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「雑誌が売れないのは接点の問題、ネット時代の新しい雑誌に挑む」Yes, I am.高橋氏


 今回のゲストはアスキーのアップル製品関連の月刊誌「MACPOWER」の元編集長であり、いまは新しいコンセプトのクリエイティブエージェンシー「Yes, I am.」のクリエイティブディレクター 高橋幸治氏です。メディアを再デザインしたいという高橋さんのお話を伺いました。


Yes, I am. 高橋氏 高橋 幸治
株式会社イエス・アイ・アム 代表取締役

1968年生。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、91年、電通に入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、95年、アスキーに入社。2001年から2007年まで、Macとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MACPOWER」編集長。2008年、独立。クリエイティブエージェンシー「Yes, I am.」を設立。広告、出版、Web、携帯、イベントのプランニング/プロデュース/ディレクションなど、メディアの越境的な再編成に取り組んでいる。本業のかたわら、日本大学芸術学部文芸学科にて非常勤講師もつとめる。


ニュータイプのクリエイティブエージェンシー

小川氏
 ごぶさたしてます。まずは自己紹介をお願いできますか。


高橋氏
 日大芸術学部を卒業して、まず電通で3年ほどCMプランナーとして働きまして、主に広告のクリエイティブやコピーライティングの仕事をしていました。その後デジタルの波がきそうな予感に引きずられる形で電通を退職し、95年にアスキーに入社しました。当時はまだインターネットプロバイダーが、ようやくいくつかでてきたところでした。結局アスキーには12年ほどいましたが、2001年から2007年までMACPOWERの編集長を勤めました。小川さんと出会ったのもそのころでしたね。


小川氏
 はい。


高橋氏
 その後2008年1月いっぱいでアスキーを退職して、Yes,I am.というクリエイティブエージェンシーを立ち上げました。クリエイティブエージェンシーと言えば佐藤可士和さんのサムライやタグボートなどが頭に浮かぶと思いますが、彼らとも仕事をさせていただいています。


小川氏
 この連載でクリエイティブエージェンシーを取り上げるのは二度目ですが、Yes, I am.ではどんな特長があるのでしょう?


高橋氏
 そうですね。まず、広告をやるだけがクリエイティブエージェンシーではなくなってきていると思っています。僕もまあ広告と出版を経て起業しているので、どちらにも精通していると思いますが、メディア全般にかかわりたいし、それができる立場になってきています。例えば、書籍の準備、雑誌の立ち上げを手がけながらエディトリアルディレクターとして働いていると思えば、ケータイのコンテンツの配信のディレクションもやっています。つまり、メディア横断の仕事が世の中的にも許されるようになってきた。その時代に生まれたクリエイティブエージェンシーというのがうちの特長ですね。


小川氏
 なるほど。


高橋氏
 自分のことを編集者と名乗るのもいいと思いましたが、本を作るだけの仕事に思われるのはいやですしね。僕は尊敬する編集者の菅付雅信(すがつけまさのぶ)さんに、相当影響を受けていて、編集の定義を変えたいんです。展覧会などのイベントや写真集のプロデュースもやっているし、製品発表パーティのプロデュースもしていますし。つまり、編集というスキルをもってすれば、どんなプロデュースもできると思ってるんですよ。


小川氏
 インフォバーンの小林さんも同じことをおっしゃっていますが、小林さんは編集者=エディターというポジショニングに身を置き続けることに誇りを持たれているようでした。それにしても汎用性のあるスキルはありますね。僕はもともと商社で最初の訓練を受けていますが、そのとき得たスキルはいまだに僕のベーシックなモノの考え方や行動の軸になってますし、役立ってます。


高橋氏
 同じですよね。


小川氏
 ちなみに独立してどうですか? 満足されていますか?


高橋氏
 小川さんは若いころから起業精神旺盛だったと思うんですけど(笑)、僕は違っていて…。


小川氏
 いや、僕も起業しようとは思ってなかったですよ。海外でビジネスができればいいとだけ思っていたし(苦笑)。


高橋氏
 それでもいかにも起業しそうな感じはしてましたよ、お会いした当初から(笑)。その点、僕はどっちかというと組織に属して、その中を少しだけはみ出して働くことが好きなタイプなんです。だからまさか自分がね、と思いましたよ。でも、独立して一年たちますが、最初はこれまでお世話になった皆さまからお声をかけていただく仕事を中心にこなしてきましたが、二年目からは自分から仕掛けていきたいと思っています。


小川氏
 クリエイティブエージェンシーとはいっても、デザイン制作は外注なんですよね?


高橋氏
 直接デザイン制作をするわけではありませんが、Yes, I am.としてはデザイン制作の受注自体はさせていただいています。デザイナーは外部スタッフとその都度契約しますが、デザインコンセプトも僕が決めるし、デザイナーへのディレクションも僕がします。雑誌やっているときもそうですけど、編集長は編集者のテキストレベルの質やデザイナーのデザインも管理しますし、外注していることもそもそも多いので、ディレクションというスキルがあることが重要なんですよ。案件に対してどんなデザイナーがいいかをチョイスして、キャスティングしてディレクションする。それが大事。ディレクターがいないと、どんなデザイナーが優秀でもダメなんです。ちなみに、最初に手がけたイベントの招待状のデザインは佐藤可士和さんにやっていただきました。


世代によってみられる一種のデジタルデバイド

小川氏
 少し話を変えます。IT業界のクリエイティブディレクターといえばスティーブ・ジョブズが最初に浮かぶと思いますが、彼は最近体調を崩して療養中です。高橋さんがMACPOWER編集長になられたころってアップルに復帰したジョブズがノリに乗っていたころだと思うんですが。


高橋氏
 ですね。でも、実はMACPOWERだけでなくMac系の雑誌の売れ行きは、前CEOであるアメリオ時代、明日にもアップルが身売りするんじゃないかといわれていたころが一番だったんですよ。


小川氏
 ええっ? それは意外です。


高橋氏
 Mac雑誌全般にいえると思いますが、iMacがでて、ポピュラーになってきたときに、iMac効果はまったく雑誌には反映してこなかったですね(笑)。

 正確には、iMacを買う人たちは、あまりパソコン雑誌を読まない、そこまでは詳しくは知りたくないよという人たちだったんだと思いますね。雑誌を読むまでパソコンを突き詰めていかない層に向けてiMacはやってきた。まあ、すべての人がパソコン買ってもCPUの速度を気にするわけではないし、性能だけの問題ではなくなって、CPUとは別の尺度でパソコンが語られるようになった、それがiMac登場以降だと思います。


小川氏
 なるほどね。


高橋氏
 最近、母校である日大芸術学部の講師もしているんですよ。学生に仕事を依頼したりもしてます(笑)。iチャネルのコンテンツに雑誌チャネルができたんですけど、そのプロデュースにもかかわってまして、インターンの子たちを記事の編集にかかわらせています。それで思うんですけど、彼らって小学校の高学年からインターネットに触れてる世代なんですよ。ネットが日常生活の中にとけこんでいる度合いは大きいはずだけど、衝撃を受けているということはなさそうなんですね。


小川氏
 うーん…。


高橋氏
 例えば、ゼミの名簿を作っているんですけど、住所と名前とメルアド、電話番号くらいの簡単なモノのはずが回してみたら、なかなか返ってこない。なんでかというと、ケータイのメルアドの@の前が長いから(笑)。


小川氏
 なるほど(笑)。


高橋氏
 ゼミの人数が15〜16人なんですけど、驚いたのはPCのメルアドを書いたのは僕だけだったこと。コミュニケーションとしてはケータイが主になっているのは分かっているけど、これほどとは思わなかったですね。だから妙な感じがありますよ。彼らは小さいころからネットがあるからといって、フル活用するわけでもないわけですから。


小川氏
 ですよね。


高橋氏
 僕らはこれだけ便利なものがあるからと思い、一生懸命調べるし使いこなす。でも彼らは案外調べない、人に聞こうとする。


小川氏
 それは世界的な流れかも。Twitterのようなマイクロメッセージングサービスが隆盛になってきているのもそのせいに思います。


高橋氏
 テクノロジーを使って人に聞くんですね(笑)。デジタルの進化と人々のライフスタイルの変容が違ってきてるのかもしれないですね。僕らは何でもかんでも検索する、と思ってたら、若い子は人に聞く、と。


雑誌や音楽が売れないのは、買い手との接点が変化していることに気づかないから

小川氏
 ネットに直接かかわる仕事はどうですか?


高橋氏
 Yahoo!のX BRANDという、Webサイト上に雑誌が何十誌か集まったようなサービスがあるんです。雑誌の記事をソースとして再編集するプロジェクトなんですけど、それにかかわってます。雑誌がめちゃくちゃ元気がよかったころにはあり得ないプロジェクト(笑)。

 雑誌はいま苦しいところで、どう消費者にアプローチしていいか分からない状況なんですよ。


小川氏
 ふむ。


高橋氏
 旧来のフレームのデザインではなく、新しいメディアのデザインが必要なんだと思いますね。雑誌でもなく雑誌のWeb化でもなく。時代の要請というか、コンテンツを消費者に届かせる意味でも、クライアントの広告をどう提供するかを考える意味でも、生まれるべくして生まれたプロジェクトなんでしょうね。これが次の時代のフォーマットですよ、ということはできないかもしれないけど。今はいろいろなメディアのフレームが壊れてきていて、新聞、テレビ、雑誌も、テレビCMもみんな変化の中にあると思います。


小川氏
 同感ですね。


高橋氏
 その状況の中で何を生むのかが面白いじゃないですか。独立して、メディア横断的な動きをしたいと思っていたら、世の中がガラガラ崩れてきて(笑)タイミングとしては良かったと思います。

 大変だけど可能性に満ちている時代ですね、93〜94年にインターネットを初めてみたとき以来の興奮です。メディアの再編成や再デザインにかかわっていきたいと思ってます。


小川氏
 今年も2カ月が過ぎましたが、目標を聞かせてください。


高橋氏
 雑誌を今年はもう一回やりたいですね。成立する座組や機能を新しいフォーメーションでやりたい。雑誌がだめだといって、みんなが嫌いになったわけではないですよ。音楽が売れないのは音楽が嫌いになったわけではない。まだ雑誌がやってないことがたくさんあると思うんですね。方法があると思う。成立させてみたいですね。

 売れないのはコミュニケーションの接点の問題であって、雑誌や音楽が悪いわけじゃない。本を買うのは、もう本屋という場所ではないし、テレビCMももう15/30秒という尺ではないのかもしれないじゃないですか。既存のメディアフォーマットとは違うのではないか、という検証が必要でしょうね。


小川氏
 そのとおりですね。Webを従来のメディアのように取り扱っても、短期的にはうまくいっても長期的には破たんすると思います。


高橋氏
 結局、ネットに情報が移ったというのではなく、ネットの利用がみんなに浸透した結果、モノのとらえ方や感じ方、行動範囲などが変わったということでしょうね。いままでの情報をWebに移せばいいのかというとそうではない。その意味で、X BRANDのような取り組みにかかわれていることは非常にラッキーだったと思います。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2009/03/03 00:00

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