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スティーブ・ジョブズと仕事をした男

アルファブロガー“モダシン”こと永沢和義氏

 今回のゲストは、モダシンさんこと、アイビィ・コミュニケーションズの永沢社長です。ブロガー仲間からは親愛を込めて、彼のブログであるModern Syntaxからモダシン(モダンシンタックスを略してモダシン)と呼ばれる永沢さんは、元NeXTという経歴の持ち主です。


永沢 和義氏 永沢 和義(ながさわかずよし)

1963年 宮城県生まれ
商社、外資系メーカー(NeXT)、VCを経て、有限会社アイビィ・コミュニケーションズ
2003年よりModernSyntax BlogとBlogを結ぶサービス『BlogPeople』を立ち上げ、第4回Web人賞を受賞


ジョブズを神と思わないと一緒には仕事できない

小川氏
 こんにちは。モダシンさんと呼んでいっていいですかね。


永沢氏
 はい。


小川氏
 自己紹介してもらっていいですか。


永沢氏
 モダシンです。

 大学は、情報工学科で、当時はメインフレーム、フォートランなどを使っていたわけなんですけど、曲線などの科学技術計算ばかりやらされるので、コンピュータ大嫌いになったんですね。


小川氏
 はい(笑)。


永沢氏
 で、先生にコンピュータ業界にはいかないといったら、それはおかしいだろと。せっかく勉強したんだから、せめてその経験をいかせる仕事をすべきだよと言われてね。ならば、メーカーではなくて商社のコンピュータ系の営業もいいかなと思って。当時はバブルだったんで、カンタンに内定がもらえる時代だったから、いろいろ受けてみたら翌朝もう合格したよという連絡が入ったのが今のCTC。最初は、サンの営業をやっていたんだけど、その頃SUN 3はよく売れてね、電話に出るだけで売れるようになって、人間的にどうなのよと思うようになったわけですよ。そうこうしてたらNeXTが出てきた。


小川氏
 NeXTと聞くとMacユーザー、というかスティーブ・ジョブズのファンならみんな、おおっーと思うわけですけど、知らない人のためにちょっと説明をしてください。


永沢氏
 アップルのスティーブ・ジョブズが内紛でアップルを追い出された後に作った会社ですね。高等教育向けの新しいコンピュータを作ろうという目標で。黒いマグネシウムでできたボディのコンピュータでね、かっこいいんだけど、価格が高いうえに載せられるアプリが少ないんでなかなか売れなかった(笑)。


小川氏
 その日本法人に転職したと。


永沢氏
 そうなんですけどね、初めてみたときにはキヤノンが扱ってましたね、代理店として。当時のコンピュータはたとえばUI(ユーザーインターフェイス)の設計は座標計算でやってたわけですけど、いまでこそ珍しくはないけど、NeXTはGUI(グラフィカル・ユーザーインターフェイス)であっという間にプログラミングできちゃうんで、これはすげぇとぶっ飛んじゃって。いや、これはNeXTに入るっきゃないなと思ったんだけど、キヤノンに入りたいわけではないから、そのときは待ってたわけなんです。実際に入ったのはそれから2年くらい経ってからですね。NeXTのマーケティングチームとして。7人目の社員でした。


小川氏
 それでいつまでいたんでしたっけ?


永沢氏
 96年の12月にアップルに吸収合併されて、マーケの人間は要らん、エンジニアしか残さない、ということでね、退社しました。


小川氏
 ジョブズはどんな人でした? 実際に会っているんですよね。


永沢氏
 けっこう背がでかくて、ガタイがいいですよ。でね、よく言われることだけど自分が分が悪いと思うと、話をうまくそらす。そらしている間に、自分の思う方向にもっていくというのがうまい、絶対空間っていうんですけどね。たとえば彼にプレゼンしても一回じゃ通らない、だいたい三回か四回はやるんですよ。で、何週間かすると、誰かがプレゼンしたアイデアを、さも自分が考えたかのように持ち帰ってくる(笑)。


小川氏
 すごいな、と思うところは?


永沢氏
 たとえば今までとは違う事業を平気でやるとするじゃないですか。ライバル関係にある相手と平気で組んだりするとする。すると、マーケの連中からすれば当然反対するし、全体会議でもみんな文句いうわけじゃないですか。で、しばらくするとジョブズが入ってきてなんでそれをやらなければならないかをプレゼンするわけです。するとみんなが文句を引っ込めて、そうだそうだと言い始める。

 iMacだって、セールスの人間からすれば、フロッピーもない、ADBも廃止、SCSIも廃止、当時とすれば、そんなの受け入れないと思うわけです。でも彼が言うとそのまま通ってしまう。


小川氏
 なるほど。


永沢氏
 95年くらい、まだHTML 1.0の頃にジョブズは既に、アプリはWebベースに移っていくと言ってたしね。


小川氏
 技術者でもないのに、どうやって先見の明をもてるのかな。


永沢氏
 そう、でも彼ってプレゼンを自分でやるじゃないですか、たとえばNeXTSTEPの技術面とか、データベースなどの話を相当詳しく話すわけですよ。普段から分かっているわけじゃないと思うんだけど、どうやって理解しているのかな、と不思議でしたね。まあ、会社に入って、普通に一生懸命仕事をしようとする人は多分ジョブズと一緒にいるのは無理でしょうね、この人は神なんだと思わないと無理(笑)。


Movable TypeからBlogPeopleへ

小川氏
 話は変わりますけど、ご自身のブログである「Modern Syntax」はけっこう長いこと続いていますよね。ブログとの出会いは?


永沢氏
 2002年7月にBloggers.comでブログを作ってみようとしたけど、日本語は通らなかったのでやめた。それが最初ですね。そのときは正直ブログって単なる日記と何が違うのか、と思ったけどね。2003年になってMT(Movable Type)を試したんですけど、いやーMTに触ったのがおしまいでね、MTすげー、と感動して。ブログというよりMTに惚れたって感じです。

 だいたいね、Webサイトを更新するというのはめんどくさいじゃないですか。HTMLなんて難しいものを使って、自分の時間を使って管理しなければならないんだと思うとやる気でないわけです。それに、それまでのHPはデザインで差別化を図っていたわけだから、なおさらいろいろと面倒です。

 ところが、MTはHTMLを知らなくていい、しかもCSSとXHTMLの世界というのはよくできている。CSSはレイアウトからなにから全部管理できて、CSSをいじればデザインも変えられる、HTMLを書かなくてもコンテンツをかける、これはいい、と感動したわけです。


小川氏
 確かに。


永沢氏
 そのうちMTに関する情報が世界規模でどんどん入ってきて、それを追っていくだけで面白くなる。MTを試す、という気分がブログをやるというテーマになりました。

 でも、そのうちにはブログそのものが面白くなってきて。まだブロガー自体が少なかった頃で100人くらいだったかもしれないんだけど、そういうブロガー仲間の中でなんかシンパシーを感じるようになるじゃないですか。そうするともうはまって、仕事中もブログを書くようになった。公私混同なんてもんじゃなくて、これはやばいと考えて(笑)。だったらブログを仕事にしたらいいんじゃないのと思いついて。


小川氏
 それでBlogPeopleを始めた、と(笑)。


永沢氏
 そう(笑)。最初は単なるリンクリストだったんですけどね、リンクリストを効率的に作るには、ブログ側からPingしてもらう必要があって、それでPingサーバーの運営を始めることになるんです。そうするとサイトのアクセス数も分かってくるので、アクセスランキングをやれるようになる。そういうデータができはじめて、じゃあブログの情報をさまざま見せられるようなサービスをやろうと考えたんです。


小川氏
 なるほどね。


永沢氏
 とりあえずなんでもいいから始めてみるというのは大事じゃないですかね。見えなかったものが見えてくる、それによってさらにその先が見える、山に登るとその先の山が見えるわけですよ。ブログの中でどっぷり生活していると、肌感覚で欲しいものが分かってくる。それが分かったら、それをサービスとしてだしていく。その繰り返しです。


小川氏
 どのくらいのペースで?


永沢氏
 3〜4カ月のペースで新しいメニューをだしている感じ。あんまりだしすぎても分かんなくなってくるしね、既に今のサービスでも「わぁいっぱい」、という感じになってるしね。トラックバック・ピープルは3年くらい前にアナウンスしたサービスなんだけど、もっとたくさんの情報をより見やすく提供できるようにリファインをしたりしていますね。


小川氏
 とにかく始めてみる、始めてから分かることがあるというのは同感ですね。僕もいままで相当の数のサービスを作ってますけど、慎重にやり方を考えてたらできなかったことは多かったですね。


永沢氏
 modiphiが面白いと思ったのは、左にフォルダがあって、購読している流れがあって、中を見えるというインターフェイスですね。これまでとは違うビューの流れだし。


小川氏
 ありがとうございます。ブログにも書いてくれたしね 。でも、実はもうすぐビューも変えちゃうんですけど(笑)。


永沢氏
 そうなの(笑)。でもさ、Webサイトいらないというと誤解されるよ。サイトなくてもいいじゃん、フィード作ればいいじゃんっていうとさ。


小川氏
 そういうように言ったことはないんですけどね(苦笑)。

 フィードで記事配信するのに、わざわざブログを使ったり、Webサイトを更新してからそれをフィードにして通知をするのは、ちょっとインダイレクト(間接的)でしょ、と言っただけなんです。WebはWeb、フィードはフィードで、ブログがWebをカンタンにしたように、modiphiはフィードをカンタンに作れるようにしたい、といったんですけどね。


永沢氏
 フィードは光、Webは星、ってフレーズは前から考えてたの? どうやって思いついたの?


小川氏
 記者会見のときの思いつきですね。いろいろなメディアに取り上げていただけたんですけど、本人は狙ったわけじゃないから意外でね。


永沢氏
 そりゃそうだよ、そんな表現する人、他にいないもん。でも分かりやすいですよ。

 それはともかく、稟議書かいて、社内でコンセンサスをとって、準備をしていくというような環境はだめですね、こういう業界ではね。BlogPeopleのサービスは早ければ1日で作るし、基本は2週間くらいで作っていく。たとえばBlogPeople Loves Music -AutoPlay というサービスも早かったですよ。iTSの試聴時間って、制限の30秒があるじゃないですか、10回繰り返すとログインしろといわれるんですけど、それを回避しちゃう(笑)。


小川氏
 へえ。


やめていくブロガーを止める!

永沢氏
 それとね、COTOBACOってサービスを最近リリースしたんだけどね。一種のブログパーツ。サイドバー用のコンテンツの更新ツールといったほうがいいかな。


小川氏
 いろいろサービスが広がっていきますね。


永沢氏
 今年のテーマは、更新がストップするブログをいかに少なくするかなんですよ。BlogPeopleで今日の面白いBlogをランダムにチョイスして、紹介してるんですけどね、

 実際には既に死んでいるブログが多いんですよ。だからなんとか続けてほしいと思って。ブログを辞めるという人は、ブログに対する愛がないんです。たしかに記事がないのに書かなきゃいけないというのはプレッシャーになるわけだけど。COTOBACOはTwitter系のひと言メッセージなんだけど、YouTubeなどの動画や画像もアップできる、住所を入れるとGoogle Mapsにもなる。そういう楽しいツールを使って、書くくせをつけてほしいと思うんだな。ブログには個人的などうでもいいことはなかなか書けない、そういうこともCOTOBACOに書けるようにしたいと思うな。

 ブログを書いているということは、記事を書くコストが実はすごく高い、ログインして、書いて、アップして、リビルドして、Pingして、とネットワークにいろいろ負荷をかけている。だから、ちょっとしたことはCOTOBACOを使って軽く書いてほしい。


小川氏
 それはいいですね。


永沢氏
 テキストを書くくせをつけられるように、ブックマークレットやメールや専用アプリ、ケータイからでも書けるようにしたいし。

 いまのブログがごちゃごちゃしすぎているよね、初期のブログのよさが失われつつある。なんとかしたいよね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/07/10 00:00

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