NEC、2011年度連結業績は1103億円の最終赤字に~全社戦略投資の半分をクラウドサービスに投資


NECの遠藤信博社長

 日本電気株式会社(以下、NEC)は27日、2011年度(2011年4月~2012年3月)の連結業績を発表した。

 売上高は、前年比2.5%減の3兆368億円、営業利益は同27.5%増の737億円、経常利益は前年から420億円増の420億円、当期純損失は前年の125億円の赤字から悪化し、1103億円の赤字となった。

 NECの遠藤信博社長は、「個人向けPCの非連結化を除けば、売上高は前年比1%増となっている。また、タイの洪水被害により、売上高で約200億円、営業利益で約80億円の影響があったが、これはほぼ吸収できた。しかし、超円高、東日本大震災、タイの洪水などに対して、スピード感を持って対応してきたが、それが十分ではなかった。期初計画の大幅な下方修正のほか、2期連続の最終赤字、無配となったことはトップマネジメントとして重く受け止めている」として、スマートフォンの競争力不足、タイ洪水の影響によるプラットフォームおよび電子部品の悪化、繰り延べ税金資産の見直し、構造改革費用に405億円を計上したことなどが業績に影響したことを示した。


2011年度決算の概況

 2011年度通期のセグメント別業績は、ITサービス事業の売上高は前年比1.6%増の8169億円、営業利益は181億円増の395億円。官公庁、自治体、医療機関、製造業でビジネスが堅調だったことで増収となったほか、費用削減、不採算案件の減少などにより増益になった。

 プラットフォーム事業の売上高は0.9%減の3724億円、営業損失は36億円減の52億円。ハードウェアを中心にタイ洪水の影響により減収減益となった。

 キャリアネットワーク事業の売上高は4.5%増の6330億円、営業利益は154億円増の561億円。WBA、MBH、海洋システム、サービス&マネジメントの4重点領域で増収。社会インフラ事業の売上高は3.6%増の3304億円、営業利益は16億円増の162億円。放送、消防・防災などの社会システム分野が増収となったほか、原価低減の推進により増益となった。

 パーソナルソリューション事業の売上高は13.8%減の6610億円、営業損失は29億円増の10億円。個人向けPCの非連結化などで減収となったが、開発費の効率化、費用削減などで増益となった。

 その他事業においては、液晶事業の非連結化、電子部品のタイ洪水の影響で売上高は8.8%減の2232億円、営業利益は2億円減の71億円となった。


営業損益の増減セグメント別の実績
NECの抱える課題
NECの経営方針

 2012年1月に発表した1万人の人員削減を含む事業構造改革への取り組みについても説明。「確固たる利益体質への転換のための構造改革、キャッシュフロー重視の事業体への変革に取り組んでおり、携帯電話事業では海外JDM(Joint Design Manufacturer)の活用や開発・生産体制のスリム化で110億円の構造改革効果、プラットフォーム事業ではハードウェア開発、生産体制のスリム化で60億円の構造改革効果がでている。また、NECトーキンでのキャパシタ事業の再構築に取り組んでいる。さらに、時限措置として、緊急人事施策を行っており、取締役および執行役員では月収40~10%削減、管理職では7~5%削減、一般従業員は4%の削減を行い、これにより160億円の構造改革効果を見込んでいる。これら一連の施策により、全体で400億円の構造改革効果を見込む」とし、「1万人の人員削減については、労働組合と協議中だが、ほぼ予定通りに進んでいる」などとした。

 また、遠藤社長は、次期中期経営計画の検討を開始したとして、「成長領域である、ITサービス、ネットワーク、社会インフラ、エネルギーの4本柱への集中する。また、クラウド、グローバル、新規事業といった注力領域は継続しながら、2012年上期に新たな計画のフレームワークの策定を行う」とし、「次期中計は、当社が持つポートフォリオをしっかりみて方向を決める。6カ月間で決定する考えであり、具体的な計画は、上期の業績発表時点までにまとめて報告したい」とする一方、「大きな構造改革は今回で一段落することになるため、これを9月までにやりきることが大切である。だが、費用の削減努力とコスト競争力をつけることは、継続的に取り組んでいく」とした。

 さらに遠藤社長は、「NECの強みは、さまざまな領域の製品、サービスを持っていることであり、クラウドの領域においても、サービス、ITプラットフォーム、ネットワーク、デバイスといったクラウドに必要とされるすべてのものを持っている。そしてこれらは重点4本柱のなかにも含まれるものである。特にインフラでの強さを発揮したい」などとした。

 加えて、2012年度に全社戦略投資として200億円を計上することを公表。新事業創出機能の強化、海外事業の強化、エネルギー関連事業の強化に対して投資する計画を明らかにし、「そのうち、約100億円がクラウドサービスに振り分けることをすでに決定している」などと語った。


1月に発表した経営改革の骨子事業構造改革の進ちょく費用構造改革の進ちょく

 

2012年度は黒字転換を目指す

2012年度の業績予想
セグメント別の業績予想
注力分野への集中投資を行う

 一方、2012年度(2012年4月~2013年3月)の通期業績見通しは、売上高が前年比3.7%増の3兆1500億円、営業利益は35.6%増の1000億円、経常利益は66.5%増の700億円、当期純利益は前年の240億円の赤字から黒字転換し、200億円の黒字を見込むとした。

 「IT産業が2%弱の市場成長が見込まれるなかで、当社は4%近い売り上げ成長を目指す。400億円の構造改革効果とともに、ITサービス、ネットワーク、社会インフラでの安定的な収益確保を図る」(遠藤社長)と意欲をみせる。

 事業セグメント別の通期業績見通しは、ITサービス事業が、製造業、通信業、金融業でのビジネス拡大により増収を目指し、売上高は前年比4.7%増の8550億円、営業利益は175億円増の570億円。プラットフォーム事業は、大型案件獲得を中心に事業を拡大することで、売上高は7.4%増の4000億円、営業利益は98億円増の150億円。キャリアネットワーク事業は、サービスおよびマネジメント、海洋システムなどの海外事業を中心に、売上高は14.5%増の7250億円、営業利益は49億円増の610億円。社会インフラ事業は、消防、防災などの復興案件の取り込みなどにより、売上高は13.5%増の3750億円、営業利益は28億円増の190億円。パーソナルソリューション事業は、第1四半期まで個人向けPCの非連結の影響が残るが、携帯電話事業を中心とした構造改革の効果により、売上高は7.7%減の6100億円、営業損失は90億円増の100億円。その他事業では、エネルギー事業が拡大するものの、電子部品事業の非連結化により、売上高は17.1%減の1850億円、営業利益は9億円増の80億円となると見込んでいる。

 「各セグメントにおける構造改革の断行と、注力分野への集中投資、事業機会をとらえた成長基盤を構築する。上期は赤字見通しのため、中間配当は無配となるが、通期では営業利益1000億円、最終利益200億円を達成し、復配を目指す」などとした。

 会見で遠藤社長は、重点4分野に対する取り組みについても説明。ITサービスについては、スマートフォン関連設備投資や、金融再編、大型案件の更改、国民ID制度などの国家プロジェクトへの参画を狙うなど、IT投資が活発な領域への事業の集中とともに、日本の企業の海外進出需要の取り込み、クラウド、ビッグデータ、スマート端末などにおける先行投資の加速などを進めるとした。

 キャリアネットワークでは、LTE分野において、パートナーとの協業による海外市場の開拓、大型プロジェクトにおける海洋システムの強化、ConvergysのBBS事業部門買収によるサービス&マネジメント事業基盤の強化などをあげた。

 社会インフラ事業では、セーフティ、宇宙、防災といった観点から、グローバルおよび新規事業の拡大などに取り組むことなどを重点施策にあげた。

 エネルギーにおいては、エネルギーユーティリティ事業に加え、電気自動車向け電極事業での確実な売り上げおよび利益の確保のほか、蓄電システム、スマートメーター、HEMS、EVクラウドなどの新規事業における立ち上げの加速などに取り組み、2012年度の売上高は15.6%増の740億円、営業利益率は7~10%を見込むという。


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