シンプレクス、「成功報酬型課金」の金融クラウドサービスを提供開始


 株式会社シンプレクス・コンサルティング(シンプレクス)は7日、金融商品取引システムのクラウドサービス「Voyager Trading Cloud」を発表、同日提供を開始した。同社のシステムトレーディングツール「SPRINT」の後継として位置づけられているパッケージソリューションで、金融業界ではまだ導入実績の少ないクラウド型サービス(シングルテナント/マルチテナント)として提供される点が最大の特徴。さらにビジネスモデルとして基本料金にインセンティブを課金する「成功報酬型課金」を採用しており、月額従量課金モデルとは異なるタイプのクラウドサービスとして注目される。

 Voyager Trading Cloudは、FXに代表されるインターネット取引の増大と個人投資家の台頭、それに伴う金融商品の多様化といった、ここ数年来の市場のニーズを受けて開発されたクラウドシステム。データセンターに設置されたシンプレクスの専用サーバーからクラウドサービスとして提供される。

シンプレクス コーポレート・イノベーション・グループ 執行役員の竹内在氏

 サービス形態としてシングルテナントおよびマルチテナントの選択が可能だが、「コストパフォーマンスを考慮すれば、マルチテナントのほうが本サービスのメリットを享受しやすい」と、シンプレクス コーポレート・イノベーション・グループ 執行役員の竹内在氏は強調する。

 プラットフォームには同社が独自開発した「Galaxy」を採用し、高速メッセージング基盤とオンメモリデータベースを搭載、注文執行レイテンシは最短8ミリ秒、注文処理件数は1秒あたり最大1,000件と大幅な高速化を実現している。

 シンプレクスは2009年に大証FX取引所のシステム構築を担当、世界でも最高水準レベルの注文受付処理1ミリ秒の実現に貢献したが、そこで蓄積した高速化のノウハウをこのVoyager Trading Cloudにすべてつぎ込んだという。「金融機関を相手にビジネスを行うにはスピードが欠かせない。マルチスレッドなメッセージングアーキテクチャ、はやりのオンメモリデータベースにより、ホットスタンバイやフェイルオーバーを迅速に行うことが可能になっている」(竹内氏)。

 システムの特徴としては「階層構造」を取っている点が大きなポイントとなる。竹内氏はVoyager Trading Cloudの開発コンセプトとして「完全性」「接続性」「拡張性」の3つを挙げており、「階層構造を採ったことで、UI、商品やアプリケーションなど、さまざまな変化に対応しやすいアーキテクチャとなった」としている。

 特に、エンドユーザーとしての個人投資家が増えていることを受け、PC向けリッチクライアントやスマートフォン向けアプリなど、新しいデバイスへのUI対応を積極的に行っている。年内にはタブレット対応を行うことも表明している。


Voyager Trading Cloudの全体像Voyager Trading Cloudがもたらす2つのイノベーション
従来型とVoyager Trading Cloudのスピード比較導入期間の短縮と初期コストの低減を両立
シンプレクス 代表取締役社長の金子英樹氏

 Voyager Trading Cloudのユニークな点はシステムだけでなく、そのビジネスモデルにある。シンプレクス 代表取締役社長の金子英樹氏は「われわれが提供しなくてはならないものは、システムを納品することではなく、顧客のビジネスの収益性を高めること。その実現のため、Voyager Trading Cloudでは“成功報酬型”の課金システムを採用した。クラウド時代には顧客の価値にあった料金システムが必要。われわれにとってもリスクではあるが、顧客とビジネスを共同で進めていくWin-Winの関係を構築していくために、あえてインセンティブという方式を採用した」と語る。

 具体的には、顧客ごとの基本料金(サーバー構成やデータベース、保守などを踏まえて決定)に加え、インセンティブ係数を設定し、顧客の収益アップに応じて成功報酬を課金する。インセンティブ係数は顧客ごとに異なり、ユーザー数、出来高、顧客の収益全体などから決められる。

 金子氏は「残念なことに金融の世界でもITの世界でも、日本発のイノベーションはほとんどない。現在のシステム開発で主流の“人月単価”のエンジニアからは決してイノベーションを生まれない。Voyager Trading Cloudにより、金融やITのプロが時間を有効活用することで、本来彼らが注力すべきであるイノベーションの開拓に取り組んでほしい」と語る。

 Voyager Trading Cloudは、すでにユーザー第1号として、三田証券の「くりっく365」システム向けに提供されることが決定しており、7月初旬にサービスが開始される予定だ。

 導入目標としては「上位20社中15社」を掲げている。当初は旧SPRINTの顧客のリプレースを中心に導入を図り、その後、新規顧客獲得を推進していくという。また、国内での実績をある程度上げたのちには、アジアを中心とする海外市場への展開も視野に入れていきたいとしている。

成功報酬型課金を採用今期の導入目標と開発ロードマップ
関連情報
(五味 明子)
2011/6/8 06:00