株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ(以下、日立GST) 技術開発本部 記録・HDIシステム開発部 部長の中馬顕氏、企画管理部 部長の森部義裕氏、エンタープライズ本部 ビジネスマネジメント統括部 主任技師の国崎修氏にHDDテクノロジの最新動向を伺った。後編では、日立GSTが注力するHDDのターゲットアプリケーション、15,000rpmオーバーの高性能HDDや2.5インチSCSI HDD、1インチ未満の超小型HDDに対する取り組みなどを取り上げていく。
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株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ 企画管理部 部長の森部義裕氏
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株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ 技術開発本部 記録・HDIシステム開発部 部長の中馬顕氏
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株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ エンタープライズ本部 ビジネスマネジメント統括部 主任技師の国崎修氏
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■ 情報家電機器向けのHDDに注力していく日立GST
10年以上もさかのぼれば、かなりの数のHDDベンダが乱立していたが、近年のベンダ統廃合を経て、現在では日立GST、Seagate Technology、Maxtor、Western Digital、Samsung、東芝、富士通あたりで落ち着いている。それぞれ特徴のあるビジネスを展開しているが、日立GSTは、すべてのセグメントに対して製品を用意していることが大きな特徴だ。ここでいうすべてのセグメントとは、3.5インチのエンタープライズSCSI/FC HDD、3.5インチのデスクトップATA HDD、2.5インチのモバイルATA HDD、1.8インチのモバイルHDD、1インチのモバイルHDDを指している。
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日立GSTが発売しているHDDのラインアップ(出典:株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ)
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日立GSTのHDD全体のシェアは、Seagate Technology、Western Digital、Maxtorに次いで4位となっている。また、セグメントごとのシェアは、3.5インチSCSI/FC HDDがSeagate Technology、富士通に次いで3位、3.5インチATA HDDがSeagate Technology、Western Digital、Maxtor、Samsungに次いで5位、2.5インチATA HDDと1インチHDDは1位、1.8インチHDDが東芝に次いで2位である。このように、日立GSTは2.5インチ以下の製品が主力であることが分かる。次に、日立GST内の製品区分別占有率(2004年第4四半期)を見てみると、3.5インチSCSI/FC HDDが6.9%、3.5インチATA HDDが66.4%、2.5インチATA HDDが18.1%、1.8インチおよび1インチHDDが8.6%となっている。やはり、総量としては3.5インチのATA HDDが圧倒的に多い。
HDD業界全体の動向として、情報家電機器向けの3.5インチATA HDDと1.8インチおよび1インチHDDが順調に伸びていくという。ある調査会社の調べによれば、情報家電機器向けのHDDは現時点で全体の15~20%だが、2008年には40%まで伸びると予測している。これに伴い、HDDの出荷台数も3億台前後から5億台を超えるレベルにまで増大する。その中でも3.5インチ以下のHDDは2005~2008年の3年間で約3倍、1.8インチ以下のHDDは約2.5倍も出荷台数が増えると見込んでいる。日立GSTの製品もこのトレンドに従うことになる。
「HDDは、メインフレームの第1期、ミニコンやオフコンの第2期、パソコンの第3期を経て、情報家電機器の第4期に突入しています。最近では、DVD/HDDレコーダー、携帯型音楽プレーヤ、カーナビシステム、ゲーム機、携帯電話など、さまざまな情報家電機器にHDDが搭載されるようになりました。日立GSTが思い描いている未来は、2010年頃に10~20台のHDDが家庭の中で使われるようになる姿です。日立GSTは、このような来るべき明るい未来のために、今後も情報家電機器向けの製品に注力していきます(森部氏)」。
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HDDの時代は情報家電機器に搭載される第4期に突入している(出典:株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ)
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HDDを搭載する情報家電機器は今後急速に増えていく見込みだ(出典:株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ)
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今後は、携帯電話や携帯型のゲーム機、音楽プレイヤーといった“持ち運べる”情報家電機器に“持ち運べる”小型のHDDが内蔵される傾向が強くなっていく。これは、HDD本体の価格が安くなり、小型でも記憶容量が実用レベルに達してきたこと、そしてHDDを活用できるだけのアプリケーションが登場しつつあるからだ。日立GSTは、こうした携帯型の情報家電機器向けとして、今年1月にMikeyとSlimと呼ばれる小型HDDの技術概要を発表した。いずれも従来製品をより小型化した仕様になっており、同時に消費電力の低減、衝撃耐性の向上にも力が入れられている。製品化は2005年下半期を目指しているという。
Mikeyは、Microdriveより搭載面積を20%低減した1インチHDD(Microdrive)のダウンサイジングモデルである。サイズは、30mm×40mm×5mmとなっており、重量も従来の16グラムから14グラムに軽量化されている。記憶容量は8~10GBを見込んでおり、インターフェイスとして次世代のCE-ATAにも対応する。CE-ATAは、次世代の携帯端末や携帯型デジタル家電向けのストレージインターフェイス規格で、Mikeyの製品化と同じ2005年下半期の製品搭載を予定している。Slimは、従来の1.8インチHDD(Travelstar)と比較して28%小型化したTravelstarのダウンサイジングモデルである。ディスク1枚の5mm厚モデルは30~40GB、ディスク2枚の8mm厚モデルは60~80GBを予定している。インターフェイスはパラレルATAに加え、CE-ATAもサポートされるという。
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1インチの次世代Microdrive“Mikey”の概要(出典:株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ)
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1.8インチの次世代HDD“Slim”の概要(出典:株式会社 日立グローバルストレージテクノロジーズ)
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一番右にあるのが従来のMicrodriveをさらに小型化したMikeyだ
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■ 15,000rpmオーバーのHDDが登場しない理由とは?
HDDのパフォーマンスは、データ転送速度とIOps(1秒あたりのI/O数)によって成り立っている。記録密度の向上によってデータ転送速度を高められるが、IOpsを高めるにはディスクの回転速度を上げて回転待ち時間を短縮する必要がある。SCSI HDDの回転速度が5,400rpm、7,200rpm、10,000rpm、12,000rpm、15,000rpmと時代を追うごとに高速化されてきた理由もここにある。
日立GSTといえば、まだ日立製作所だった1998年に、12,030rpmの“世界最速”SCSI HDD「DK3E1シリーズ」を発表した経緯を持つ。当時、他社が10,000rpmを上限としていたため、10,000rpmオーバーの製品登場には非常に驚いたものだ。森部氏によれば、DK3E1シリーズの開発は同社のディスクサブシステムと深い関わりがあるという。ディスクサブシステムの世界で競合他社からパフォーマンスリーダーを取り返すために、日立のディスクサブシステムにより高速なHDDを搭載する必要があり、それがDK3E1シリーズだったわけだ。
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左から7,200rpmのATA HDD(Deskstar)、10,000rpmのSCSI HDD(Ultrastar)、15,000rpmのSCSI HDD(Ultrastar)である。回転速度が高速になるにつれて、ディスクの半径が小さくなっていることが分かる
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さて、HDDの回転速度は、現時点でどのベンダも15,000rpmが上限となっている。2002年6月、豪シドニーのFOXスタジオ・オーストラリアで開催された基調講演で、Seagate Technologyが同社の研究開発部門で22,000rpmのSCSI HDDを試作したことを明らかにしたが、残念ながら執筆時点でそのような製品はまだ発売されていない。日立GSTからは、今後15,000rpmオーバーの高性能HDDが発売される可能性はあるのだろうか。
「データ転送速度とIOpsを同時に向上させる上で、回転速度を高めるアプローチは最も効果的といえます。しかし、回転速度を高めるには、ディスクを回転させるためのパワーも必要になります。一般にそのパワーは、ディスク半径の2乗、回転速度の3乗に比例しますので、現実的な消費電力/発熱ラインに収めようとすると、半径をかなり小さくしなければなりません。実際、7,200rpmでは3.5インチなのに対し、10,000rpmでは3インチ、15,000rpmでは2.5インチと、回転速度が高速になるにつれてディスクの半径が小さくなっています。つまり、回転速度を高めると記憶容量を稼ぎづらくなるのです。15,000rpmオーバーを実現することは技術的には可能ですが、消費電力/発熱の面、記憶容量の面を考えると手を出しづらいというのが実情です(森部氏)」。
「また、回転速度を高めるなら、ヘッドのシーク時間も同時に短縮するなど、HDD全体の性能バランスをうまくとる必要があります。回転速度だけを高めて単純に商品として成り立つものではありません。結局のところ、回転速度を高めることによって、高性能ながらも記憶容量が小さく高価なHDDが出来上がることになります。最近の流れを見ると、ブレードサーバーの内蔵ディスクとして使える余地はあるのですが、ブレードサーバー自体が安くなってきており、高価なHDDを搭載するわけにはいきません。このように、15,000rpmオーバーの製品が“あれば売れる”というレベルまでは達していないのが実情です。従って、高速アクセスが必要なところはキャッシュに任せ、バックエンドにそこそこ高性能で大容量のHDDを使用するという形が現実的な落としどころになります(国崎氏)」。
■ 2.5インチSCSI HDDは水面下で開発中
すでに述べたように、日立GSTは2.5インチのATA HDDで大きなシェアを持つ。しかし、同じフォームファクタのSCSI HDDをまだ発表していない。他社では、例えばSeagate TechnologyのSavvioや富士通のMAV20xxRCシリーズのように、すでに2.5インチのUltra320 SCSIないしSAS(Serial Attached SCSI) HDDを発売するベンダが登場している。日立GSTが2.5インチのSCSI HDDを発表しない理由はどこにあるのだろうか。
「これまでの何十年というHDDの歴史を見れば、それは小型化と大容量化の歴史でした。HDDのフォームファクタが時代とともに小型化していくのは必然の流れといえます。問題は、このような小型化を通じて、ユーザーが必要とする記憶容量を確保しづらくなることです。例えば、SCSI HDDは3.5インチならば300GBを確保できますが、2.5インチでは73GBが上限です。記憶容量を台数で稼げばいいという考えも成り立ちますが、登場したての2.5インチSCSI HDDは総じて高価であり、結局のところお客様に余計な出費を強いることにしかなりません(国崎氏)」。
「さらに、信頼性の向上も重要な課題といえます。日立GSTでもノート向けの2.5インチATA HDDを発売していますが、エンタープライズ向けのSCSI HDDを想定すると、そのデューティサイクルは桁違いに違いますから、信頼性の確保にはかなり気を遣います。近い将来、コストや信頼性の面でバランスのとれる時代が訪れたら、SCSI HDDも確実に2.5インチへと小型化が進むでしょう。そのとき、日立GSTが確実にリーダシップをとれるように、水面下では2.5インチSCSI HDDの開発をすでに進めています(森部氏)」。
■ 1インチを下限に超小型HDDを展開し、HDDのメリットをアピールしていく
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HDD、DRAM、フラッシュメモリの価格推移を示したグラフ(出典:Hitachi Global Storage Technologies)。HDDとフラッシュメモリのビットコストがこれ以上狭まると、HDDの利用価値が薄れてしまう。
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もう一つ気になるのが、1インチ未満の超小型HDDである。すでに、東芝は0.85インチのHDDを発表しており、英ギネスによって“世界最小のHDD”として認定された。また、同社はこの0.85インチHDDを今年夏にサンプル出荷、秋には月産20~30万台の規模で量産を開始すると発表している。1インチHDDで圧倒的なシェアを持つ日立GSTが、こうした状況を黙って見ているとは思えない。
「まず、日立GSTとしては現時点で1インチ未満の超小型HDDを開発する意向はありません。これは、HDDで最大のメリットである“大容量”という特徴が失われてしまい、商業的な価値を見いだせなくなるからです。例えば、1インチのMicrodriveを0.85インチに小型化すると、直径は15%しか小さくなりませんが、記録面積は半分にまで減ってしまいます。最新のMirodrive 6GBを例にとれば、ディスクのサイズを0.85インチにすることで記憶容量が3GBにまで減少してしまうのです」。
「こうした超小型HDDの競争相手は、いうまでもなく半導体メモリ(フラッシュメモリ)です。現在、半導体メモリの価格下落はかなり進んでおり、半導体メモリとHDDのビットコストを比べると、0.85インチHDDではここ2~3年でコスト面のメリットが薄れてしまう恐れがあります。少なくとも現在のように半導体メモリと比べて3~4倍の開きは欲しいところです。しかし、これが1.5~2倍にまで縮んでしまうと、半導体メモリのほうがよいと考えるユーザーも一気に増えてきます。このような理由から、現時点では1インチを下限とし、HDDならではのメリットを強くアピールできる形で開発を進めていくべきだと考えています(以上、森部氏)」。
■ ATA HDDを多目的に使用するには使いこなしの技術が不可欠
最近、デスクトップ向けのATA HDDをエンタープライズ用として流用するケースが目立っている。デスクトップ向けのATA HDDは大容量で価格も安いため、エンタープライズ分野のセカンダリストレージやアーカイブストレージの要件に合致しているからだ。しかし、ATA HDDは一般に信頼性が低い。例えば、MTBF(平均故障間隔)は、FC/SCSI HDDが120万時間以上なのに対し、ATA HDDは40~60万時間と2~3分の1に過ぎない。また、想定するデューティサイクルも大きく異なっており、FC/SCSI HDDは連続稼働が当たり前だが、ATA HDDはパソコンと連動してこまめに電源を落とすのが一般的だ。
「まず、ATA HDDをエンタープライズ用として使うことの是非ですが、少なくとも弊社のお客様はATA HDDの特性を理解した上で使っていますので心配はしておりません。むしろ、ATA HDDを技術的な観点からどのように活用するかという“使いこなしの技術”が必要であることを説いています。最近のATA HDDは流体軸受けモーターを採用しているため、24時間の連続稼働にもそこそこ耐えられるようになってきました」。
「日立GSTのHDDには、ディスク表面とヘッドを保護するためのロード/アンロード機構が搭載されています。しかし、エンタープライズで使用するとアクセスがないときにもヘッドをなかなかアンロードさせないケースが目立ちます。これが、HDDの寿命を縮める大きな原因となります。故障率を下げるには、面倒でもこまめにアンロードするように心がけるべきです。これは、RAIDコントローラやソフトウェアの作り込みで対応できます。つまり、HDDを使いこなすための技術が不可欠というわけです(以上、森部氏)」。
同様に、DVD/HDDレコーダーのような情報家電機器でデスクトップ用のATA HDDを活用する場合にも使いこなしの技術が不可欠であるという。例えば、速度面ではあまり高くないと思われがちのパラレルATA HDDだが、性能をフルに引き出すことができれば8本のハイビジョン映像を同時に録再生できる能力を持っている。つまり、リビング、2つの子供部屋、父親の書斎という4つの部屋に対してハイビジョン映像の録画と再生を同時に行えるということだ。現在、最も進んでいる使用例でも録画、再生、追っかけ録画の3本なので、日立GSTが提唱する8本という本数はかなり魅力的に映る。
「8本の同時録再を実現するには弊社の用意する専用のミドルウェアが必要ですが、それと同時にHDDの使いこなし技術も重要になります。そこで、日立GSTはお客様と一緒になって情報家電機器へのHDD搭載を促進する日立デザインスタジオを今年4月に設立しました。日本(神奈川県藤沢市)、 イギリス(ハンプシャー州ハバント)、 アメリカ(ミネソタ州ロチェスター)、 中国(深セン)、台湾(台北)の5カ所に開設しており、携帯音楽プレーヤ、 HDDレコーダ、携帯電話という最も成長率の高い3つの分野を中心に活動しています。日立デザインスタジオと組んで情報家電機器を開発していただければ、弊社のATA HDDを最大限に生かした製品を作ることができるでしょう(森部氏)」。
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今回取材が行われた日立グローバルストレージテクノロジーズの小田原事業所
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カリフォルニア州サンノゼにあるHitachi Global Storage Technologyの本社(筆者が撮影したもの)。SNWの取材帰りにサンノゼに立ち寄ったため、本社の写真をしっかり撮影してきた。なお、日立GST本社に筆者を連れていってくれた親友のJinha Kim氏にはここで感謝の意を申し上げたい。
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■ URL
株式会社日立グローバルストレージテクノロジーズ
http://www.hitachigst.com/portal/site/jp/
■ 関連記事
・ 伊勢雅英の最新HDDテクノロジ探検隊 [前編](2005/04/27)
( 伊勢 雅英 )
2005/04/28 00:00
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