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次世代ネットワークConverged Enhanced Ethernetとは何か?【第二回】

TCP/IPネットワークとI/Oネットワークを統合するための課題

 前回は、3種類の異なるネットワークがあることと、そのうち2つのネットワークを統合することのメリットについて触れた。今回は、その統合にあたって、解決しなくてはいけない課題が何なのかを説明する。


TCP/IPネットワークとI/Oネットワークとの違い

 TCP/IPによるネットワークとI/Oネットワークの差については、下記のように基盤とする技術に大きな違いがある。

(1)低位レイヤの高い信頼性
 I/Oネットワークでは、符号化やフロー制御の工夫により低位レイヤにおける信頼性を向上させ、手順簡素化を実現している。

(2)性能(低遅延性)
 I/Oネットワークでは高い信頼性があるため、極力手順を簡素化し、低遅延を実現している。

 極めて低レイヤの例えではあるが、CPU-キャッシュメモリ間のトランザクションを例にとると、ここでは、書き込みや読み込みに際して、誤り訂正のプロトコルは特に決められていない(ECCなどの技術を用いてデータを保護することはできるが)。同様にクラスタ間のメモリチャネルやディスクI/Oも、エンドトゥエンドでの誤り訂正の仕組みはない。送信されたフレームは、エラーなしに相手側に届くということが暗黙の前提になっているのだ。

 I/Oネットワークではエラー回復を上位レイヤに任せているので、フレームの損失は致命的である。そこで、フレーム損失が起こらないような工夫がされていたり、品質を上げる仕組みが実装されたりしている。Fibre Channel(FC)やGigabit Ethernet(GbE)が実装している8b/10b符号化は、まさにその実装の1つである。これは8ビットのデータを2ビット分冗長化し、クロックとデータを送る方式で、25%の符号化損が発生するが、ビットエラー率は小さく抑えることができる。このほか、PCI-Expressや8Gbps以上のFCでは、データスクランブルをかけることでビット間のみならずフレーム間のビット関連性を下げ、EMI(電磁干渉)の影響を小さくし、ビットエラー率を下げようとする実装も取り入れられている。


【図1】BB Creditによるフロー制御
 また、フレーム損失を抑止するフロー制御としては、InfiniBandやFCが持っているBuffer-to-Buffer Credit(BB Credit)という仕組みもある。BB Creditでは、デバイスと、それが接続されているスイッチのポートとの間で、互いに持っているフレームバッファの個数を交換している。このため、常に相手側ポートが受信できるだけのデータしか送付しない。つまり、輻輳(ふくそう)によるフレーム棄却は起こりえない。

 この通り、I/Oネットワークの信頼性は、システムの可用性に直接影響を与えるため、非常に高い信頼性を確保するための仕組みが、導入されている必要がある。


IPでI/Oネットワークを統合する際の問題点

 こうした点を踏まえつつ、広義のI/OネットワークやクラスタインターコネクトとLANのアダプタを統一する試みは、過去もなされてきた。ストレージ接続を、LANアダプタを使用して行う試みの代表格は、なんといってもiSCSIである。ご存じの通り、SCSIをIPにマッピングしたストレージプロトコルである。また、クラスタインターコネクトをIPにマッピングする試みは、iWARPなどが挙げられる。

 IPは、データ伝送をエンドトゥエンドで保証しないという点で、I/Oネットワークと近いが、I/Oネットワークと異なり、信頼性が確保されているわけではない。また、TCPやUDPなどの上位層が前提であるため、I/Oネットワーク向けの、別の上位層の開発を行う中では、装置コストが高くなる恐れがある。もともとTCPは回線品質などに依存せず通信を行うためのプロトコルであるので、品質がよいという前提のネットワーク上では、効率がいいというわけではないからである。

 IPでI/Oネットワークを統合する際の問題点は下記の通りになる。

 (1)パケットのロストがある。
 (2)パケットの順序配信保証がない。
 (3)一定量の送信ごとに必ずエンドトゥエンドのAcknowledgeが必要なため、レイテンシによってはワイヤレートが出ない。
 (4)CPUによるメモリコピーが複数回発生するため、オーバーヘッドが大きい(Offload Engineによって削減可能)。


I/Oネットワーク統合のためには「進化」が必要

 また信頼性に加えて、I/Oネットワークには、多くのインテリジェントサービスが必要になることが、問題として挙げられる。FCとは関係ない例ではあるが、インテリジェントサービスのわかりやすい例としては、USBがある。Windows XP/VistaのPCでは、USBポートにUSBメモリを挿すと、OSが自動的にデバイスを発見し、ユーザーに通知する仕組みが備わっている。ユーザーは特になんの設定もしていないのにである。これと同様に、FCにもデバイス追加を通知するインテリジェントサービスが備わっている。

 ところが、IP-SANで利用されるiSCSIでは、iSCSIストレージをLANのどこかに接続しても、ユーザーは何もわからない。もちろん、iSCSIでもネームサービスなどはあるのだが、設定しないと使用できない。このように、I/Oネットワークを利用しやすくするためにはインテリジェントサービスが必須であるが、こうしたサービスを最初から構築するのは、相互接続性という意味で大変難しい。

 さらに一般的なI/Oネットワークでは、ファブリックサービスに対する能動的なアクセスだけでなく、ファブリックサービス側からのコールバックメカニズムも必要になるなど、複雑な要素が多数存在する。したがって、従来のインテリジェントサービスがそのまま使用できるということは一番重要な技術要件である。


 ここまで見てきたように、I/OネットワークをLANと統合するためには、現状のネットワークでは十分とはいえず、ネットワーク自身の「進化」が求められる。例えば、レイヤ1/2に位置するEthernetより上位のプロトコルでこれらの仕組みを取り入れるには、上位プロトコル自体が、ここまで紹介してきたような特徴を取り入れなければならない。これはあまりにも無駄が多い。したがって現在では、Ethernetを統合ネットワークの基盤として検討しているところで、とりわけ、すでに実現されている8Gbps FCよりも高速な10GbEを使用し、これを拡張する提案が支持を受けている。それこそが、Converged Enhanced Ethernet(CEE)である。

 次回からは、CEEの技術的な特性について、具体的に説明する。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/

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( ブロケードコミュニケーションズシステムズ )
2008/11/27 09:00

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