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日立、2014年度第3四半期決算は増収増益、通期見通しも上方修正へ

日立の中村豊明執行役副社長兼CFO

 株式会社日立製作所(以下、日立)は4日、2014年度第3四半期累計(2014年4月~12月)の連結業績を発表した。

 売上高は前年同期比0.6%増の6兆8180億円、営業利益は同9.0%増の3221億円、税引前利益は同18.0%増の3555億円、当期純利益は同37.4%増の1749億円となった。

 売上高では、情報・通信システムや高機能材料、社会・産業システム部門などが前年実績を上回ったほか、営業利益では、社会・産業システム、電子装置・システム、高機能材料部門が伸びたという。

 営業利益の増減要因としては、事業再編影響で210億円、事業開発投資で270億円となったそれぞれのマイナスを、Hitachi Smart Transformation Projectによる710億円の効果でカバー。人件費および償却費の増加によって生まれた520億円のマイナスを、操業度改善による580億円の成果でカバー。それらの差が267億円の増益につながったという。

2014年度第3四半期累計の業績ハイライト
2014年度第3四半期累計の実績

 また、国内売上高は前年同期比2%減の3兆5937億円、海外売上高が前年同期比3%増の3兆2242億円。海外では北米、欧州、中国、ASEAN・インドで前年実績を上回り、海外売上高比率は47%になった。

 「海外はその他地域において火力事業が抜けた穴が大きい。だが、火力事業や日立マクセルなどを除いた実質ベースでは、全体で前年同期比4%増。国内は1%増、海外は7%増となる。海外売上高比率ももう少しで50%に到達することになる」(日立の中村豊明執行役副社長兼CFO)と述べた。

国内・海外売上高

情報・通信システムは増収増益、国内IT投資意欲は相当ある

 事業部門別の売上高では情報・通信システムの売上高が、前年同期比6%増の1兆4105億円、営業利益は前年同期から47億円増の528億円、EBITは同22億円増の503億円となった。

 また、情報・通信システム事業部門のうち、システムソリューションの売上高は前年同期比11%増の8126億円、営業利益が同180%増の233億円。プラットフォームの売上高が同7%増の6470億円、営業利益が同1%増の369億円。通信ネットワークの売上高が同18%減の1199億円、営業損失が前年の26億円の黒字から、93億円の赤字へと転落した。

 また、ストレージソリューション事業は、売上高が前年同期比10%増の3540億円となった。

 「国内IT投資意欲は相当あり、悪くない。マイナンバー制度などの新たな投資や、これまでIT投資を絞っていた金融機関の投資も活発化してきた。公共システムや、金融システムを中心にしたシステムソリューションは好調である。ストレージも円安効果もあり、規模が拡大している。だが、通信ネットワークは厳しい状況にある」と説明した。

 また、情報・通信システム事業部門の増収効果には、インドのプリズムペイメントサービス、国内の日立システムズパワーサービスを子会社化した影響も含まれるという。
 電力システムの売上高は前年同期比48%減の3018億円、営業損失は前年同期から394億円減の331億円の赤字。建設機械は売上高が前年同期比4%増の5553億円、営業利益は前年同期から76億円減の391億円。高機能材料の売上高は前年同期比7%増の1兆847億円、営業利益は前年同期から110億円増の842億円。

 オートモーティブシステムの売上高は前年同期比5%増の6833億円、営業利益は前年から72億円増の395億円。金融サービスの売上高は前年同期比9%増の2688億円、営業利益は前年から34億円増の286億円となった。

事業部門別の業績

 一方、2014年度第3四半期累計の事業グループ別業績は、情報・通信システムの売上高が前年同期比8%増の1兆9087億円、営業利益が前年同期から50億円増の678億円。インフラシステムの売上高は前年同期比5%増の2兆3693億円、営業利益は前年同期から439億円増の933億円。

通期見通しは上方修正、売上高は9兆6000億円に

2014年度連結決算の見通し

 さらに同社では、2014年度通期業績見通しを上方修正。売上高は10月公表値から1000億円増の9兆6000億円とした。営業利益の5800億円、当期純利益の2500億円は据え置いたが、「最終利益は、前年度実績の2649億円にまで持って行きたい」と、さらなる上積みに意欲をみせた。

 情報・通信システムでは売上高で2兆200億円と約400億円上方修正したが、「これは円安効果によるもの」と説明。また、全体では据え置いた営業利益見通しだが、情報・通信システムでは、160億円減の1200億円とした。

 「プロジェクトは順調に進んでいるが、海外における通信・ネットワーク事業の遅れがある。国内におけるLTEへの投資が減少しはじめるなかで、海外におけるハードからソリューションへの転換を図ったが、それが遅れ、国内の減少を海外需要では補えない。通信・ネットワークの操業度が落ちているのが、営業利益見通しの下方修正の要因」という。

 また、中村副社長は、現在の経済環境については、「全体的には市場鈍化しているとみている」とし、「欧州では地政学的リスクや南欧諸国を中心とした金融不安、中国や東南アジアの経済成長の減速があるが、米国では個人消費や住宅投資を中心に景気回復が加速。日本も雇用環境の改善や設備投資の回復などにより、緩やかに成長している」と俯瞰(ふかん)した。

事業部門別の見通し

社会イノベーション事業の成長戦略を説明

 また、会見では、ITを中核に位置づける社会イノベーション事業の成長戦略についても言及。グローバル推進体制の確立、IoT専門組織の新設、日立グループ全体へのIFRS(国際財務報告基準)の導入、Hitachi Smart Transformation Projectの取り組み成果などについて説明した。

 グローバル推進体制としては、グローバル市場を「米州」、「中国」、「アジア・パシフィック」、「欧州・ロシア・中東(EMIA・CIS)」の4地域に分け、新たに任命する2人を含む、4人体制でそれぞれを総代表に任命。地域における日立グループの代表機能を持ち、各地域が自律的にビジネスを主導する「自律分散型グローバル経営」体制を導入する。総代表は成長が期待される社会イノベーション事業に対する投資権限、回収および損益責任を持つことになるという。

 同社では、2012年12月にインドで、2014年6月には中国において、それぞれの地域戦略を立案して事業を推進する体制を構築。また、2014年4月には英ロンドンに鉄道システム事業におけるグローバル戦略を統括するグローバルCEOを設置し、地域において迅速な意思決定ができる体制を敷いている。今回の総代表制度の導入は、こうした実績をベースに、地域戦略を強化するものになる。また、2015年度を最終年度とする3カ年計画「2015 中期経営計画」において、海外売上高比率50%超を目指す同社にとって、グローバル事業強化の重要な柱になるともいえるだろう。

 「ビッグデータのビジネスをとっても、情報・通信システム部門だけで収益をあげられるのかという課題がある。社会インフラや鉄道運行システムとの連携も必要である。各カンパニーとのメッシュ体制になるのは確かだが、連携を密に行うことで、各地域において、ソリューションをワンストップで提供できる体制を整える」とした。

 また、2015年度から日立グループ全体でIFRSを適用。これも、グローバル化への対応とともに、業績評価基準の統一を目的にしたものだと説明する。「IFRSの適用によって、グローバル統一の基準にするとともに、ひとつの会計システムにすることで、各地域の意思決定の成果についても評価できる。優秀な人材をグローバルで確保するためには、グローバル統一の会計基準が必要。日立にとって、苦節100年で会計システムのグローバル化を実現した」などと語った。

グローバル経営の加速

 さらに、社会イノベーション事業における「2015 中期経営計画」の推進に向けて、情報・通信システム事業部門では、通信ネットワーク事業におけるコスト削減や人員最適配置のための構造改革を加速する一方で、成長分野であるIoT関連事業の強化に向けた組織改革を推進。「2015年度中に新たな組織として発足させる。世界的な潮流であるIoT分野に向けて、センサーとネットワークを連携させた日立グループ全体としての強みを発揮できる活動を行うことになる」と説明した。

 また、ITプラットフォームやATM、端末事業関連製品の国内製造拠点の再編による生産体制の強化、アジアでのソリューションサービス事業基盤構築によるグローバル展開の加速などにも取り組むという。

2015 中期経営計画の推進と社会イノベーション事業の進化

 一方、Hitachi Smart Transformation Projectでは、第3四半期までに710億円の効果を創出。2014年度の通期目標である900億円を、1000億円に引き上げている。「コスト構造改革、キャッシュ創出力強化に向けた取り組みを進める。2014年11月に国内財務間接業務をジェンパクトにBPO化、2015年4月には海外人財業務の一部をBPO化する。さらに、日立ハイテク、日立キャピタル、日立物流と連携することで、グローバル調達の高度化にも取り組む」などと述べた。

Hitachi Smart Transformation Projectの進捗と今後の展開

大河原 克行