現でその性能や魅力を伝えようとします。しかし、公道をゆったりと走る一般車に適した表現とはいえないでしょう。テープも同様です。仮に高い圧縮比で表示し、記憶容量やデータ転送速度をより大きく見せたとしても、それが当てはまる人(圧縮率を大きく高めやすいデータを扱うユーザー=自動車でいえばサーキットで走るようなもの)は一部に過ぎません。そこで、HPは多くのお客様のシステム環境でごく一般的に見られる圧縮比を採用しています。通常、こうした環境でのデータ圧縮比は1.5~2:1の間といわれており、弊社は2:1を採用しています」。


Ultra320 SCSIの採用によって圧縮記録時のデータ転送性能を高める

 さて、このUltrium-3を採用したテープドライブは、LTO Ultriumドライブの三大ベンダであるHP、IBM、Certanceからすでに発売されている。HPは「HP StorageWorks Ultrium960 テープドライブ」(以下、Ultrium960)という名称で製品化しているが、いったい他社製品との違いはどこにあるのか。


Ultrium960とIBMおよびCertance製品との比較表
 ユーエル氏は、Ultrium960と他社製品の違いとして、高いデータ転送速度、WORM(Write-Once Read-Many)メディアのサポート、充実した付属品の3点を挙げた。

 まず、データ転送速度だが、テープ規格という観点から捉えた場合、いずれもUltrium-3であるため、非圧縮時のデータ転送速度(最大80MB/sec)はどのベンダの製品でも一緒だ。しかし、ハードウェア圧縮機能を有効にしたとき、すなわち実際のシステム環境でデータのバックアップを行ったときには明確な差が生まれる。これは、サーバーとテープドライブを接続するインターフェイスとして、他社製品がUltra160 SCSIを採用しているのに対し、Ultrium960はUltra320 SCSIを採用していることによる。

 Ultra160 SCSIのデータ転送速度は最大160MB/secなのだが、これはインターフェイスを流れる情報がすべて実データである場合の理論最高値を表している。しかし、実際にはデータと非データ(コマンドやメッセージ、ステータス)が混在していることから、実質的なデータ転送速度は140MB/secあたりで頭打ちとなる。従って、データ圧縮を有効にしてバックアップを行った場合、そのデータ転送速度が140MB/secを超えるレベルにあったとしても、インターフェイス側の制限によってこれを超えることはできない。

 一方のUltrium960は、より高速なUltra320 SCSIを採用している。Ultra320 SCSIは、320MB/secの最大データ転送速度を持つパラレルSCSI規格であり、少なくとも圧縮比2:1のデータ転送速度160MB/secには余裕を持って対応できる。圧縮比をもっと高められるデータが対象ならば、さらに高いデータ転送速度も実現可能だ。Ultra320 SCSIでは、非データの同期転送を可能にするPacketized SCSIを標準サポートしているため、データブロックが十分に大きければ90%くらいの転送効率は実現できる。従って、データの圧縮が十分に効いた場合でも、300MB/sec前後までは問題なく対応できるものと思われる。


データレートマッチングによってシューシャイニングを大幅に軽減

 しかし、テープドライブやインターフェイスが十分に高速であっても、ホスト側が十分な速度のバックアップストリームを送受信できなければ、テープドライブの性能を最大限に引き出すことはできない。従来のテープドライブでは、このようなケースにおいてシューシャイニングが多く発生していた。シューシャイニングとは、高速に移動するテープを一旦停止させ、所定の位置まで巻き戻して読み書きを再開する動作のことだ。その動きが靴磨きにも似ていることからシューシャイニング(shoe-shining)と呼ばれている。シューシャイニングは、データ転送速度を大きく落とすだけでなく、メディアとヘッドの過剰な摩擦によってメディアの損傷も進行させてしまう。

 そこで、HPのUltrium製品は、データレートマッチングと呼ばれる機能によってシューシャイニングの問題を大幅に軽減している。データレートマッチングとは、ホストの転送速度に対してテープドライブの読み書き速度を動的かつ連続的に適応させる機能のことだ。この機能そのものはLTOフォーマットの合意に含まれていないが、HPは第一世代の製品から独自にサポートしている。しかも、業界初でサポートしたのだという。競合他社でも類似の機能をサポートしているが、ユーエル氏は「他社製品の機能は、HPのように動的、連続的に読み書き速度を適応させられるものではありません」と話す。

 Ultrium960は、データレートマッチングの範囲として27~80MB/sec(非圧縮時)をサポートしている。最低27MB/secということは、圧縮比2:1であれば最低54MB/secということだ。Ultrium960を必要とするシステム環境を想定すると、このレベルの最低ラインをサポートしていればシューシャイニングが発生する可能性はかなり低い。一点、懸念するとすればネットワーク経由で他のサーバのバックアップを行うケースだ。このような環境では、バックアップ専用のGigabit Ethernet LANを用意するのが得策といえよう。本稿では具体的なシステム推奨例については触れられないが、Ultrium960の性能を最大限に引き出すためにも、ホスト側のディスク構成、インターフェイス仕様、ネットワークの帯域幅などに十分配慮した方がいい。


電子記録保管の法規制に準拠したWORMメディアをいち早くサポート

 Ultrium960の二つ目の特徴が、WORMメディアをサポートしていることだ。通常のメディアは読み書きを自由に行えるリライタブル仕様だが、WORMメディアは一度記録したデータに対して上書き、消去ができない仕様となっている。これにより、データの改ざんや上書きを防止し、記録データを確実に変更不能な状態で保管できる。こうしたWORMメディアは、米国を中心とした電子記録保管の法規制に対する要件を満たしている。「HPは、Ultrium-3製品の登場にあわせてWORMメディアをいち早くサポートしましたが、競合他社のUltrium-3製品は現時点でWORMメディアをサポートしていません。競合他社は、今後3~6カ月以内にWORMメディアをサポートする見込みだと伝え聞いています(ユーエル氏)」。


Ultrium-3のリライタブルおよびWORMメディア。表面はいずれも黄色だが、裏面はWORMメディアだけが灰色となる。これにより、両者を一目で区別できる
 HPのUltrium-3 WORMメディアは、通常のリライタブルメディアとカートリッジの色を変えてある。リライタブルメディアは表面、裏面ともに黄色だが、WORMメディアは表面が黄色、裏面が灰色のツートンカラーとなっている。「単体ドライブのUltrium960では、取り扱うテープカートリッジの数も少ないため、カートリッジを誤る可能性は低いかもしれません。しかし、大規模テープライブラリにもなると、何百本ものテープカートリッジが収納されます。このため、リライタブルメディアとWORMメディアが混在した環境では、両者の区別が困難になります。HPのテープカートリッジならば、リライタブルメディアとWORMメディアを一目で区別できますので、データを消去できないWORMメディアに誤ってデータを書き込むといったヒューマンエラーを未然に防げます(ユーエル氏)」。

 Ultrium960の三つ目の特徴が、充実した付属品である。通常、テープドライブを購入したら、それ以外にテープカートリッジやバックアップソフトウェア、ケーブルなどを別途購入しなければならない。しかし、Ultrium960には、リライタブルメディアとクリーニングカートリッジ(各1本)、ケーブル、マウントキット、利用制限のない製品版のバックアップソフトウェア、マウントキットなどが付属しており、購入したその日から使用できる“完全ボックス”が提供されている。バックアップソフトウェアは、Yosemite TapeWareもしくはUltrium 960と同時発表となったHP OpenView Storage Data Protector 5.5の両方が同梱しており、好きなものを選択できる。競合他社の製品でもバックアップソフトウェアを付属するケースは増えているが、「そのほとんどは90日の試用版であったり、製品版であってもあまり知られていない製品だったりする(ユーエル氏)」。


LTO Ultriumがシェアを伸ばした理由と今後のロードマップ

 LTO Ultriumとよく比較されるのが、S-DLT(Super DLT)である。S-DLTは、Quantum(2005年1月5日にCertanceを買収)が開発した独自仕様のテープ規格で、LTO Ultriumと同じく2分の1インチ幅のメディアとシングルリール方式そしてリニア記録方式を採用している。LTO UltriumとS-DLTは、同一世代同士で比較すれば容量やデータ転送性能はほぼ拮抗している。少なくとも両者が発売されて間もないころは、“どちらが主流になるのか”という議論が各方面で繰り広げられていた。また、DLT 4000/7000/8000などですでに実績のあるDLT陣営がシェアを獲得するのではないかという強い予測さえあった。

 しかし、実際にふたを開けてみると、LTOのシェアが日を追うごとに拡大している。IDCの最新の調査報告によれば、LTO Ultriumの出荷台数はS-DLTの約3.6倍である。また、LTO Ultriumの大半はオートメーションで使われており、このオートメーション市場に限定するとシェアは6~7倍にまで広がるという。もはや、現時点ではLTOが圧勝といったところだ。ワトキンス氏は、LTOがこれほどまでに成長した理由を次のように説明する。

 「理由は二つあると思います。一つは、LTOがオープンフォーマットを採用していることです。このため、システムベンダやオートメーションのOEMベンダなどから積極的に採用され、シェアを拡大することに成功しました。もう一つは、それぞれの世代がスケジュールどおりに発表されていることです。過去の実績によれば、2年前後で一世代進んでいます。そして、約束通りに第3世代のUltrium-3も発表されました。さらに、第4世代のLTO Ultirum Generation 4(ネイティブ記憶容量800GB、最大データ転送速度120MB/sec)も開発中です。このように、当初決められたとおりに製品化が進んでいるのがLTOの姿であり、それがOEMベンダやお客様に対する高い信頼につながったのだと思います」。

 なお、米国時間2004年12月14日には、HP、IBM、CertanceからなるLTO TPC(Technology Provider Companies)より、第5世代、第6世代のロードマップも発表された。すでに開発が進行している第4世代と同じように、第5世代、第6世代でも記憶容量は倍増していく見込みだ。また、データ転送速度も50%ずつ向上していく。非圧縮時の記憶容量と最大データ転送速度は、第5世代が1.6TB、180MB/sec、第6世代が3.2TB、270MB/secとなる。これらの発表時期は未定だが、ユーエル氏は「第1~3世代のときの発表間隔、すなわち約2年ごとに一世代進むという流れは今後も変わらないと思う」と話す。


LTO Ultriumのロードマップ。昨年12月に第5世代、第6世代が追加された


URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/
  Certance, HP and IBM - the three technology provider companies (TPCs) for the LTO (Linear Tape-Open) Program、LTO Program Extends Roadmap to Generation 5 and 6
  http://www.ultrium.com/newsite/html/news_12_14_04.html
  伊勢雅英のIT見聞録「第2回 最近のSCSIについて思うこと」(PC Watch:2003/5/30)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0530/it002.htm

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  ・ 日本HP、データ改ざん防止メディア対応など最新規格テープドライブ(2004/12/16)


( 伊勢 雅英 )
2005/01/24 00:00

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