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次世代ネットワークConverged Enhanced Ethernetとは何か?【第三回】

Converged Enhanced EthernetとEthernetの違い・その1

 前回は、I/OネットワークとLANを統合する次世代ネットワークに求められる姿と、その次世代ネットワークとして、Ethernetを拡張したConverged Enhanced Ethernet(CEE)が支持を集めていることを説明した。今回は、次世代ネットワークに求められる要件をCEEがどう実装しているのかを、具体的に見ていこう。


ネットワークサービスの質の違いをどう制御するか?

 これまで、I/OネットワークとLANには異なる要求があると書いてきた。それらの異なる品質に対する要求を、Quality Of Service(QoS)と呼ぶ。またI/Oネットワークでは、QoSに対して帯域制御とともに、「フレームドロップを起こさない」「フレームの順序配信保証」ということが実際に求められる。これらの異なるサービス要求を実現するには、どのような技術が必要であろうか。

 まず考えられるのは物理的な1本のケーブルを複数の仮想ワイヤとみなし、それぞれの仮想ワイヤ上に異なるサービスをマッピングするという方法で、トンネリングに近いイメージである。IPの世界では、これらは主に下記の仕組みを使い実装されている。

 (1)Multi Protocol Label Switching(MPLS)
 (2)Differentiated Services(DiffServ)
 (3)ReSerVation Protocol(RSVP)
 (4)Subnet Bandwidth Management(SBM)

 MPLSは主にバックボーンネットワーク内で使用され、付与されるラベルをもとにパケットを転送する技術である。また、DiffServはルーティングインフラ内での優先制御に使用される技術だ。この技術では、優先度の異なるサービスクラスをあらかじめ設定しておき、クラスごとにサービスを差別化するために使用される。

 RSVPとSBMはエンドポイントとルータ間の帯域設定に関する技術である。これらの通り、仮想ワイヤを実現する方法はレイヤに応じてさまざまな方式があるが、何らかの識別子を用いてトラフィックを分類するという点は同じである。これらの、タグなどを利用して帯域制御をする仕組みを、トラフィックエンジニアリングと呼ぶ。

 Ethernetでは似たようなQoS管理方式はあるであろうか。キャリアイーサネットではこの部分がまさに問題になっており、Next Generation Ethernet(100Gbps Ethernet)ではEthernet QoSとして検討が進んでいるが、ITに関する部分ではVLANタグ以外には似たような技術はない。そこでConverged Enhanced Ethernet(CEE)では既存のEthernetを拡張し、QoSに対応できる仕組みを取り入れている。


サービス品質に対する要求をどう扱うのか

【図1】IEEE 802.3X PAUSEオプション
 CEEではQoSに関連する標準として以下の2つが提案されている。

 (1)Priority-based Flow Control(PFC:IEEE 802.1Qbb)
 (2)Enhanced Transmission Control(ETS:IEEE 802.1Qaz)

 これらは、I/OやLANトラフィックのフローを分類し、それぞれのサービス要求のうち帯域制御にまつわる部分を制御するためのものである。ただしこの2つの技術は、直接トラフィックエンジニアリングを行うためのものではなく、あくまでバッファオーバーフローを起こさないようなフロー制御の仕組みである。

 PFCは前回触れたフロー制御にまつわる部分の規定である。I/Oネットワークのフロー制御はBuffer-to-Buffer Credit(BB Credit)というフレームバッファの個数により制御されている。相手側のポートが受信できる以上のフレームを送らないのでバッファオーバーフローを起こさないという利点がある。

 それに対し、Gigabit Ethernet(GbE)もしくは10GbEでは、フロー制御はPAUSEフレームによる制御方式を採用している(IEEE 802.3X)。ネットワーク上に滞留している、帯域遅延積(RWin)分のトラフィックを受信できる分だけのバッファ量を持っていない場合、受信側ポートは、マルチキャストフレームでPAUSEフレームを送信する。このフレームにはPAUSEを継続する時間が設定されている。PAUSEフレームを受信した側(もともとのフローの送信元)は、いったん送信を中断する。これにより受信側のフレームバッファがあくことを期待するわけである。BB Creditとの動作の違いは、BB Creditの場合クレジットを増加させるような相互作用(R_RDY プリミティブ)の交換がない限り送信は再開されないが、PAUSEの場合、タイマが切れると送信側が自発的に送信を再開するところである。

 PAUSEによる実装でもBB Creditによる実装でも、単一のバッファで制御している限り、PAUSEの受信やBB Creditの枯渇でトラフィック全体に影響することには変わりはない。そこで仮想ワイヤの概念が登場する。仮想ワイヤごとにバッファを持ち、フロー制御すれば、特定のフローの輻輳(ふくそう)による影響が、ほかのフローに影響を与えにくくすることができる。PFUは、概念上この仮想ワイヤに類似した仕組みで、実際の動作としては、送受信キューを複数持ち、複数のサービス要求を持つトラフィックをマッピングする仕組みである。

 PFCでは8個のプライオリティがあり、I/OやLANなどのトラフィックは、これらのプライオリティのどれかにマッピングされる。特定のフローでの輻輳(ふくそう)が発生した場合、受信側ポートは輻輳(ふくそう)の発生したプライオリティを指定する形でPAUSEを送信する。指定されたプライオリティ以外の通信はそのまま可能である。


【図2】PFCの概念 【図3】PAUSEフレームの構造

【図4】PFCの動作
 PFCはリンク単位で行われる。ある受信ポートにおいて、特定のプライオリティのバッファ使用率がしきい値を超えた場合、受信ポートは対向のポートのみ(エンドトゥエンドではなく)にマルチキャストのPFC PAUSEフレームを送信する。PFC PAUSEフレームはほかのポートには転送されない。もし、PFC PAUSEの結果、さらに、別の受信ポートで特定プライオリティのバッファ使用率がしきい値を超えた場合、そのポートがさらに対向のポートにPFC PAUSEを送信するという動作になる。動作はFCのBB Creditの場合の動作と同様、対向ポート間でのやり取りである。

 このように、PFCでフロー制御をプライオリティ単位で行う仕組みのベースは定義されたが、これだけではフロー間の優先順位や帯域ポリシーが決まっていないため、QoS実現の仕組みとしてはまだ不十分である。そこでETSが登場する。ETSはプライオリティ間の帯域使用ポリシーを規定したものである。プライオリティはETSが規定するプライオリティグループにマッピングされ、ETSでは0~15までの16のプライオリティグループが規定されている(8から14までは予約されている)。

 このプライオリティグループにさまざまな上位レイヤをマッピングする。マッピング方法はドライバなどにより異なるが、レイヤ3を単純にマッピングする方法もあるだろうし、レイヤ4以上の属性を利用してマッピングすることもできるであろう。いずれにしても、CEEのETSでは、プライオリティグループとプライオリティしか見ないため、QoSマップ自体には関与しない。


【図5】ETSの概念
 ETSの動作概念は図5の通りである。プライオリティグループ 15にアサインされたトラフィックは、最優先のトラフィックとして処理される。これは通常、CEEファブリック内の通信や、IPC(Inter-Process Communication)などの低遅延性を要求するプロトコルが使用することになるであろう。残りの帯域はそれぞれのプライオリティグループにアサインされ、同じグループ内で発生した、異なるプライオリティ間で帯域が共有される。


 次回はCEEの、残り3つの特徴を解説する。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/

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( ブロケードコミュニケーションズシステムズ )
2008/12/04 08:51

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