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SMBでもiSCSIは使えるか?-新発想ストレージ「HP AiO」を試す【後編】



 前回は「HP StorageWorks All-in-One Storage System(以下、AiO)」の概要と、設定の簡単さなどを紹介した。後編ではそれに引き続き、AiOがどういったユーザーに向くのか、導入時にどういったことに注意すればいいのか、といった点について紹介する。


Windows Serverの管理者なら管理可能なストレージ

本来であれば管理者自身で設定する必要があるこのようなiSCSI関連の設定も自動化されているため、ユーザーが自ら行う必要はない
 AiO自身はIAサーバーベースのハードウェアの上で、Windows Storage Server 2003をOSとして使用している。Windows Storage Serverは、Windows Serverをベースとして、ストレージ専用の組み込みOSとして構成されているので、Windows OSが搭載しているiSCSIソフトウェアイニシエータとは、きちんとした互換性が保たれている。このため、ターゲットのサーバーがWindows Serverであれば、ほとんどトラブルなく接続できる。

 接続したときにトラブルがほとんどないという点は、専門のストレージ管理者などがいない会社やオフィスにおいては大きなメリットになる。FCのように複雑なチューニングや設定も、ほとんど必要ない。また、AiOがOSとしてWindows Serverと同じコードのWindows Storage Serverを利用していることから、複雑な設定を行わなくても、Windows環境でiSCSIが動作させられるのだ。またサーバーからは、このiSCSIのソフトウェアイニシエータを利用して、仮想的な内蔵ドライブとして扱うことができるため、サーバー側のアプリケーションを大幅に変更する必要はない。

 このような特徴を持っているため、実際に使ってみると、AiOはWindowsの基本的な操作ができれば、ネットワークストレージとして利用できると感じた。ほとんどの設定は、管理コンソールからウィザードで行え、iSCSIの仕組みなどを理解していなくても大丈夫。移行するデータをチェックして、RAIDレベルやドライブのパーテショニングなどを、AiOが自動的に行ってくれる。Windows Serverの管理を行っている人なら、十分にAiOを使いこなせるだろう。


ネットワーク設計が重要

iSCSI向けのネットワークと一般LAN向けのネットワークは分けることが推奨される
 AiOのようなストレージシステムを導入するときに、一番考えておかなければならないのがネットワーク設計だろう。AiOが利用されるシーンを考えれば、FCなどの本格的なストレージネットワークほどではないが、ある程度のトラフィックを考える必要がある。

 Exchange ServerやSQL Serverが動作しているサーバーのストレージとして利用するには、iSCSIを用いる。iSCSIは、通常の社内LAN上でも動かすことができるが、大量のデータがやりとりされるということを考えれば、サーバーとAiO間は、社内LANとは別のストレージ用ネットワークを構築すべきだろう。

 ストレージ用ネットワークというと大げさに聞こえるが、iSCSIが使われているため、通常のGigabit Ethernet(GbE)スイッチで十分。サーバーとAiO自体は、多くの場合、同じサーバールームにあるため、それほどネットワークの設置に手間取ることもないだろう。

 ただ、サーバーとAiO間では、大量のデータがやりとりされることになるのだから、ネットワーク関連の処理が高速化できるTCP/IP Offload Engineを搭載したネットワークカードを用意した方が、さらに効率が良くなる(AiOは標準搭載)。できれば、日本HPのネットワークカードのように、複数のGbEを仮想的に1本のネットワークにまとめる「チーミング機能」などがあるとさらに便利だろう。

 また前述したようにAiOは、Exchange ServerやSQL Serverのネットワークストレージという機能のほかに、社内LAN上のサーバーやクライアントに対してNAS機能を提供することもできる。このため、社内LANに接続するネットワークもきちんと整備しておく必要がある。

 通常、AiOの本体が持っているネットワークポート(ProLiantのマザーボードに搭載されたもの)が、社内LAN用に提供される。もし、ネットワーク上に提供される共有フォルダのトラフィックが増えるようなら、このあたりのネットワークも増強する必要があるだろう。

 このようなネットワーク設計は、AiOをどのような用途に利用するのかを考えて、設計すべきだ。ただ、FCのように最初からきちんとした設計をしなくても、取り扱いやすいEthernetをインフラとして使用するため、あまりお勧めできる使い方ではないが、もしトラフィックが増えてきたら増強するといった、泥縄的な手法でも何とかなる。ある意味、AiOなどのIPストレージは、それほど容易に導入・運用できるストレージシステムだということがいえるかもしれない。


AiOはどのような企業に有効か

 AiOをテストしてみて分かったのは、企業規模の大小にかかわらず、ストレージ管理という点を問題に感じている企業にはぴったりのソリューションだということ。前回紹介した、AiOの優れたシナリオ機能を利用すれば、Exchange ServerやSQL ServerのデータをAiOに移行するのはウィザードで簡単に行える。管理自体も、管理ツールで一括して行うことができるため、管理者にとっては、ほとんど負担なくストレージが管理できる。

 この管理ツールでは、共通のGUI管理画面からすべての機能が利用できるようになっており、複数のGUIを場面に応じて使い分ける必要はない。また、アプリケーションごと、サーバーごと、ストレージごとに利用状況を確認できるため、管理者は現在の状況を簡単に把握できるのだ。もし容量が足りなくなれば、割り当てを変更したり、ストレージアレイを増設したりして対応できる。共有フォルダに関しても、非常に簡単に作成でき、ユーザー自身の手でデータのリストアが行えるため、管理者の手間を大幅に省けるのだ。バックアップ用のテープドライブが入っているAiOを選べば、ウィザード画面からデータのバックアップスケジュールも設定することもできる。

 このように、ストレージやネットワーク専門の管理者がいなくても、運用できるというのは、中小規模の企業においては大きなメリットとなるだろう。


アプリケーションビューでは、アプリケーションごとに使用してるディスク容量を表示できる 「ユーザー定義」で使用しているディスク容量も表示可能だ このビューから簡単にディスク容量を拡張することもできる。ここではSQL Serverのデータを例にしている

AiOの管理ツールでは、ストレージごとに内容を表示することもできる。このため、一目でストレージの状況がわかるのだ サーバー別にストレージの利用状況を表示する画面も用意されている ストレージ全体の使用比率を表示することも、もちろん可能

Windows Server以外での利用は煩雑に

ユーザー定義アプリケーション向けのウィザードを利用すればiSCSIボリュームは設定できるが、シナリオが用意されている場合のように簡単にはいかない

SATAとSASの比較
 ただし、AiOが持っているシナリオにない使い方をするときは、少しAiOの設定自体も面倒になってくる。一応、仮想環境への対応、サーバーへのiSCSIドライブの提供機能などが用意されているが、これらの機能は最低限でしかない。また、サーバーがWindows以外のケースでは、ユーザー自身がAiO、サーバー側(LinuxやVMware)の両方へ設定を行う必要がある(iSCSIドライブをWindows Vista/XPのドライブとして利用することもできるが、AiOの利用シナリオから外れる)。

 例えば、VMwareなどの仮想環境のストレージとしてAiOを使用する場合は、SQL ServerやExchange Serverのようにウィザードは用意されていない。このため、AiO側では、汎用的なiSCSIボリュームとして「ユーザー定義アプリケーションのホスト」としてボリュームを作成する(iSCSI LUNを選択)。このとき、対象となるサーバーのiSCSIイニシエータが持つIQN(iSCSI Qualified Name)を入力する必要があるのも、ストレージの知識がない管理者にとっては煩雑だろう。

 また、仮想環境のドライブとして使うには、ある程度のディスクパフォーマンスを必要とするために、日本HPでは、専用のストレージを推奨している。また、こういった用途に利用するAiOの物理ドライブとしては、SATAドライブではなく、SASを薦めている。

 面倒なのは、VMware側の設定だ。Windows ServerであればASMエージェントを介してAiOが設定をやってくれるのだが、VMware用のASMエージェントがないため、iSCSIイニシエータの設定やネットワークの設定などは、ユーザー自身が行わなければならない。また、仮想ドライブの移行も、AiOにiSCSIボリュームを作成し、VMwareにマウントして、ユーザー自身の手でデータを移行しなければならない。もちろん、移行後の設定変更もだ。このように、Windows Server以外になると、ユーザー自身の手で設定しなければならないところが数多くあり、VMwareもAiOもよくわかっていないと、インストールのトラブルが起こったときに対処ができないだろう。日本HPのサイトで、VMware上でのAiOの利用に関するホワイトペーパーが提供されているが、シナリオが用意されている場合ほどは、簡単にはいかないのだ。


自由度が少ないのが悩み

管理ツールは使いやすく便利だが、逆に、ここから外れることはできないようになっている
 また、AiOでは、管理者がWindows Storage Serverを直接設定して、ボリュームを作成したり、iSCSIボリュームを提供したりすることは想定していない。すべての設定は、管理ツール上から行われることを前提としている。このため、もし管理者が直接設定を行うと、管理ツール上のデータと整合性がとれなくなって、管理ツールのウィザードが利用できなくなる。この意味でも、AiOのコントロールは、すべて管理ツールを通して行うことになる。

 これらのことを考えると、AiOは、SQL ServerやExchange Server、共有フォルダなどのストレージとして利用することが最もメリットが高い。これ以外の用途になると、AiOが持つシナリオや自動設定のメリットを生かし切れないと思われる。

 ただ、ホワイトペーパーなどでは、LinuxやVMware、Oracle DatabaseなどをAiOで利用するシナリオの詳細も用意されている。できれば、日本HPに蓄積されているさまざまな事例から、AiOが利用されているシナリオを自動的に追加できるような機能があれば、よりユーザーニーズに合うのではないだろうか、と思った。複雑なストレージネットワークの設定を自動的に行ってくれるAiOのシナリオ機能は、非常に便利なのだから、できるだけ多くの利用シーンで使えるようにしてほしい。

 もう1つは、前回に触れたことだが、インストール時の日本語化など、ユーザー側に手間をかけさせないでほしい。全世界共通で製品化されているということから、このようなことになるのかもしれない。しかし、日本語化されたOSのインストールイメージを作成しておけば済むことだと思うし、このあたりの検証の手間は、日本HP自身が負ってほしい。日本語化して利用するということで、ユーザーに対して、不安なイメージを与えかねない。機能的に問題はないとしても、イメージとして「大丈夫かな?」と思わせること自体、重要なストレージをAiOに任せるときに不安材料になりかねないのだ。

 一方で、便利そうだと思ったのは、AiOには広いラインアップが用意されていること。今回筆者がお借りしたのはミッドレンジモデル「AiO 600」だが、これについてもラック型、タワー型の両タイプがそろえられているし、ブレードサーバー「HP BladeSystem c-Class」向けのストレージブレードにも、AiOは用意されている。ユーザーのサーバー環境に応じた筐体を導入できるのは、メリットがあることだ。また先ごろ国内で発売されたエントリー製品「AiO 400」であれば、さらにコストを抑えて利用することができる。


先ごろ発表されたローエンドタイプ「AiO 400」のラック型 ミッドレンジモデル「AiO 600」のタワー型 ブレードサーバー「HP BladeSystem c-Class」用のストレージブレード「All-in-One SB600c Storage Blade」

 いくつか、不満も述べたが、AiOはストレージシステムとしては、非常に使い勝手のいいシステムだ。秋葉原で販売されているNASをどんどんとネットワークに接続して使っていたり、各支店や各店舗に分散してサーバーが置かれて、ストレージがどんどんと分散しているような会社なら、簡単に使えるAiOはぴったりなストレージシステムといえるだろう。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/

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( 山本 雅史 )
2008/04/30 09:35

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