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次世代ネットワークConverged Enhanced Ethernetとは何か?【第一回】

異なるネットワークを統合するメリット

 Converged Enhanced Ethernet(CEE)という言葉を耳にされたことはないだろうか? これは、特にデータセンターでの使用をイメージして既存のEthernetを拡張した、次世代のネットワークのことである。この特集では、今回から5回に分けて、CEEとはどういったものか、なぜCEEが必要とされるのか、といった点を紹介する。


身近にある3種類のネットワーク

【図1】3種類のネットワークの概要
 サーバーシステムを構築した経験を持つ方はお分かりいただけるかと思うが、サーバーには多くのインターフェイスが搭載されている。少し見ただけで、以下のような種類があるのではないだろうか。

(1)LAN/WAN
 現在はGigabit Ethernet(GbE)が主流だが、過去はFDDI、Token Ringなどが存在した。また、今後は10GbEなども増加してくると考えられる。

(2)ストレージ接続用
 大規模向けではFibre Channel(FC)、中規模以下向けではSASなどのインターフェイスがある。FC SANは、もちろん、I/Oネットワークの代表である。

(3)それ以外
 オープンシステムで存在するそのほかのインターフェイスは、クラスタインターコネクト用だろう。MyrinetやInfiniBandなどが存在するこのカテゴリで取り扱うプロトコルは、メモリ間通信などのInter Process Communication用途が多いため、広義のI/Oネットワークといえる。

 このように、インターフェイスには3つの種類があるが、ネットワークも、3種類がそれぞれ別々に存在しているのである。


ネットワーク統合によるメリットは?

【図2】ネットワーク統合によるメリット。スイッチやアダプタの数を半減できる
 インターフェイスの種類の多さは、配線の複雑さだけでなく、接続されるスイッチの種類の多さにも影響を与え、所有コストや管理コストの増大を招く。LAN接続用ケーブルは、現在のところ、ツイストペア線を使用したものが主流である。一方、ストレージ接続用のケーブルは、FCでは2芯のマルチモード光ファイバを使用することが多い。ストレージの場合、FC以外にもSASやeSATAがあるため、ケーブリングは頭が痛い内容である。

 もしこれらのインターフェイスやケーブルが統一されたら、少なくともLANとストレージのアダプタが統一されたら、ケーブリングで頭を悩ますことも半分は削減されることになるわけである。もちろん、上位プロトコルの設定は残るが、物理コストが削減されるだけでもメリットは大きい。このネットワーク統合のインフラとして期待されているのが、今回から紹介するCEEである。

 統合のメリットとしては、まず、物理インターフェイスを統合することによって、購入コスト(所有コスト)の低減が見込めるほか、消費電力、熱量、二酸化炭素排出量が削減できる。また、同一なインフラとして管理することで管理コストを低減できる点も大きなメリットといえる。

 ここでは例として、100台のサーバーファームを想定して試算した。ネットワーク部分は冗長化され、サーバーはすべてアダプタを拡張したものとする。10GBASE-Tのネットワークインターフェイスカード(NIC)と、8Gbps FCのホストバスアダプタ(HBA)の消費電力はそれぞれ15W、6Wであり、200ポート程度の低消費電力型10GbEスイッチと、一般的な8Gbps FCスイッチの消費電力は、それぞれ1500W、800W程度であるから、統合前のI/OネットワークとLANは、合計して約8800Wの消費電力となる。

 これに対してCEEのCNA(次世代統合型ネットワークアダプタ)は7W、CEEスイッチは1000W程度の消費電力と仮定して、3400W程度の消費電力になる。ネットワークの統合により実に6割強の消費電力が削減されることになる。つまり年間約17.9トンもの二酸化炭素排出を抑制することになる。


統合前
種類
台数
1枚(台)あたりの消費電力
総消費電力
10GbE NIC
200枚
15W
3000W
10GbE スイッチ(シャーシ型)
2台
1500W
3000W
8Gbps FC HBA
200枚
6W
1200W
8Gbps FCスイッチ(シャーシ型)
2台
800W
1600W
総計:8800W


統合後
種類
台数
1枚(台)あたりの消費電力
総消費電力
CEE CNA
200枚
7W
1400W
CEE スイッチ
2台
1000W
2000W
総計:3400W


 加えて、既存の設備との相互接続が可能であれば、既存の投資は保護される。ネットワークインフラのみ新規投資することで、デバイスは再利用可能であるし、ビジネスアプリケーションの変更もしなくて済むからだ。


統合によるメリットとデメリットは?

 それでは、上記のメリットは誰が享受できるのだろうか。ネットワークインフラが単純化されるため、CIOはコストダウンという点でメリットを享受できるだろう。日本ではあまり多くないであろうが、サーバー資産の管理者にとっても、サーバーシステムの調達コストが下がるというメリットは得られるのではないだろうか。

 一方、インフラを変えることによるデメリットはないのだろうか? まず考えられるのは、ネットワーク統合による潜在的な性能ダウンだろうが、現在のネットワーク技術は既に単一アプリケーション、言い換えると「単一の仮想マシン」では使いきれないほどの帯域幅を実現しているため、事実上問題はないだろう。

 管理面では、CEEでは、上位プロトコルを変更しないという前提があるため、ドライバソフトウェアはほとんど従来のものと変わらない。IPやFCは既存のサービスがそのまま使用できる。したがって、サーバー基盤の管理者が設定などの運用を変える必要はなく、そこでの影響は小さい。

 ストレージ管理者はどうであろうか。理想としては、統合されたネットワークをまったく意識せずに済めばよいのだが、実際には障害判別ではCEEに統合化されたネットワークデバイスの面倒を見ることになるため、障害切り分けを含めた、若干の運用変更が発生するであろうことは想像できる。

 おそらく最も影響を受けるのはネットワーク管理者であろう。主要な通信プロトコルであるIPをほかの基盤技術と統合するため、ネットワーク設計のポリシーを変更しないといけない部分も出てくる可能性があるからである。

 また、以下のような問題も考えられるだろう。

 (1)ネットワークを統合することによる、政治的なあつれき
 (2)ネットワークを統合することによる、障害判別の一次切り分けプロセスの追加

 いつでも新技術導入者が乗り越えなくてはいけない大きな要素は、組織間のパワーバランスとプロセスなのである。


 このように、変更による影響ももちろんあるが、統合後の管理面などを考えれば、導入する価値は十分あると考えられる。実際の普及は、こうしたメリットとデメリットをはかりに掛けて、進んでいくことになるのではないだろうか。

 次回は、TCP/IPネットワークとI/Oネットワークとの違いや、両ネットワークを統合するための課題について説明する。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/

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( ブロケードコミュニケーションズシステムズ )
2008/11/20 08:59

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