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CentOSの企業ユーザー全般の受け皿になる――、サイバートラストが「MIRACLE LINUX」の今後について発表

2022年中に提供予定の「MIRACLE LINUX 9」もライセンス費用無償で公開へ

 サイバートラスト株式会社は16日、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)互換のOS「MIRACLE LINUX」の今後について発表を行った。なお現在のサイバートラストは、2017年に旧サイバートラストとミラクル・リナックスが合併して設立された会社だ。

 サイバートラストはまず、2022年中に提供予定の「MIRACLE LINUX 9」をライセンス費用無償で公開することを発表した(本誌別記事参照)。同社ではすでに、MIRACLE LINUX 8.4を10月より無償提供している。MIRACLE LINUX 9の有償サポートサービスは、MIRACLE LINUX 8と同様に、MIRACLE Standardサポート、Linux専用機向けサポート、大規模向けサポートの3種類が用意される。

 またCentOS 7に関しても、サポート終了後の修正パッケージと日本語でのテクニカルサポートを提供する「Linux延長サポート for CentOS 7」を発表した。2024年6月30日にCentOSがメンテナンス更新を終了した後に、重大なバグや脆弱性に対して修正パッケージを提供する。なおCentOS 6については、以前から「Linux延長サポート for CentOS」を提供している。

 修正パッケージ提供の期間は2024年7月1日~2027年1月31日。テクニカルサポートはそれに先だつ2022年1月1日~2027年1月31日と、5年間のスケジュールで提供する。

2022年中に提供予定のMIRACLE LINUX 9をライセンス費用無償で公開
Linux延長サポート for CentOS 7をリリース
サイバートラスト株式会社 伊東達雄氏(OSS・IoT事業部 上席執行役員副事業部長)
サイバートラスト株式会社 鈴木庸陛氏(OSSビジネス本部 執行役員本部長)

国内外問わず、CentOS企業ユーザー全般の受け皿になる

 同じく12月16日には、報道向けにMIRACLE LINUX開発計画発表会が開催された。

 背景としては、RHEL互換OSとして大きなシェアを持つCentOSが、CentOS 8のサポートを2021年いっぱいで終了し、CentOS 9をリリースしない(RHEL 9の開発版であるCentOS Stream 9にフォーカスする)と発表していることがある。

 発表会で、サイバートラスト株式会社の鈴木庸陛氏(OSSビジネス本部 執行役員本部長)は、以前からのCentOSサードパーティサポートを含め「国内外問わず、CentOS企業ユーザー全般の受け皿になる」という方針を掲げた。そして、「ライセンスを無償化して提供し続けることをここでお約束する」と語った。

「国内外問わず、CentOS企業ユーザー全般の受け皿になる」

 前述したとおり、サイバートラストではこれまで有償で提供してきたMIRACLE LINUX 8の無償公開を10月に開始した。これによってダウンロードサーバーがパンクするほどの反響があり、累計で2万ダウンロード以上あったと鈴木氏は報告した。

 MIRACLE LINUX 8は、クラウドのマーケットプレイスでも、Microsoft AzureやVMware、Amazon Web Services(AWS、12月17日公開予定)から提供。国内のVPS・レンタルサーバーでも採用されている。こうした動きについて鈴木氏は「われわれが普段、直接触れていないユーザーにも、MIRACLE LINUXに触っていただく機会を与えてもらった」と述べた。

 そのほかMIRACLE LINUX 8に対して、主に企業ユーザーの要望に応えて必要な追加リポジトリを随時公開していく。すでにPowerToolsとHighAvailabilityの2つのリポジトリが11月24日から公開されている。

 なお、OSライセンスの無償化による利益構造の変化についての質問に、鈴木氏は「MIRACLE LINUXのライセンスは、当社のOSS(オープンソースソフトウェア)販売全体の売上の10%ぐらい。サポートの方が大きな売上なので、サポート売上を拡張していく」と答えた。

MIRACLE LINUX 8無償公開の反響と進展

 CentOSからMIRACLE LINUXへの移行事例としては、ソフトバンク株式会社の事例が紹介された。1万台を超える仮想サーバーで使っていたCentOSからの移行先として、MIRACLE LINUXの採用を決め、新規サービスから順に移行しているという。

ソフトバンク株式会社のCentOSからMIRACLE LINUXへの移行事例

ユーザー向けと動作検証プログラムの窓口を新設

 そのほか、Webで新たに「MLフォーラム(MIRACLE LINUXユーザーフォーラム)」と「動作検証済み製品・サービス」の、2つのコミュニケーション窓口を新設したこともアナウンスされた。いずれもMIRACLE LINUXの無償化のページからアクセスできる。

 「MLフォーラム」では、MIRACLE LINUXに関するユーザーからのフィードバックを受け付け、QA形式で回答を公開する。また、開発ポリシーやロードマップ、最新の関連ニュース掲載する。

 「動作検証済み製品・サービス」では、メーカーやサービス事業者がMIRACLE LINUXについて動作検証するのを支援する「動作検証プログラム」を案内し、検証済み環境の一覧を掲載する。

「MLフォーラム」と「動作検証済み製品・サービス」を新設

MIRACLE LINUX 8.6は9月に、9は10月にRC版を予定

 開発ロードマップやリリースサイクルについては、サイバートラスト株式会社の吉田淳氏(OSS技術本部 執行役員本部長)が説明した。

 RHELの次リリースの8.6と9については、いずれも2022年5月ごろにリリースされるのではないかと吉田氏は見ている。これに追従し、MIRACLE LINUX 8.6のRC版を9月に、MIRACLE LINUX 9のRC版を10月にリリースする予定だという。またβ版は、MIRACLE LINUX 8.6は8月、MIRACLE LINUX 9は7月に予定していると吉田氏は語った。

MIRACLE LINUX 8.6と9の開発ロードマップ

 MIRACLE LINUXのリリースサイクルポリシーは、メジャーバージョンリリース(Ver.X)はRed Hatのリリース後6~12カ月で、マイナーバージョンリリース(Ver.X.X)はRed Hatのリリース後4~6カ月でリリースすることになっている。

 また、アップデートパッケージ提供サイクルポリシーは、セキュリティフィックスパッケージとバグフィックス/機能拡張パッケージに分かれる。

 セキュリティフィックスパッケージは、原則的に、Red Hat社が修正パッケージをリリースしてから1週間以内に提供する。またバグフィックス/機能拡張パッケージは、Red Hat社が修正パッケージをリリースしてから2週間以内に提供する。

 ただしセキュリティフィックスパッケージについては、「世間を騒がせるような問題があった時には、Red Hatのアップデートを待たずに公開することもありうる。その場合にも、Red Hatのアップデートが来た時に適用しても問題ないようにする」と吉田氏は説明した。

MIRACLE LINUXのリリースサイクルポリシー
MIRACLE LINUXのアップデートパッケージ提供サイクルポリシー

CentOS 5サポート終了から延長サポートの顧客が増えた

 発表会では、サイバートラスト株式会社の伊東達雄氏(OSS・IoT事業部 上席執行役員副事業部長)が、これまでのMIRACLE LINUXの歩みについて振り返り、現在の事業内容を紹介した。

 MIRACLE LINUXは2000年から国産Linuxのディストリビューションを継続して提供している。伊東氏は、18年を超える長期サポートを提供していることを挙げて「一言でいうと“安心して使えるLinux”」と語った。

 旧ミラクル・リナックス社は2000年に設立され、2017年に旧サイバートラスト社と合併して(存続会社はミラクル・リナックス)、新しいサイバートラスト社となった。ミラクル・リナックス創業時には5人だったエンジニア数も、現在はグループ会社を含めて約100名。OSS事業の内容も、MIRACLE Linuxのほか、組み込みLinuxのEMLinuxや監視ツールのMIRACLE ZBXなどにも広げられている。主要株主には、創業時の日本オラクル株式会社やターボリナックス株式会社に代わって、NTTデータやSBテクノロジー、ラックなどが入った。

MIRACLE LINUX/サイバートラストの歩み

 現在のLinux OS戦略としては、サーバー(MIRACLE LINUX)と組み込み(EMLinux)の両方に対応し、長期サポートを提供している。採用実績としては、「社会インフラや通信・交換器など、ミッションクリティカルなところに採用されている。これらは高い技術力とサポート力が要求される分野だ」と伊東氏はアピールした。

サーバー(MIRACLE LINUX)と組み込み(EMLinux)の両方に対応

 2000年にリリースされたMIRACLE LINUX 1.0は、TurboLinuxベースで開発され、当初はOracleとの親和性を特徴としていた。2001年のMIRACLE LINUX 2.0からRHELベースに変わり、さらに2011年のMIRACLE LINUX 6.0からRHEL互換になった。RHEL互換に転換したのは顧客のニーズによるものだと伊東氏は述べ、そのぶんサポートで差別化していると説明した。

 そのサポートについては、2004年に18年間の長期サポートを開始。2009年にはCentOSのサードパーティサポートを開始している。「当初はそれほどお客さまがいなかったが、2017年のCentOS 5サポート終了のころから延長サポートのお客さまが増えた」と伊東氏は話す。

 そして2021年には、MIRACLE LINUX 8.4を無償提供開始した。「ポストCentOSとして皆さんに簡単に使ってもらうために無償を開始した」と伊東氏は語った。

MIRACLE LINUXの歴史