富士通フォーラム2012開幕~山本社長が特別講演で、ヒューマンセントリックな姿勢を強調


富士通 代表取締役社長の山本正已氏

 富士通は17日、「富士通フォーラム2012」を開幕した。富士通の代表取締役社長である山本正已氏と、ガートナージャパン株式会社のバイスプレジデントである山野井聡氏が「お客様とともに描く、これからの社会とビジネス」というタイトルで特別対談を行った。

 富士通フォーラムは毎年開催していたが、昨年度は東日本大震災の影響で開催を中止し、今年は2年ぶりの開催となる。その幕開けの場となる特別対談に登場した富士通・山本社長は、「これまでは富士通側からのプレゼンテーションとしてお話しをしてきたが、今回はガートナージャパンの山野井さんとの対談で、皆様の疑問にも答えられるようお話しを進めていきたい」と単独の講演ではなく、対談というスタイルをとった理由を説明した。

 それを受けてガートナージャパンの山野井氏が同社の調査による国内のICT市場は、今年は成長が横ばいと予測されていること、今後成長が期待できるテクノロジーとしてはモバイルへの期待が最も高く、その反面、クラウドに期待するという回答がアンケート等では減っていることなどを紹介した。

 こうした現状をふまえ山本社長に、「昨今の経済環境をどう見ているのか?」と最初の質問を投げかけた。

 山本社長は、「経済環境は国内だけの動向ではなく、世界レベルで考えるべきではないか。それもこれまでの米国、欧州、日本といった先進国中心に、一定のルールを持って進んできた経済が、21世紀に入ってからは中国、インドなどが経済力を増して、これまでのルールが通用しない世界に変革している。そうした変化をふまえると、国内だけではなく、グローバルに目を向けていないと経済的な成長ができない時代に入った」と経済環境が大きく変わり、富士通としてのスタンスにも変化があると説明した。

 続けて、「ICTの世界に起こっている変化をどう捉えているか?ユニクロに代表されるファストファッションと言われる衣料品の世界や、LCCと呼ばれる低価格交通路線のような価格破壊の波はICTの世界にも訪れている。その要因となっているのがクラウドだと考えられるが」と訊ねられると、山本社長は「そうした変化はグローバルでの戦いが反映した結果起こったことで、これはICTの世界に留まったものではない」と答えた。

 「元々ICTの企業導入は、バックオフィスを効率化するところからスタートしているが、それが社会インフラ分野にまで活用されるようになった。現在では社会インフラにとどまらず、新しい価値を生み出すことが出来ないか、試行錯誤が進んでいる。サービス提供においても、グローバルに均一したサービスをどう提供していくのかがITベンダー側に求められる課題となっている。企業の成長という命題に答えるためには、『ICTなくして企業の成長なし!』であると断言したい」(山本社長)。

 ただそうした一方で、「ICTコストをどこに使っているのかを調査すると、企業内の既存資産のために活用されるコストが8割で、新規ビジネスのためや新たなIT投資には2割程度しか活用されていない。この状況をせめて5対5に出来ないかと考える」(山本社長)という現状であるとも指摘した。

 こうした状況を打破していくために、「従来の守りのための投資から、今後の成長につながるような攻めの投資に転換するために、どうするべきか?」とい山野井氏が質問。山本社長はこれに対して、「スーパーコンピュータは、従来は計算速度の速さを競い合うためのものという部分があった。しかし、最近ではその計算能力をビジネスのために利用することで成長をおさめている企業が存在する。例えば、製造の現場でのシミュレーション用に活用している企業では成果をあげている」とICTパワー活用が企業の成長に寄与した例が出ていると紹介した。

 さらに山野井氏が、「企業のICT活用を最適化するために、情報システム部門やその長であるCIOは何をするべきか?」と質問した。それに対し、山本社長は次のように答えた。

 「CIOにはICTを活用した経営の安定も課題となっているが、ただその一方で現場サイドから新しいICT活用の動きが出ている。この現場から起こっていることと、会社全体をどう繋いでいくのかが新しい課題といえるのではないか」。

 この答えを聞いた山野井氏からは、「現場からの変化とは、個人がコンピューティングパワーを持っていることによる変化。問題が起これば、TwitterやFacebook、また2チャンネルのような掲示板に情報が書き込まれ、コールセンターにクレームが入るのはその後となる。どうすれば早期にクレーム対応を行い、クレームの声を見逃さないようにするためにはどうすればいいのか?」という疑問の声があがった。

 ちなみに、両氏ともにFacebookやTwitterといったソーシャルメディアの威力と可能性を認めながら、一つの発言に大きな責任がつきまとうだけに、山本社長、山野井氏ともに利用していないそうだ。

 こうしたソーシャルメディア経由も含めたビッグデータの活用について山本社長は、「情報があふれかえっている現状からビッグデータという発想が誕生した。ビッグデータには企業内にある大量のデータの解析、活用という意味と、ソーシャルメディアをはじめとした社外にあるデータをどう活用するのかという二つの意味がある。それもデータそのものではなく、それをどう解析し、分析するのかに意味がある」と答えた。

 山野井氏は、「ただし、例えばERPは重要なデータではあるが、あくまでも過去の成果のデータで、データマートについてもやはりデータは過去のもの。ビッグデータに大きな可能性を感じる人が多いのは、センサーを使うことでこれから起こることをシミュレーションしていくといった活用ができるからではないか」と指摘した。

 山本社長もこの見方に賛同しながら、「冒頭の山野井さんのお話しで、お客さまがビッグデータに高い関心を持っているものの、クラウドに対しては関心が低くなっているという指摘があったが、これはクラウドが当たり前のものになったからではないか。実際に当社のクラウド関連製品の売り上げは大きく伸張しており、グローバルな環境でクラウドを意識せず、自然に使うことが当たり前の時代が到来したのではないか」とクラウドへの関心について言及した。

 これに対し山野井氏も、「JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)の調査では、東日本大震災前はクラウド利用に懐疑的だった情報システム部門が、震災以降は自分達がデータを持つことのリスクやバックアップ用に低価格のクラウドサービスをどう活用するのかと志向が大きく変化している」とクラウド普及が進んでいることを認めた。

 ただし、「セキュリティ等への不安の声も大きくあがっている」という現状があるとも話した。

 それに対し山本社長は、「イチかゼロかではなく、上手な使い方が必要となる。例えば金融機関がクラウドを本業に活用できるのか、となれば、セキュリティ的な不安も大きくなるだろう。しかし、金融機関でもフロント部分に導入するとなれば決して無理ではない。きちんと仕訳をして、クラウドを使える部分、使えない部分を見極めることが重要ではないか」と話した。

 富士通自身に対しては、「携帯電話やパソコンなどの端末事業から撤退し、クラウドの中心部に関連するビジネスだけに特化していくべきではという声がある。しかし私は人と触れ合うヒューマンセントリックなところから新しい方向性が生まれると感じている。サーバーやそれにまつわるソフト、サービスからモバイル機器まで一気通貫で製品を提供し、サポート出来ないと駄目だと考える」(山本社長)とモバイル端末に関してもビジネスとしていく重要性を強調した。

 実際に個人がコンピューティングパワーを利用し、ソーシャルメディア経由で「アラブの春」といわれる中東での政変がソーシャルメディア経由で起こっている事実に対し、「ソーシャルメディアの普及スピードはものすごい勢いで進んでいる。それも今までとは違い、地域、国境が無くなり、ボーダーレスに人間の考え方も変わってきている」(山本社長)と指摘した。

 富士通自身が考える今後のビジョンとしては、「去年からヒューマンセントリック・インテリジェント・ソサエティを標榜している。省力からスタートしたICTがインフラに導入され、社会の仕組みを変えていくものにまで成長している。今後は人に優しいICTとはどうあるべきか、優しい街作りを実現するためにICTはどうあるべきか?といったことへ、これまでの導入ジャンルから大きく広がっていく」(山本社長)と話した。

 この具体例として、「農業分野は高齢化が進み、生産者が培ったノウハウが継承されないという問題が起こっている。この問題をICT活用で変革できないか。これまでは無関係と思われていた分野にこそ、ICT活用で新たな可能性が拓ける」(山本社長)と可能性があると話した。

 医療分野についてもこれまでは病院のICT化に取り組んできたが、「今後はヒューマンセントリックを実現するために、在宅医療問題に取り組む必要があるのではないか。医療費の高騰といった問題に対処していくために、そこまで踏み込んでいかないといけない」(山本社長)と富士通としてより広い領域へのICT活用を模索するという。

 こうした新分野へのチャレンジを実現する原点となるのは、「我々はテクノロジーを育てていくDNAを持った会社」と山本社長は強調。新しいUltrabookを手にとって、「これは現場の技術者にいわせると、ハードディスクを入れたものとしては最軽量の製品。こういうモノ作りにこだわる気持ちがある」だとアピールした。

 テクノロジーを支えるのは、富士通のシステムエンジニアなど社内の人材だが、「富士通の人材育成は現場主義が基本」と山本社長は指摘した。

 「営業においてもお客様と一緒に現場に行って問題解決を行い、モノ作りについても現場で問題を見極める必要がある。机上で考えているだけでは駄目で、現場に出向いて物事を解決する、これをさらに強化していきたい」。

 これを聞いた山野井氏は、「この現場志向は大変素晴らしい。フィールドイノベータというものを実施されているそうだが」とあらためて質問した。

 山本社長は、「フィールドイノベータは現場志向の一つで、現場で問題を解決し、さらに現場で得た声を社内に持ち帰り、その後の商品開発などにどう生かしていくのかといった循環を作っていく仕組み。開発者であっても、自分が作ったものが有効に活用しているのか、狙い通りに利用されているのかなどを確認するためには、現場に行って自分の目で見なければわからない」とその仕組みを説明した。

 富士通では社内スタッフの半数を占めるというSEを営業主体、企業軸のマトリックス体制に変更。SEが独立して各ジャンルごとに効率化されたサービスを日本だけでなく、グローバルに提供するという目標を掲げている。

 こうした変化を受けて、「どうすれば富士通はお客様から喜ばれるICTベンダーになることができるのか?」と山本社長が山野井氏に質問すると、「次の3点が重要」と答えが返ってきた。

 (1)テクノロジーのエキスパートであること
 (2)出来ないことは、出来ないとはっきり言う
 (3)現場主義

 「出来ないことを出来ないということは、全ての場合に当てはまるわけではないが、以前に比べると何でも出来るといわれても困るという声はあがっている。現場主義についてもサービス・レベル・アグリーメントに沿っていれば十分ということではなく、現場での声にきちんと耳を傾けることが出来るのかが必要となるのではないか」と山野井氏は指摘した。

 これを聞いた山本社長は、「その現場で声をきちんと聞くことは大変に重要。富士通のプロジェクトでも失敗したプロジェクトの多くがコミュニケーションミスにより起こっている。場合にとってはケンカをしても、お互いにきちんと意思を疎通していく努力が必要となる。実は最近、気遣いということばが気になっている。気遣いは日本人の素晴らしい特性であり、それができる富士通でありたい。お客様にきちんと気遣い、寄り添える存在でありたい」と賛同した。

 そして最後に今回の富士通フォーラムのテーマとして、「よりよい方向に転換するためのヒントとなるような展示、セミナーを用意した。是非、お客様のビジネスに役立てて欲しい」と話し、対談を終えた。

関連情報
(三浦 優子)
2012/5/17 15:56