日本HP、ノートPCの国内生産開始にともない昭島工場の見学ツアーを実施

ノートPCの品質向上、納期短縮、サービスレベル向上を実現


取締役 副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の岡隆史氏

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は24日、東京・昭島工場において、8月8日からノートPCの国内生産を開始したことを受け、メディア向けに昭島工場の見学ツアーを実施した。

 見学ツアーに先立ち、取締役 副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の岡隆史氏が、ノートPCの国内生産に至る経緯について説明した。「米国本社では、ノートPCは集中生産・管理する方が量産効果が大きいという認識が強く、なかなか日本での生産が許諾されなかった。しかし、日本市場では、顧客ニーズに合わせてPCをカスタマイズし、短期間で納品することが事業拡大のカギであり、実際に国内生産したデスクトップPCやワークステーションは販売を伸ばしてきている。こうした実績を示しながら米国本社と交渉を重ね、6年越しでノートPCの国内生産が実現した。ノートPC事業の強化は、日本市場における重点課題でもあり、今回の国内生産スタートを機にノートPCのさらなるシェア拡大を図っていく」と述べた。

 また、岡氏は、米国本社で発表された「webOS」搭載スマートフォン、タブレットPCの販売打ち切りについて言及し、「スマートフォンおよびタブレットPCのハードウェア事業からは撤退するが、webOSのビジネスをやめることはない。webOS自体は、モバイルプラットフォームとして非常に優れた製品であり、ソフトウェア事業の中で今後も展開していく」と、webOS事業は継続していくことを強調した。

 あわせて、PC事業を見直し、1年から1年半後に新戦略を打ち出すという発表内容についても触れ、「一部で報道されているようなPC事業からの撤退はありえない。戦略を見直す中で、事業分離という選択肢もあるだろうが、現時点で決まっていることは何もないのが実情。その中で、日本法人が今できることは、新たなPC戦略の発表を待ちつつ、現状のビジネスを継続していくことだ。今後、1年から1年半の期間でPC事業をさらに成長させる新戦略が固まるものと確信している」との考えを示した。


HP ProBook 6560b Notebook PCシリーズHP EliteBook 2560p Notebook PCシリーズ

 今回、昭島工場が国内生産を開始したのは、法人向けノートPCの15.6インチ液晶搭載「HP ProBook 6560b Notebook PCシリーズ」および、ハイエンドモバイルノートPCの12.5インチ液晶搭載「HP EliteBook 2560p Notebook PCシリーズ」の2機種。国内生産化の開始にあたって、法人向けノートPC製品のラインアップの中でも、自由なカスタマイズによって最小構成からハイエンドまで幅広い構成を顧客に提供できる2機種をまず選択したという。今後、この2機種以外のほかの法人向けモデルや個人向け製品においても、年内をめどに順次国内生産を拡大していく予定。

パーソナルシステムズ事業統括 PSGサプライチェーン本部 本部長 昭島事業所長の清水直行氏

 ノートPCを国内生産することでのメリットについて、パーソナルシステムズ事業統括 PSGサプライチェーン本部 本部長 昭島事業所長の清水直行氏は、「まずは、海外生産に比べて、品質の向上が図れる。海外から完成品を輸送する際の振動、衝撃、温湿度変化などに起因する初期不良を低減できるとともに、日本人スタッフによるきめ細かい工程管理や製品検査の実施、さらには顧客の声を製造現場に即座にフィードバックすることで、さらなる品質向上につなげることができる」としている。

 また、納期の短縮も大きなメリットで、「これまでノートPCの納期は10営業日だったが、国内生産開始によって、5営業日での納品が可能となり、大幅な納期短縮を実現した」(清水氏)という。さらに、従来まで国内生産の法人向けデスクトップPCとワークステーション向けに展開していた「カスタムインテグレーションサービス(CIS)」を、ノートPCにも対応することで、「法人顧客からの多様な要望にきめ細かく対応したサービスが提供可能となった」(清水氏)と、ノートPCのサービスレベルを向上できる点もメリットとして挙げていた。


国内生産のメリット国内生産と海外生産のSCM比較カスタムインテグレーションサービス(CIS)の概要

 昭島工場の見学ツアーでは、「アッセンブリー(組み立て)」から「プリテスト(初期動作試験)」、「ラン イン」、「ソフトウェアインストール」、「梱包」、「抜き取り検査」まで、実際にノートPCが完成するまでの製造工程を見学することができた。

 「アッセンブリー(組み立て)」工程では、基本組み立てが終わったノートPCに、顧客の仕様に応じて、CPUやHDD、メモリなどの部品を組み込んでいく。使用される部品は、バーコードで管理され、間違った部品を選択したり、必要な部品がなかったりすると、先に進めないようになっている。1つのラインに必要な作業者は7~10人で、ノートPC1台当たりの生産時間は6時間。2シフト体制によって昼夜切れ目ない生産が可能だという。


昭島工場の「アッセンブリー(組み立て)」工程昭島工場の「プリテスト(初期動作試験)」工程

 「プリテスト(初期動作試験)」工程では、CPUクロック周波数、メモリ容量、ハードディスク容量などのハードウェア構成の自動検査および対話式テストを実施する。オペレーターがオーダーIDと本体シリアルナンバーをPCに入力することで、必要なハードウェアとソフトウェアの構成情報および診断プログラムを生産用サーバーからダウンロード。診断プログラムによって、ハードウェア構成情報と自身のPC構成を電気的に比較・認識し、オーダー構成と合致することをチェックする。


昭島工場の「ラン イン」工程昭島工場の「梱包」工程

 「ラン イン」工程では、高負荷テストなどの連続動作試験をサーバーによって実施。「ラン イン」終了後は、そのまま生産用サーバーから必要なソフトウェアを自動でダウンロードし、インストールが行われる。


昭島工場の「抜き取り検査」工程振動発生装置を使った試験も実施

 「梱包」工程では、製品のクリーニングと外観検査、付属品の員数検査(バーコード管理)と添付、箱詰め、そして保証書とラベル張りが行われ、出荷へと至る。また、この工程において、完成品の「抜き取り検査」を実施。検査内容は、OSのセットアップ、プリンタとの接続とテスト印字、外付けデバイスの接続・認識テスト、マイクとスピーカーの録音・再生テスト、DVDなどソフトの再生テストなど、顧客の使用環境に近い検査を行うという。このほか、輸送時の振動耐久を確認するため、時速100kmで1000kmを走ったのと同じ状態を作る振動発生装置を使った試験も行われていた。

 なお、この製造ラインは、従来の法人向けデスクトップPCとワークステーションで使われていたラインをそのままノートPCに適用したもので、ノートPCの生産開始にともなって、製造ライン自体に大きな変更や改修などは行っていないとのことだ。

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(唐沢 正和)
2011/8/25 06:00