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富士通・伊東専務、「グローバル化、オープン化を推進するプラットフォーム事業」


 富士通のプラットフォーム事業が、グローバル化に向けて大きな一歩を踏み出した。UNIXサーバーが欧州や米国を中心に高い実績をあげているのに加え、IT基盤「TRIOLE」についても、いよいよ海外戦略の本格化に向けた足がかりを作りつつある。これに加えて、オープン化戦略を加速。富士通の事業の成長をドライブする役割はますます重要になってきている。富士通のプラットフォーム事業は、今後どうなるのか。取締役専務 経営執行役専務・伊東千秋氏に話を聞いた。


投資意欲は海外を中心に回復基調に

富士通株式会社 取締役専務 経営執行役専務・伊東千秋氏
─中間期決算ではプラットフォーム事業が堅調な実績をあげましたね。

伊東氏
 2004年度上期の市況をみますと、いよいよIT投資意欲が持ち直してきたという感じを受けています。日本も欧米も、市況が変化しはじめました。だが、決して伸びているというわけではない。これまで投資が抑制されていたものが平常に戻ったというだけの話です。その点ではまだ気を抜けない状況にあります。


─決算の数字を見る限り、新紙幣対応のATMや、携帯電話の基地局が牽引役のようにも見えましたが。

伊東氏
 確かに、そのあたりが高い実績をあげているのは事実です。日本国内はなんだかんだいってもまだまだ厳しい状況にありますから。また、中国の動向も不安定ですし、円高や原油高を背景にした先行きの不透明感もある。しかし、その一方で、海外の投資意欲が、日本以上にポジティブになっていることは大きな流れだといえます。とくに欧州での伸びが顕著です。富士通全体では国内の事業比率が7割ですが、UNIXサーバーだけで見れば上期を通じて約60%が海外の売り上げ。10月単月の実績では、8割が海外が占めました。


─富士通が、海外で高い評価を得ている要因はなんですか。

伊東氏
 投資意欲が回復しているという市況の変化は見逃せませんが、それとともに、今年6月に発表したサン・マイクロシステムズ、マイクロソフトといった主要パートナーとのグローバルアライアンスがプラスに影響しています。どこのベンダーも、「パートナーシップを組んでいます」とは言っているが、よく見ると「製品を扱います」という程度のものが多い。だが、当社の提携は、開発の部分まで踏み込んだ提携であり、その深さが違う。マイクロソフト、オラクル、SAPとグローバルアライアンスを結んでいるベンダーは当社だけです。しかも、サンとも包括的な提携を結んでいる。


─ルータ、スイッチの分野では、新たにシスコシステムズとパートナーシップを結びましたね。

伊東氏
 これらの提携によって、ユーザーが安心して富士通と商談できるようになったといえます。グローバル戦略において、ユーザーに与える安心感の差が実績につながり始めているといえます。


ソフト・サービス事業との二輪体制

─黒川社長体制になって以降、従来のソフト・サービス重視路線から一転し、プラットフォーム事業を意識する発言が増えていますが、そのあたりもプラットフォーム事業全体の志気向上に影響していますか。

伊東氏
 「プロダクトとサービスは両輪である」という黒川の発言は、社内に大きな変化を与えています。ハード事業をやってきた社員からすれば、一時期は、おろそかにされている、あるいは幕引きにされた、という気持ちがあったかもしれません。しかし、時代の変化とともに、プロダクトそのものの重要性が改めて議論されるようになってきた。コストパフォーマンスばかりを追求していた時代から、品質が一番の評価ポイントに変わってきた。富士通にとっても有効な差別化ができるようになってきたのです。他社にはできない品質の製品をユーザーに提供できるというプラットフォームの強みが発揮できる。黒川はもともとSE出身であり、ソフト・サービス事業を知り尽くしていると言われますが、むしろ、SEだったからこそ、プラットフォーム事業の重要性がわかる。そのあたりが社員の間にも伝わってきたと思います。


─SEだからこそ、わかるプラットフォーム事業の重要性とは。

伊東氏
 いくらソフト・サービス事業が重要だといっても、「動いてなんぼ」の世界なのです。プラットフォーム事業がきちっとしていないとこれは実現できない。また、万が一、止まったときに、どうリカバリーするか。これもソフト・サービスだけではどうにもならない。この体験がプラットフォーム事業との両輪が必要であるという認識につながっている。全世界で成長している企業を見ると、両輪を持っている会社ばかりです。一方で、ソフト・サービスしかない、あるいはハードウェアしかない、という会社は苦戦している。

 ソフト・サービス事業は、SI、コンサルティング、アウトソーシング、保守、パッケージソフトの5つに分けることができます。このなかで、今後、利益の源泉となるのは、アウトソーシングと保守です。これらの事業は、ハードウェアプロダクトにディペンドした事業ともいえます。ますます両輪を持っていることで、強みが発揮できるのではないでしょうか。


TRIOLEでグローバル化を推進

─決算上では、プラットフォーム事業には含まれていないミドルウェアは、事業推進上では、プラットフォーム事業のなかに含まれていますが。

伊東氏
 プラットフォーム事業の特徴は、すべての製品がグローバル展開ができるという点です。その点では、ミドルウェアもグローバル展開ができるという点でプラットフォーム事業に含めてもおかしくはない。またハードプ鴻_クトとは切っても切れない存在です。実際、今年度からは、TRIOLEのグローバル化が最重点課題となっています。この10月に、英国にある富士通サービスで、TRIOLEの検証センターを開設しました。しかし、海外の連中は、何しろ口うるさい(笑)。まずは、Systemwalkerを検証してもらっているが、海外ならではの要求をどんどん言ってくる。パソコンは、約4年前にプロダクトプランニングに海外の意見を取り入れるようになった。サーバーは2年前から。そして、いよいよミドルウェアもその段階に入ってきた。これをやるには、海外の外圧に耐えられるだけの体制を国内に確立していないと、意味がないし、逆に潰れてしまう。その点でもミドルウェアの部隊が強くなってきたといえるのです。今後は、ドイツや米国にも検証センターを設置する予定です。


─昨年と今年ではミドルウェア戦略が大きく変化してきましたね。

伊東氏
 昨年は、むしろ方法論が先行していました。そのため、テンプレートを用意し、沼津の検証センターでそれを実証するというところで止まっていた。しかし、今年はエンタープライズグリッドという観点から、自律、仮想、統合を現実化する段階へと入っている。


─当初は、社内の足並みが揃わないという懸念も見受けられましたが。

伊東氏
 これまでに慣れたやり方というものがありますから、その点では意識を変えるのに少し時間がかかりました。ただ、大きな変化は、海外がTRIOLEに強い関心を持ち始めたという点です。これがトリガーになっている。もともと海外では、日本のミドルウェアは実績がないから使えない、という認識でいたものが、なかなかいい物をもっているじゃないか、というように変化してきた。さらに、相次ぐグローバルパートナーとの提携で富士通に対する安心感も出てきた。富士通のハードとミドルウェアをセットで入れようという動きも増えた。いま、事業部には「英語は下手でもいいから、自分で話せ」と言っている。だから、私もこの歳になって、また英語で一生懸命、商売をはじめることになった(笑)。一番良さを知っている人間が、自分の言葉で話すことが、一番伝わるのです。この海外での評価の変化は、社内にもいい影響を与えています。


─オープン化にも積極的に取り組んでいますね。

伊東氏
 開発から管理までのプラットフォームを、Eclipseベースによるオープン化を図るなど、ミドルウェアのマルチベンダー対応も積極化する予定です。富士通の製品だけで動くというのでは魅力がない。すでにIBMや、HPをはじめ、個別の案件ごとに動くようにはしているが、他社の製品上でも標準的に動くようにしていきたい。気持ちとしては、ミドルウェアで制覇したいという気がある。それだけの製品が富士通にはあると思っている。その点では、オープン化とグローバル化は必須の取り組みです。


10年にわたって複数のOSにコミット

─2005年には、次世代基幹IAサーバーの投入を予定していますが、その進捗状況はどうですか。

伊東氏
 開発は順調に進んでいます。すでに次のタイミングでリホスティングを検討している金融、官公庁などと導入に関しての話し合いも始めています。いまの段階では、これ以上のことには言及できません。


─サン・マイクロシステムズやマイクロソフトとの提携にはなにか動きはありますか。

伊東氏
 いまは、エンジニア同士が毎日のように話し合いを行い、お互いのコンセンサスを図りながら開発を進めています。エンジニアは年中、出張していますよ。この期間は、じっくりとベースを作る時期ですから、大きな進展があるとか、新聞記事になるようなセンセーショナルな話題はありませんが、提携という作業のなかではもっとも重要なフェーズだといえます。


─今年は大型提携が相次いだことで、逆に富士通の戦略が見えにくいという声もありますが。

伊東氏
 提携戦略のすべてに共通しているのは、オープン化、グローバル化という点です。また、サンのSolaris、SPARCについてもしっかりとコミットしたわけですし、将来のオープン化という点でも明確なロードマップを示しています。どれかひとつのOSに偏重してビジネスをやるのは、リスクが大きすぎる。メインフレーム、Solaris、Linux、Windowsのすべてにおいて、その上で動くお客様のアプリ資産を少なくとも今後10年間は確実に守るんだという姿勢を示し、顧客が安心してシステム構築、運用ができるようにしている。いま、企業間の提携は、紅白歌合戦のように、明確に紅組、白組が分かれるものではない。ある領域では協業し、ある領域ではコンペチターとなる。単純な構図が描けなくなっています。そのなかで富士通がいかに特色を発揮するかという点、また、グローバルプレーヤーとしての新たな役割が求められているのではないでしょうか。富士通はグローバル化しないと生き残れないと考えています。その先陣を切るプラットフォーム事業においては、グローバル化できない事業はやめるというぐらいの気持ちで取り組んでいます。これからもグローバル戦略は、ますます加速することになります。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/


( 大河原 克行 )
2004/12/14 00:00

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