日本電気株式会社は4月25日(以下、NEC)、同社の「プラットフォーム最適化ソリューション」において、クライアント環境の最適化を図る「クライアント統合ソリューション」を追加すると発表した。NECでは、「ユーザーの環境によって、バリエーションが必要になる」(マーケティング推進本部の藤岡忠昭本部長)ことから、サーバー内での情報資産の集中管理・運用を可能にするシステムと、関連製品を拡充し、順次販売を開始する。
■ セキュリティ面から注目されるようになった「シンクライアント」
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マーケティング推進本部の藤岡忠昭本部長
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統合クライアントソリューション3種の概要
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3種の内部動作の違い
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4月1日の個人情報保護法の施行に伴い、情報漏えい対策への関心がかつてないほど高まっている。その流れの中で、クライアント側に情報を保存できないシンクライアント端末や、サーバー上でアプリケーションを動作させるSBC(サーバーベースコンピューティング)に関する関心もまた高く、これまでに日立、日本HP、富士通などの大手ベンダからも相次いで製品やソリューションが発表されてきた。
そんな流れの中、NECでも当然、シンクライアントシステムやSBC関連の製品・ソリューションを検討していたが、同社ではこれを、インフラ環境を最適化する「プラットフォーム最適化ソリューション」の一部と位置付け、提供を開始するという。同社が用意したソリューションは、1)「画面転送型」、2)「仮想PC型」、3)「ネットブート型」の3つだ。各ソリューションとも、シンクライアント専用端末のほか、一般のクライアントPCでも利用できるようにし、柔軟な運用を行えるようにしている。
1)は、この分野のデファクトスタンダードと言われる、MetaFrameを中核としたSBCソリューション。MetaFrameでは、OSはクライアント側で動作させるものの、アプリケーションをサーバー上で起動させ、サーバー側からは画面の情報を、クライアント側からはマウスやキーボードの入力情報を送信する仕組みを採用している。本来は管理対象の集中による運用コスト削減などを目的に導入されるケースが多かったというが、データをローカルのPCに保存せずに運用できることから、近年は情報漏えい対策のソリューションとしても注目が集まっていた。
このソリューションのメリットとしては、MetaFrame自体にSSL-VPNオプション「Secure Access Manager」が用意されているなど、もともとモバイルでの使用を意識した機能が盛り込まれていること。また第二コンピュータソフトウェア事業部の赤津素康事業部長は、「ICAプロトコルを利用することで、ネットワークにかかる負荷が小さい点」「通常のPCを利用すると、一部アプリケーションをSBC方式で集中管理しながら、ほかのアプリケーションをローカルで動作させられる点」もメリットとした。
もっとも、MetaFrameは競合ベンダのソリューションでも広く利用されており、あまりソリューションごとの機能的な差異はない。NECでは、2000年より認定SIerとして活動し、日本最多規模の販売実績を持つこと、日本語版MetaFrameの開発協業を推進中であること、などを挙げ、シトリックスとの深い関係をアピールして、売り込みを図る。
また同社は、MetaFrame以外にSun Rayシステムをラインアップ。Solaris/Linuxで構築された基幹アプリケーションを使用する部門や、ICカードによる高度なセキュリティを実現させたいという顧客のニーズにも応えられるとした。
■ 「仮想PC型」「ネットブート型」の投入で柔軟な運用を可能に
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VirtualPCCenterで採用している最適化の仕組み
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2)の仮想PC型は、アプリケーションだけでなく、OS環境も含めて、まるごとサーバー上で動作させるソリューション。NECはこの型のソリューションを実現するため、「VirtualPCCenter」というミドルウェアを開発し、8月末より提供を開始する。このミドルウェアを利用すると、既存のPC環境をそのままカプセル化し、「仮想PC」としてサーバーで実行できるようになるため、簡単にPC環境の移行を行えるという。
このタイプのメリットは、仮想PCの複製機能によって高い可用性を持つこと、多様なアプリケーションを使用する環境にも対応できることで、一部、対応できないアプリケーションがあるMetaFrameと異なり、ほぼすべてのアプリケーションが動作するため、定型業務以外の環境でも使用に耐える。ただしこのソリューションでは、OSごとサーバー上へ移行する関係上、サーバーの負荷をいかに高くせずに運用するかが鍵。NECではこうした課題に対応するため、VirtualPCCenterに、高負荷の処理を別のサーバーにシームレスに移動させる機能や、特定の仮想PCの負荷が上昇した場合に優先的にサーバー内の未使用CPUやメモリを割り当てる機能を搭載し、リソースの最適配分を行えるようにしている。
このソリューションについて赤津事業部長は「ブレード型のPCをデータセンターに集約するブレードPCソリューションに近いが、そちらは(PC1台にユーザー1名の)1対1対応なのに対し、仮想PC型では(サーバーに集約する)1対nの柔軟な運用ができる」と述べ、ブレードPCのソリューションに対する優位性を述べた。
最後の3)は、米Ardenceのミドルウェアを用いて、ネットワーク経由でOSをブートさせるソリューション。マルチキャスト送信をサポートし、OSイメージの配信要求が集中しても、高速にブートさせられるように工夫されているという。またアプリケーション、データもサーバー側で一括管理するが、1)2)と異なり、実際の処理はクライアント側で行うため、その性能を最大限に活用できるメリットがある。
さらに、周辺機器の制約がない点も長所で、デジタイザなどの特定業務専用機器も利用できるほか、アプリケーションの利用にも制限がなく、通常のPCと同じように使用可能なことから、これまではSBC/シンクライアントソリューションの導入が難しかった、映像処理、設計、出版の各業務などでも利用できる。なお、USB機器などの使用に関しても制約はないが、セキュリティ上の対策として、USBメモリなどの外部メディアを使用規制することも可能とのこと。ただし、マルチキャスト配信などをサポートしているとはいっても、ネットワークへの負荷はある程度高くなるのは仕方のないところで、モバイルでの利用には適さない。販売は6月末より。
■ シンクライアント端末のラインアップも拡充
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Express5800/51Lcの内部。本来HDDが収まるスペースが空洞になっている
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なおNECではこれらのソリューション向けに、専用のシンクライアント端末を順次発売する。1)2)向けの「TC-Station」は、MetaFrame用のICA、Windows用のRDP、両プロトコルをサポートするHDDレス端末で、シンクライアント用の独自OSを搭載。各種設定情報、ファームウェアをDHCP/FTPサーバーから取得して自動アップデートする機能を備える。価格は5万5000円(税別)。
一方、2)向けには、ビジネスPCからHDDを省いた「Express5800/51Lc」が提供される。シンクライアントながらWindows XPが動作し、アプリケーションや周辺機器の互換性を保っているという。Celeron DとPentium 4の各モデルが用意されており、価格は6万9800円(税別)から。
なお藤岡本部長は最後に、「単にHDDをはずせば漏えい対策になるのか。そうではなく、メールからも情報を持ち出せないようにする、サイバーアタック対策をするなど、総合的なセキュリティソリューションを考える必要がある」と述べ、プラットフォーム全体を見て、より高いレベルで対策を行うべきだという考えを示した。
■ URL
日本電気株式会社
http://www.nec.co.jp/
プレスリリース
http://www.nec.co.jp/press/ja/0504/2502.html
( 石井 一志 )
2005/04/25 19:23
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