富士通、中期経営計画で「クラウドのコアビジネス化」を掲げる


 富士通株式会社は17日、2011年度の経営方針を発表するとともに、東日本大震災の影響で公表を見送っていた2011年度業績見通しについて発表した。

 富士通の山本正已社長は、社長就任直後の2010年7月に3カ年の中期経営計画を発表していたが、2011年1月には「これをリセットする」と発言。今年4月以降に公表するとしていた。


富士通の山本正已社長2010年度の決算総括

 

連結営業利益率で5%超、海外売上高比率40%超を早期に目指す

2011年度の業績予想

 今回発表した経営方針では、早期達成水準として、連結営業利益率で5%超、海外売上高比率40%超、フリーキャッシュフローで1500億円超を目指すとした。あえて達成時期を示さなかったことについては、「東日本大震災の影響を確実に見切れていない。そのため明確な達成年度を公表しなかったが、私は3カ年計画というイメージを持っており、2013年度に連結営業利益率5%達成を目指したい。この目標達成は、2011年度のスタートにかかっている」(山本社長)とした。

 富士通 取締役執行役員専務/CFOの加藤和彦氏は、「2011年度の営業利益率見通しは2.9%だが、震災影響を除くと3.7%であり、すでに4%弱の水準にある。5%の営業利益率はターゲットとして明確なイメージのなかにある」と、早期達成に自信をみせた。

 さらに、経営方針のなかで山本社長は、「クラウドのコアビジネス化」を掲げ、2010年度には380億円強の国内クラウドビジネスの売上高を、2011年度には1000億円規模に、2013年度には3000億円を超える規模を目指すことを明らかにした。

 また、長期の成長ビジョンとして、連結営業利益率10%超、海外売上高比率50%超、フリーキャッシュフローで1500億円超の安定的な創出を目指すことを明らかにした。


グループ基本戦略の中における2011年度の位置づけ2011年度は純利益ベースの増益を最優先持続的な成長のための布石

 

「攻めの構造改革」など3つを成長テーマに

3つの成長テーマ
成長テーマにはすでに取り組んでおり、その取り組みを加速させるという

 2011年度以降のグループ基本戦略として、山本社長は、「攻めの構造改革」、「真のグローバル化の加速」、「新しいサービスビジネス」を、3つの成長テーマにあげ、「テクノロジー、プロダクト、サービスといった垂直統合の強みを、グローバル均一に提供する。さらに、テクノロジーをベースとしたグローバルにインテグレートされたサービス企業として、持続的な成長を遂げることで、お客さまに最大の価値を提供したい」などと語った。

 このなかでクラウドビジネスの強化については、中期展開で掲げる「攻めの構造改革」のなかで重点項目にあげた。

 山本社長は、「既存SIからのリソースシフトを図り、クラウドのコアビジネス化に取り組む」と前置きし、「FGCP(Fujitsu Global Cloud Platform)/A5の商用サービスを開始し、世界6カ所のデータセンターを活用した富士通独自のFGCP/S5とともに、顧客のクラウドニーズに応えていく。こうした新しいサービスを核としたグローバルな展開により、ビジネスのスコープを広げていく。中期的には、富士通の全事業領域を統括した新しいサービスモデルを機軸として確立したい」と語る。

 さらに、クラウドをトリガーに他社攻略と新ビジネス創出により、グループ全体の成長を目指す考えだ。

 2011年度のクラウドサービスに関しては、商談数、受注件数の拡大によって市場を一気に囲い込むこと、先端技術を取り込みことで次のビジネスの仕込みへとつなげること、2011年末までに全世界5000人のクラウド人材を育成することを掲げ、「クラウド市場におけるトップのポジションを盤石なものにする」と意気込んだ。

 2010年度にはクラウド関連で1000億円の投資計画を若干下回ったが、2011年度には1000億円強のクラウド関連投資を予定しているという。

 また、ソリューション提供機能の変革にも取り組む姿勢をみせ、「開発中心のSIビジネスが縮小するなか、新規ビジネス領域やクラウドビジネスをさらに加速するために、SI機能の再定義と、ソリューション体制の変革を行う。これまでのSEリソースを、ビジネスプロデュースやシステムインテグレーション、運用起点でのサービスマネジメント機能などへとシフト。中期的なビジネスボリュームの拡大のためにも、人材再配置を含めた営業戦力の見直しを進める」とした。


クラウドのコアビジネス化を目指すソリューション提供機能を変革

 

国内外を一体化したグローバルインテグレーションを加速

グローバルインテグレーションを加速
真のグローバル化を目指すという

 一方、グローバル化については、「富士通は各地域の自主性を重んじるトランスナショナルモデルによって海外ビジネス体制を強化してきた。オーストラリアのM&Aを通じた事業強化、北米子会社3社の統合、欧州におけるサービス事業とプロダクト事業の統合などを進めてきており、国内唯一のグローバルICTベンダーとして、グローバルマーケットでのプレゼンスを発揮してきた。これらの実績をベースにして、国内外を一体化したグローバルインテグレーションを加速する」とした。

 すでに本社直轄のグローバルビジネス推進グループを設置し、多国籍企業に対する横断的サポートの実現と、サービスポートフォリオの強化に取り組んでいるほか、日本とドイツに分散していたIAサーバー、ストレージの組織を一体化し、IAサーバーでは本社機能をドイツに置き、グローバル商品の強化を進めている。また、アシュアランス機能、セキュリティ機能といったビジネス共通基盤においては、国内外での組織、機能の一体化を進める。

 「これらによって、グローバルサービスについては、国内と同様に、安定的に高い利益と成長が望める強いビジネスにしたい」と語った。

 説明の最後には、経営の決意というスライドを用意。「成長にこだわる攻めの姿勢」、「ICTの新しい可能性をリードするかけがいのないパートナー」、「ステークホルダーの皆さまに信頼され、未来を託していただける存在」の3点をあげ、「既存ビジネスの強化によって、国内での盤石な強さをスタートラインに置き、ここを起点として成長領域にシフトしていく。グローバル化の加速によってビジネスボリュームを獲得し、先進モデルの提案による新しいサービスビジネスの創造に取り組む。富士通グループが目指す到達点は、お客さまとともに成長し、豊かで夢のある未来の創造に尽きる」と述べた。


新しいサービスビジネスの創造では、垂直統合モデルや先進モデル開発などに取り組む

 会見のなかで山本社長は、2010年度の業績について総括。「売上高は前年比減収だが、営業利益は増益を確保。しかし震災の影響もあり、売上高、利益ともに公表予想には未達となった。震災では、ユビキタスソリューション、デバイスソリューション系の生産拠点が影響を受け、税引き前利益ベースでは245億円の影響があった。だが、特殊要因を除くフリーキャッシュフローは733億円となるなど、財務体質の強化を継続した1年となった。総括すれば、次の成長に向け、ビジネスの基盤を固めた年であり、携帯電話事業の統合会社の発足などによるグループ事業構造の強化、クラウドサービスのグローバルに展開する基盤の確立などのビジネス成長基盤への投資、先進サービス商談の積極獲得による新規ビジネス領域への提案強化といった成果があがっている」と語った。

 また、震災の影響については、「日本のサプライチェーンの重要性が再認識されたといえる。社会インフラを支える企業として、総力をあげて復興に取り組んでいく」とした。

 一方、2011年度においては、「クラウド需要の拡大、社会的課題へのICT適用加速、次世代商品といった成長に向けた新しい萌芽(ほうが)を明確に1年とし、プラスをさらに伸ばすための攻めの戦略によって、金融危機からの回復を確実にする。2008年以降の増益基調を加速し、過去最高益の早期更新へ道筋を固める」とした。

 攻めの構造改革では、「クラウド重点市場攻略のスピードアップ」、「ソリューションビジネス実行基盤の確立」、「事業構造強化を通じた震災復興への貢献」を掲げ、真のグローバル化の加速では、「ビジネスボリュームの着実な拡大」、「コスト改革」、「不採算プロジェクト撲滅への対応強化」をあげた。さらに新しいサービスビジネスの創造では、「お客さまとともに先進サービスモデルを開発」、「アライアンスを含めた垂直統合モデルの強化」を掲げた。

 これらを各セグメントで実行戦略として具体的に落とし、全社をあげて実行していくと位置づけた。

 富士通が発表した2011年度連結業績見通しは、売上高は前年同期比1.6%増の4兆6000億円、営業利益は1.8%増の1350億円、経常利益は11.2%増の1200億円、当期純利益は8.9%増の600億円。

 「上期は国内ICT市場の低迷もある。また、震災の影響によって純利益ベースで240億円の影響を見込んでいる。だが、海外不採算プロジェクトの改善を含む本業の改善によって、震災影響を上回る利益を確保できるとみている。サービス事業を中心に利益を確保し、ボリューム系(ユビキタスソリューションなど)の落ち込みをカバーしていく」という。

 セグメント別の業績は、テクノロジーソリューションの売上高が1.2%増の3兆500億円、営業利益が13.6%増の221億円。そのうち、サービス事業の売上高は1.3%増の2兆4500億円、営業利益は15.0%増の1350億円。システムプラットフォーム事業は売上高が0.9%増の6000億円、営業利益は9.8%増の500億円。

サービス事業では、国内ビジネスを軸にグローバルな成長を目指す

 サービス事業に関しては、国内シェア拡大に向けた業種軸戦略「ACTION 5」を強化。新規領域や業種横断、地域連携などの提案を促進。SEフォーメーションの再編と機能強化、製販一体化や民需本部機能のほか、共通技術機能などに取り組む。さらに、サービス、プロダクト、セキュリティを一貫して提供できる強みを生かしながら、インフラサービスを機軸としたソーシングビジネス展開に取り組むという。

 国内サービス事業においては、強いパッケージソリューションを生かした効率化と、民需ビジネス全体の戦略策定組織の新設、インフラ工業化の適用率向上による高品質なITインフラの短納期での提供、アプリケーションフレームワーク「INTARFRM」を2011年度に1000プロジェクトに適用することによる開発プロジェクトの生産性向上と品質強化を図る考えだ。

 海外ビジネスについては、「グローバルに高品質かつ均一なサービスを提供することが実行目標」(山本社長)とし、クラウドビジネスでのマーケットシェア拡大のほか、北米市場におけるIAサーバーの販売体制強化や国内プロダクト部門との協力体制の強化、海外大型商談でのアシュアランスグループによるグローバルマネジメントフレームワークの提供などにより、2011年度には35%の海外売上高比率を目指す。

 「為替を固定したベースではすでに40%弱の海外比率となっている。中期的には為替レートが変わっても40%を維持できる体制にしたい」(加藤CFO)という。


国内サービス事業グローバルに高品質かつ均一なサービスを提供
システムプラットフォーム事業ではグローバル化を加速

 システムプラットフォームでは、国内売上高が4150億円、海外売上高が1850億円を計画。「グローバル化を加速し、ボリューム拡大とコストダウンが実行方針になる」とした。
 IAサーバーでは、全世界で40万台、そのうち国内で13万台の出荷を目指す。ドイツの富士通テクノロジーソリューションズ(FTS)との業務統合による開発費用の効率化を強みとするほか、UNIXではオラクルとの協業によるトータルな製品力強化、ストレージではETURNUS DXシリーズによる商品力強化を図る。また、ソフトウェア領域では、AzureやCordysといった重点分野であるクラウドに積極投資し、PaaS領域の製品提供も強化するという。さらにネットワークプロダクトでは、グローバルキャリア向けビジネスの強化に加え、今後、本格的な立ち上がりが予想されるホームICTエリアへの展開に取り組むという。

 ユビキタスソリューションの売上高は前年比3.1%増の1兆1600億円、営業利益は33.9%減の150億円。デバイスソリューションの売上高は前年比0.1%減の6300億円、営業利益は28.5%減の150億円とした。

 PCの出荷計画は660万台(前年度は542万台)、携帯電話の出荷計画は700万台(前年度は670万台)としている。

 PCにおいては、世界で戦える商品力強化として、企業向けスレートPCやハイブリッドシンクライアントなどの新カテゴリー製品を投入するとともに、グローバル展開によってボリューム確保を目指すという。

 富士通では、将来的に1000万台のPC出荷を目標としているが、山本社長はその目標を掲げ続けることを否定しなかった。「1000万台も、660万台も、コスト構造にはそれほど差がない。ただし、われわれのモチベーションとして1000万台という目標は必要である。PC事業に関しては、クラウド時代のサービスを作るユビキタフロントと位置づけている。PC市場は、スマートフォンやiPadをはじめとするタブレット端末の攻勢を受けているようにみえるが、むしろ、この動きはPC全体の方向性が定まり、顧客の要望に添って製品を作っていけば拡販につながるものになる。5月に発売したWindows搭載タブレットPCは、全世界で好調であり、われわれの想定よりも2倍売れている。しっかりとしたPCを、しっかりとした仕様で作れば売れる。日本、欧州、北米、アジアの顧客に適した製品を投入することで、2011年度の660万台の計画は達成できる」などと語った。

 なお、携帯電話の出荷目標のうち、スマートフォンは40%強を占めるとみており、今後、携帯電話の海外展開も強化していくが、「身の丈以上のことはやらない」と慎重な姿勢をみせた。


ユビキタスソリューション事業デバイスソリューションでは、収益力強化を図る
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