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「XMLデータベースは電気自動車」サイバーテック橋元社長


 今回のゲストは、XMLデータベースの提供と受託開発で知られるサイバーテック社長の橋元さんです。XMLとXMLデータベースの普及に精力的に活動する橋元さんは、XMLデータベースを「柔軟なデータベースである」とよく表現されています。

 本人も常に柔和な表情を崩さない、橋元さんの挑戦は悪化するばかりの景気の中で、どう左右されるのでしょうか。率直に伺いました。


サイバーテック・橋元社長 橋元 賢次(はしもと けんじ)
株式会社サイバーテック 代表取締役社長

大阪府交野市生まれ。
1984年:初めてパソコン(MSX)に触れる。ゲームなどで遊ぶよりもプログラムを書く、という創造的な分野に興味を覚え、BASICによるプログラム作成~ハンドアセンブラによるZ80マシン語まで扱い、各種ゲームソフトを作成する。一通り何でもできるようになったため、興味は別の物に移り、一度コンピューターの世界から退く。
1991年3月:私立清風高校卒業
1995年3月:国立愛媛大学 電気電子工学科卒業
1995年4月:沖電気工業株式会社入社
Cadence社Verilog-XLを用いたHDL(論理記述)手法によるLSI設計、およびBorland社Turbo C++を用いたLSI評価用ソフトウェア開発業務に3年間携わる。デバイス開発実績は、4Bitマイコンのペリフェラル開発、ウォークマン用リモートコントローラー、エンジンのノッキング制御用カスタムIC、IrDA規格赤外線通信コントローラーなど。
また、IrDAに関してはデバイスの設計だけではなく、沖電気開発製品、および当時デファクトスタンダードであった、ナショナルセミコンダクター社の通信コントローラーICであるNS87108の2つの通信ソフトを開発し、IrDA通信に用いる赤外線モジュールの評価も多数行う。
1998年9月:沖電気工業株式会社退社。サイバーテック有限会社設立。代表取締役に就任。
ブログ 「こてこてベンチャー社長奮闘記


RDB(リレーショナルデータベース)よりXMLデータベースははるかに柔軟

小川氏
 NeoCoreサミットではありがとうございました。今日はまず橋元さんの個人的なプロフィールを聞かせてください。


橋元氏
 パーソナル的な話ですか(笑)。えーと、橋元賢次です(笑)。サイバーテックの社長をしております。サイバーテックは昨年で創業10周年を迎えた会社で、XMLというキーワードでばく進しています。

 この業界に入ったきっかけは、小学校でMSXでゲームを作ったりしていたことですね、あのころはファミコン派とMSX派に分かれてましたが。その後、大学は工学部の電気電子工学科に進んで、その流れで沖電気の子会社に入社しました。ところがハードには興味がもてない、ソフトがやりたいと思い、試行錯誤しながら副業でプログラムを書いたりしていました。それでも我慢できず、結局会社を辞めて1998年9月8日に会社を立ち上げることになりました。


小川氏
 サイバーテックは最初からXML専業ですか?


橋元氏
 最初からXML専業であったわけではありません。ただそうではないにせよ、会社を創業した当初からRDB(リレーショナルデータベース)の四角四面の世界には疑問をもっていました。あれは固いデータを入れる固い箱、という思いが強かった。なんて固いソフトなんだと思っていました。


小川氏
 詳しくきかせてください。


橋元氏
 例えば、RDBベースで何かのシステムを構築する際、ちょっと仕様を変えると全部作り直しになるじゃないですか。PostgreSQLベースで解決できるようなプロダクトを作ってみたり、いろいろと試行錯誤してみましたが、結局その思いはぬぐえず、そんなおり、2000年にXMLとXMLデータベースに出会ったんです。


小川氏
 いまのサイバーテックはXML専業といっていいですよね。


橋元氏
 まあそうですね。ただ、受託はXMLがらみが多いとはいえ、他の分野も実施しています。XMLのデータベースの提供と受託開発を二本柱にしているといえばいいですね。拠点は日本とフィリピンにおいています。


XMLデータベースは金融や製造業に向いている

小川氏
 XMLデータベースについてきかせてください。


橋元氏
 うちではいま、NeoCoreとCyber Luxeon(サイバーラクセオン)という2つの商品を取り扱っています。


小川氏
 XMLデータベースとRDBとの違いは?


橋元氏
 RDBは決まったデータを入れて高速検索するには適しています。大量の演算処理をしなければならないようなところには最適です。XMLデータベースはそうではなくて、データ項目が減ったり増えたりするような仕様の開発に向いています。より柔軟なデータの取り扱いが得意なデータベースです。だから基幹システムというよりは現場に近いところで使われます。向いているところが違うといえますね。


小川氏
 有力なデータベースメーカーたちは、柔軟なデータの取り扱いが得意であると主張してはいませんか?


橋元氏
 RDB陣営は、XMLデータベースを使わなくても同じこともできるよと言うことがありますが、やはり適材適所的なものだと思います。RDBは表の概念。XMLデータの固まりを使うのにはRDBは適さないと思います。


小川氏
 そもそもXMLが必要な仕様とはどんなものでしょう?


橋元氏
 守秘義務があって、どのお客さまが使ってくださっているかはいいづらいのですが、XMLデータベースは銀行などの金融業界や製造業に多く用いられています。

 XMLデータが使われるパターンは3つあります。まずは広い意味でのドキュメント、例えば小説のようなだらだらとしたものではなく、契約書やマニュアルのように構造的なものの扱いです。おおよそ定型化されているけれど毎回内容が変わるようなドキュメントの扱いには非常に向いています。2つめは、表フォーマットでは表現できないものですね。ツリー状にして格納するような表示。例えば部品の構成などで、これが製造業でXMLデータベースがよく使われる理由でもあります。3つめはそもそもXMLに準拠したデータ、XBRLやNewsMLなどのXMLベースのデータの処理です。


小川氏
 XMLデータベース一本でやっていくことはないのですか? 例えばインフォテリアさんはXMLベースの自社ブランドソフトウェアの専業メーカーですね。


橋元氏
 受託は受託で。両輪でいこうと思っています。

 XMLデータベースだけを売っても、お客さま側で必要なシステムを構築できるほど、この市場は成熟していないんですね。だからお客さまの構築を支援する受託チームの存在はまだまだ必要です。

 それに、インフォテリアさんと違うのは、われわれの製品がデータベースであることです。データベースそのものをゼロベースで作ることは非常にお金がかかります。日本ではそれだけの資金を集めるのは難しいですね。


XMLは次世代のデータフォーマット、XMLデータベースは電気自動車のようなもの

小川氏
 クラウドコンピューティングの影響はありますか?


橋元氏
 まだないですね。XMLデータベースの用途は3つとも基本的にイントラの上なんですね。というか、正直なところ、まだそれ以外の用途は開拓できてないともいえます。だからクラウドの影響を受けることはいまのところ少ないです。ただ、Web 2.0というか仮想化という方向には関心はあります。

 それに、われわれの顧客は大企業がほとんどです。中堅企業のお客さまもいますが中小企業はいない。なぜかというと、社内にXMLの固まりが転がっていないからです。クラウドはまず中小企業に向かうでしょうから、その意味でもわれわれの領域にはまだ影響がないのです。


小川氏
 なるほど。ところで、いまの経済状況に影響は受けますか?


橋元氏
 ないとはいえませんが、受託は不景気に強いんですよね。ITバブルがはじけたときにも痛感しましたが、予算が潤沢にあるときは常駐型/派遣型の会社がもうかるんですが、不景気には予算が限られるので、受託型が有利です。だからわりと好調で、不景気だからといっても心配はしてないですね。


小川氏
 それはうらやましい(笑)。データベース事業はどうですか?


橋元氏
 XMLデータベースは買い控えがあるかもしれないですね。でも、景気が上向いたらいいこともあるでしょう(笑)。100年に一度の不景気というならば、きっとそのあとになにか変革があるんだろうと思うんですよ。不景気の時期は種まきの時期だと思っています。


小川氏
 XMLデータベースが今後大きな市場を作っていくという見通しは?


橋元氏
 まず、危惧(きぐ)するところをいうと、RDBメーカーがRDBにもXMLデータをためられますよ、とお客さまをミスリードしていることです。本当は向いていないのに。お客さまがそれを信じてXMLデータをRDBにどんどんため込むと結局遅くなって、XMLそのものが遅いとか重いと誤解してしまうことにつながります。それが一番怖いです。


小川氏
 はい。


橋元氏
 XMLデータベースは電気自動車に近いと思うんです。XMLは電気みたいなものです。ガソリンエンジンにモーターを足したハイブリッドカーがでてきた、でもやっぱりガソリン車には変わりない。電気自動車が普及するには電気ステーションの整備も必要です。次世代のデータフォーマットとしてXMLが根付いてくることでXMLデータベースもブレークしていくと思っています。


小川氏
 気が合いますね、僕もよくフィードやWebストリームの話をするときに電気自動車の例を出しますよ(笑)。


橋元氏
 おかげさまでうちは2008年度にXMLデータベースの市場ではシェアトップになりました。ただ、まだまだ導入事例が必要ですね。どんどん紹介して、潜在的なお客さまに知っていただかないと。日本の市場は文系的というか、海に囲まれた閉鎖的空間というか、新しいサービスや製品に対しては保守的なので、たくさんの企業が使っている、という事実をお知らせすることが最良の宣伝になるんです。NeoCoreを買い取ったときも、100社以上の導入事例を得たことが大きかったですね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2009/02/10 00:00

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