日本IBM、次世代ITインフラ「スマーター・コンピューティング」のビジョンを説明

ビジネスの価値を生み出すITシステムを実現


米IBMコーポレーション IBMシステム&テクノロジー・グループ システム・チーフ・エンジニア IBMフェローのグルラジ・ラオ氏

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は2日、同社が提唱する次世代ITインフラ「スマーター・コンピューティング」のビジョンとテクノロジーについて、プレス向け説明会を開催した。

 今回説明を行ったのは、米IBMコーポレーション IBMシステム&テクノロジー・グループ システム・チーフ・エンジニア IBMフェローのグルラジ・ラオ氏。同氏は、長年、IBMメインフレームの技術開発に従事し、現在はIBMのエンタープライズ・システムの技術方針の責任者として、ハードウェア、ソフトウェアおよびリサーチの技術者による部門横断的なチームを統括している。

 「従来型のITインフラは、構造化されたデータをリレーショナルデータベースやデータウェアハウスなどに格納し、その中で集計や分析を行っていた。しかし今後、さらに高度な洞察、分析が必要となった場合、こうした従来型のITインフラでは対応が難しくなる」とラオ氏は指摘する。

「スマーター・コンピューティング」のビジョン

 これに対して、IBMが提唱している「スマーター・コンピューティング」は、“データ中心の設計”、“ワークロードに最適化”、“クラウドでの管理”の3点を特徴とする次世代ITインフラだという。「『スマーター・コンピューティング』では、データの管理から統合、ガバナンス、分析まで、あらゆる組織の情報サプライチェーンとストレージをエンド・ツー・エンドでつなぐためのさまざまな技術を提供する。これにより、構造化データだけでなく、Twitterやブログ、ファイルなどの非構造化データを集約し、そこから意味のある洞察を迅速かつ低コストで引き出すことができる。例えば、靴のメーカーでは、試作品の製作に多くの日数をかける一方で、テストマーケティングについてはほんの数時間で行うことが可能になる」(ラオ氏)としている。

 実際のシステム構築においては、システムを最適化することが「スマーター・コンピューティング」のポイントであるという。ラオ氏は、「システムの最適化は、特定のワークロードを処理するためのコストを極小化することが目的だ。そして、ワークロードの最適化を行うためには、さまざまなタイプのシステムが必要となる。これは、ゴルフに例えるとわかりやすいだろう。ゴルフは、1本のクラブでプレーすることは難しい。距離や地形の違いなどさまざまな条件によって使うクラブを変えていかなくてはならない。システムの最適化も同様だ。業務によって異なるワークロードの特性に合ったシステムを用いる必要がある」と説明している。

IBMの提供する最適化システムIBMの提供するアプライアンス製品と統合化ソリューション

 具体的に、IBMが提供する最適化システムとしては、IO頻度の高いワークフロー向けのメインフレーム「System z」では、UNIXやインテルのシステムを活用できるハイブリッドなアーキテクチャを備え、ワークロードあたり最大55%のTCO削減を実現する。また、次世代x86サーバーの「System x」は、従来のインテルマシンに比べてメモリ搭載量を増やすことが可能で、メッセージングやビジネスプロセスのワークロードをより低コストで最適化できる。このほか、分析型のワークロードにベストオブブリードのシステムとして「Power System」をラインアップしている。

 「多種多様のワークロードが存在するビジネス環境の中では、汎用的なシステムに加えて、アプライアンス製品や統合化ソリューションが大きな効果を発揮するシーンもあると考えている」とラオ氏。この領域においてIBMでは、『IBM WebSphere DataPower』、『IBM InfoSphere Guardium』、『IBM Netezza』といった緊密に統合化されたアプライアンス製品を用意。「アプライアンス製品は、製品構成がシンプルで容易に導入ができ、管理工数も最小限に抑えることができるので、ワークロード最適化にかかる時間短縮とコスト削減に役立つはず」と、ラオ氏はアプライアンス製品のメリットを強調する。また、統合化ソリューションとしては、分析用ソリューション「IBM Smart Analytics System」、クラウドソリューション「IBM CloudBurst」などを展開している。

 「スマーター・コンピューティング」の活用事例としては、米ピッツバーグ大学のメディカルセンターにおいて、RFIDタグを活用して、特定の患者が病室に入った場合、特定の端末や医師、看護師、家族、関係者のみに患者の情報を伝えるシステムを構築したケースを紹介。当初、データセンターの新設など8000万ドルの投資が必要だと見られていたが、「スマーター・コンピューティング」によってワークロードの最適化を行うことで、データセンターを新たに構築することなくシステムを実現。投資を計画していた8000万ドルは患者のケア向上に使われているという。

 最後にラオ氏は、「『スマーター・コンピューティング』のアプローチは、既存資産を置き換えるのではなく、限定されたIT予算の中で、既存資産を生かしながらその上にさらに積み上げていくというユニークなものだ。これによって、従来までの投資を無駄にすることがなくなる。そして、最適化されたシステムによって、さまざまなデータから的確な洞察を入手し、クラウドを活用してサービスを提供することができる。これからのITシステムはコストセンターではなく、ビジネスの価値を生み出すものになっていくだろう。IBMでは、そのために必要なシステム、ソリューション、人材、ノウハウをすべてもっており、すでに『スマーター・コンピューティング』を導入した先進企業の多くが成功を収めている。もちろん先進企業だけでなく、あらゆる企業にその可能性がある」と、「スマーター・コンピューティング」による次世代ITインフラをさらに普及拡大していく考えを示した。

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