日立、情報・通信を含む社会イノベーション事業がけん引役に

「2012 中期経営計画」の進行を中西社長が発表


 株式会社日立製作所(以下、日立)は、2012年度を最終年度とする「2012 中期経営計画」の進行状況について説明するとともに、公表を見送っていた2011年度の業績見通しを発表した。

 

構造改革が順調に進んでいることを示す

中西宏明社長

 日立の中西宏明社長は今回の会見を、「昨年発表したことをちゃんとやっていますという、ニュース性のない発表」というが、2010年度最終利益で過去最高の黒字を達成した同社の構造改革が順調に進んでいることを示す内容となった。

 「カンパニーごとに競合他社と自らのポジションとを明確にし、なにをするべきかがわかってきた。社内の意識改革ではかなりの成果があげられた。中期経営計画立案時には、まだ赤字の企業だったが、いまはその時点とは異なる。GEやシーメンス、IBMといった世界のジャイアンツと互するところを目指したい」と発言した。

 中期経営計画では、2012年度の売上高を10兆円とし、前年発表した10兆5000億円からは若干下方修正したものの、営業利益率で5%超、最終利益での2000億円台の安定的確保などを目指す目標はそのまま。「HDD事業譲渡の影響があるものの、この計画を確実に達成し、さらなる成長を実現する。営業利益率5%は、グローバル企業として最低限のものであり、次のステップとして2けたの成長利益率を目指す」(日立製作所の中西宏明社長)と語った。

 2012年度には海外売上高比率で50%超を目指すほか、海外人員構成は12万人として、全社の36%を占めることになる。

 「M&A抜きにはこれだけの成長はありえない。大小取り混ぜたさまざまなM&Aをやっていく」と買収戦略を加速する姿勢も見せた。


2012年度の経営目標海外売上高比率で50%超を目指す

 

社会イノベーション事業が全社成長のけん引役に

社会イノベーション事業
社会イノベーション事業の注力分野

 また中西社長は、「社会イノベーション事業が全社成長のけん引役になり、収益改善のドライバーとして中期経営計画をリードすることになる。社会イノベーション事業の成長によって、強い日立の完全復活を果たす」と意欲を見せた。

 日立が最重点事業と位置づける社会イノベーション事業は、情報通信システム、産業・交通・都市開発システム、電力システムの3つの事業と、材料、キーデバイスで構成されるものであり、中期的にグローバル化を推進することで、大幅な成長を見込んでいる。

 情報・通信システムの2012年度の売上高見通しは1兆7500億円、2015年度は2兆3000億円。海外売上高比率は、2012年度で25%、2015年度には35%を見込んでいる。

 また、社会・産業・鉄道システムは、2012年度の売上高が8000億円、2015年度が1兆1500億円。電力システムは2012年度の売上高が8700億円、2015年度が1兆1000億円とした。

 社会イノベーション事業では、同事業への投資として、当初計画から1700億円を増額し、2010年度からの3カ年で総額1兆7000億円を超える投資規模とする。

 全社総額1兆6000億円の設備・戦略投資のうち、約7割を社会イノベーション事業に配分。同事業の設備・投資額は、2010年度が2200億円、2011年度が4000億円、2012年度が4800億円となる。また研究開発投資についても、全社総額1兆2000億円のうち約6割が社会イノベーション事業へ配分。同事業の研究開発投資は、2010年度が2000億円、2011年度が2300億円、2012年度が2400億円とした。

 設備・戦略投資では、コンサルティング事業の強化やストレージソリューション事業の強化をあげたほか、復興支援やBCPといった需要に対しては、データセンターを含むIT網の強化や追加耐震対策に取り組むとしている。また、研究開発投資ではIT、モビリティ、スマートグリッドといった分野を通じてグリーン研究に取り組むほか、北米ではストレージシステム、中国ではスマートグリッドの研究開発を促進。環境配慮型のデータセンターにも取り組む。

 

グローバル展開では11地域に注力

 社会イノベーション事業の成長戦略において重視されるのが、グローバル展開だ。

 同社では、グローバル化加速のための戦略的アプローチとして、新グローバル化推進計画を策定。現地化の推進、拡大により、現地主導による司令塔機能の強化を進める考えを示し、インド、インドネシア、エジプト、サウジアラビア、中国、中東欧、トルコ、ブラジル、ベトナム、南アフリカ、ロシアを注力する11地域とし、これら地域の売上高を、2010年度の1兆9000億円から2012年度には2兆5000億円に引き上げる計画だ。

 さらに、米州、欧州、インド、東南アジア、中国、日本の6極体制として、「日本を世界のなかの1極としてとらえ、真のグローバル展開を目指す」とした。


グローバルな現地化の推進現地の価値観・規格・リスクを現地主導でとりまとめる

 中西社長は、社会イノベーション事業が目指す価値として、「お客さま・パートナーと共に創りあげる価値」、「10年・20年先まで受け継がれる価値」、「メーカーとしての規範と使命を具現化する価値」の3点をあげた。

 情報・通信システムにおいては、ストレージ・ソリューション事業の伸長、コンサルティング事業の強化、高信頼性クラウドの適用範囲の拡大などを掲げるほか、スマートシティプロジェクトの推進をあげた。

 「震災や災害でも強みを発揮できるストレージソリューションをグローバルに展開していきたい。高信頼性クラウドを社会や企業の基幹システムに適用し、安心、安全、快適な社会インフラの実現につなげたい」とした。


パートナー連携による事業機会拡大情報・通信システムでは、ストレージやコンサル事業、高信頼クラウドなどでの事業拡大を図る

 

グループ全体の人財プラットフォームを再構築へ

 一方で、全社規模の取り組みとして、Hitachi Smart Transformation Projectを発足し、コスト構造の改革を加速。グローバル人財マネジメントの強化に向けて、日立グループ全体の人財プラットフォームを再構築するとした。

 「構造改革にゴールはない。継続的に取り組んでいくものになる」と位置づけ、構造変革によるグローバルに勝てるコスト競争力の実現、カンパニー制の深化による個別事業を強化する一方で、すべてのカンパニーがタイアップする全社横断プロジェクトの実現に取り組む。

 また、Hitachi Smart Transformation Projectの責任者として、CTrO(Chief Transformation Officer)を新設し、江幡誠執行役専務が就任。生産拠点の最適配置や集約、内製/外製の再評価、集約購買やグローバル調達拡大、材料置き換え、間接業務の改革および集約、間接材コストの削減、IT標準化などに取り組む。

 集約購買比率は2010年度の28%を、2012年度には35%に拡大。グローバル調達比率を2010年度の36%から50%に引き上げる。

 人財プラットフォームの再構築としては、2011年7月にグローバル人財本部を設立するとともに、グループ社員30万人を対象にする人財データベースの構築や、マネージャー以上の職務価値を統一評価するグローバルレーティング制度を導入する。「日立にとって、近年にない大きな人事システムの改革になる。攻めるべき分野にターゲッティングして人財を育成。グローバルに戦っていける体制をつくる」と位置づけている。

 ハードディスク事業の売却に関しては、「私自身もハードディスク事業を担当してきたが、市場の状況を予測して、最適なタイミングで投資をするというビジネス。判断や投資が遅れると設備過剰になり、もうからない。優秀な経営者が全身全霊をかけて取り組むのがハードディスク事業のビジネスである。そうしたゲームには当社は参加しないということ」などとした。

 一方で、「もはや、なんでもかんでも日立で揃えるという時代ではなくなってきている。そうした事業ポートフォリオはなくなってきた。私は、無理にシナジーを追うなといっている。自分が強くなるということを優先で考えた時に、グループを見渡して使えるところが出てきたらそれを使えばいい。結果としてシナジーが出てくればいい」などと語った。


パートナー連携による事業機会拡大日立の強みを生かした新規事業拡大

 

2011年度の連結売上高は前年比2%増の9兆5000億円を予定

2011年度の見通し
事業部門別の見通し

 なお、2011年度の連結売上高見通しは、前年比2%増の9兆5000億円、営業利益は前年比445億円減の4000億円、当社に帰属する当期純利益は338億円減の2000億円とした。

 「震災の影響で、売上高で3500億円(上期2900億円、下期600億円)、営業利益で1100億円(上期900億円、下期200億円)の影響がある。上期は、電子部品などの部品調達や電力供給不足の影響、電力や自動車関係顧客の状況、一部製造設備の復旧費用負担の影響もあり、減収減益とみているが、下期は復興需要もあり、本格的に回復するだろう」とした。なお、第3四半期までハードディスク事業の業績を取り込んでいるという。

 情報・通信システムは、売上高が前年比3%増の1兆7000億円、営業利益は113億円増の1100億円を目指す。

 内訳は、ソフトウェア/サービスの売上高が前年比5%増の1兆1800億円、営業利益は10%増の940億円。ハードウェアの売上高は前年比2%減の5200億円、営業利益は26%増の160億円とした。

 また、ストレージソリューション事業では売上高が前年比2%増の3300億円を目指す。

 「事業部門別では、コンポーネント・デバイスと金融サービスを除いて増収、営業利益では8つのセグメントで増益となる。情報・通信システム、社会・産業システムは下期の国内復興需要をキャッアップするだろう。これらの事業は新たな経済環境のなかでもドライブさせたい」とした。

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