ニュース

NVIDIA、メタバース向け開発を可能にする「Omniverse Enterprise」、400GbpsのInfiniBandスイッチ「Quantum-2」の提供開始を発表

 半導体メーカーの米NVIDIAは、11月9日17時より、同社のプライベートイベント「GTC 21」の秋バージョンを開催しており、同社のCEO ジェンスン・フアン氏が基調講演に登壇して数々の発表を行っている。

 この中でNVIDIAは、同社がMellanox Technologiesを買収して得たデータセンターネットワーク向けソリューションの最新製品として、400Gbpsの通信に対応したInfiniBandスイッチ「NVIDIA Quantum-2」を発表した。

 またNVIDIAは、「メタバース」として最近注目を集めている、VR/AR/MRなどを活用した仮想空間でのユーザー体験などを実現するためのソフトウェア基盤「Omniverse」を提供してきたが、今回のGTC 21ではその大企業向け版(Omniverse Enterprise)を正式に出荷したことを明らかにした。Omniverseを利用することで、同社のGPUを利用して高性能で高品質なメタバース環境を構築可能になる。

 それにより、現実を仮想現実の中で実現する「デジタルツイン」などを実現でき、人間の動きやしゃべりをAIで再現したOmniverse Avatarなど、複数のアプリケーションが今回発表されている。

同社のOmniverseを利用して作られた、ジェンスン・フアンCEOのアバター「トーイ・ジェンスン」。Omniverse Enterpriseを利用すると、メタバース向けのアプリケーション開発が容易になる(写真提供:NVIDIA)

データセンター向けのInfiniBandスイッチを400Gbpsに対応させた「NVIDIA Quantum-2」を発表

 NVIDIA Quantum-2は、同社製InfiniBandスイッチの最新製品で、新たに400Gbpsの通信速度に対応している点が最大の特徴となる。TSMCの7Nプロセスルール(いわゆる7nm)で製造され、NVIDIAのA100 GPUよりもやや大きな540億トランジスタから構成されている。

 通信ポートは400Gbps×64ポート、ないしは200Gbps×128ポートを搭載でき、最大で2048ポートまで拡張可能。1秒間に665億パケットを処理できる性能を備えている。

NVIDIA Quantum-2は400GbpsのInfiniBandに対応したスイッチ(写真提供:NVIDIA)

 NVIDIAによれば、前世代までの製品に比べてデータスループットは2倍、スイッチング時のスループットは2倍になり、データセンターの消費電力と必要なスペースをそれぞれ7%削減可能になるという。また、NVIDIA Quantum-2 SHARPv3というアクセラレータを搭載しており、ネットワークのAIアクセラレーション時の性能が32倍になるなど、機能面でも強化が図られている。

 NVIDIAによればQuantum-2は既に出荷が開始されており、Dell Technologies、HPE、IBM、LenovoといったOEMメーカーの製品に搭載されて出荷開始される予定だ。

DPU「BlueFieldファミリー」のソフトウェア開発キット「DOCA」、最新版を提供開始

 またNVIDIAは、DPU(Data Processing Unit)としてBlueFieldファミリーを提供しており、そのDPUのソフトウェア開発キットとしてDOCAを提供している。

NVIDIA、データセンターのソフトウェア定義型ネットワークインフラを実現する「DPU」のロードマップを公開
DPU版CUDAといえる「DOCA」を提供へ
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1280964.html

 今回は、その最新バージョンとなる「DOCA 1.2」を提供開始することを明らかにした。108の新しいAPIが利用可能になるなるなど、さまざまな機能拡張が行われている。

DOCA 1.2の提供によりDPUのソフトウェア定義の機能などが増加する(写真提供:NVIDIA)

 また春のGTC 21で発表された、NVIDIA DPU(BlueFieldファミリー)を利用し、AIを活用したデータセンターのサイバーセキュリティ環境を構築するための開発フレームワーク「NVIDIA Morpheus」については、第2弾アーリーアクセスが開始されることも明らかにした。

 Morpheusを利用すると、DPUを導入しているデータセンターのサイバーセキュリティの検出が600倍高速になる、といった効果をNVIDIAでは説明しており、DPUの導入を計画しているCSP(クラウドサービスプロバイダー)などにとって、注目の製品となっている。

メタバースアプリケーションの開発を容易にする大企業向けOmniverse Enterpriseの一般提供が開始

 仮想空間“メタバース”は、「流行言葉」として、急速に注目を集めつつある。Facebookがメタバースを語源とする「Meta」に社名を変更することなどがその代表例で、MicrosoftやApple、Adobeといった多くの企業が、そうしたメタバース向けのソリューションを提供している。

メタバースやデジタルツインなどに大きな注目が集まっている(写真提供:NVIDIA)

 特に注目が集まっているのはビジネス向けのソリューションで、例えばMicrosoftは「Microsoft Mesh」というメタバース向けの開発環境を提供しており、2D/3Dアバターでビデオ会議を行う機能を同社のTeamsに追加するための「Mesh for Teams」を、先週発表している。

Microsoft、Teamsを“メタバース”に拡張、2D/3Dアバターで会議に参加できる「Mesh for Teams」を2022年順次投入(PC Watch)
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1363523.html

 NVIDIAがそうしたメタバース向けに開発環境として提供しているのが「Omniverse」(オムニバース)となる。Omniverseを利用すると、メタバースのHTMLともいえるUSD(Universal Scene Description、Pixarなどが中心になって作成した一種のAPI)に対応したコンテンツを作成したり、Omniverseの環境で動かすアプリケーション開発を行ったりすることが可能になる。

 これまでNVIDIAは、Omniverseの個人向けを無償で提供してきたが、今回の秋のGTCでは、大企業向けとなるOmniverse Enterpriseの一般提供が開始されたことが明らかにされた。Omniverse Enterpriseはサブスクリプション契約になっており、大企業向けの各種サポートなどが追加され、同社のOEMメーカー(Dell Technologies、HPE、Lenovo、Supermicroなど)やチャネルパートナー(ELSA、SB C&Sなど)を通じて9000ドル(年額)で提供される。

 大企業はOmniverse Enterpriseを利用することで、デジタルツインと呼ばれる、現実を仮想環境で再現するソフトウェアの開発が可能になる。今回NVIDIAはこのOmniverse向けの具体的なアプリケーションや、そうした具体的なアプリケーションを開発するための追加モジュールなどを発表している。

 Omniverse Avatarは、デジタルツインにおけるユーザーの化身となるアバターを、NVIDIAのAI技術を利用して動かしたり、しゃべらせたりといったことを実現するツール。具体的には、NVIDIAが提供する「RIVA speech AI」など、自然言語処理が可能なAI推論エンジンなどを利用して、人間と自然に会話させることができる。

 それを利用してカスタマーサポートの機能を追加したものがProject Tokkio(プロジェクト・トキオ)で、Omniverse Avatarを利用して、自然言語を用いたAIによるカスタマーサポートをメタバース環境の中に実現できる。またProject Maxineは、Omniverseを利用して電話会議などをメタバースに拡張するソリューションで、NVIDIAは今回、フアン氏講演の中で「トーイ・ジェンスン」というAIを活用したアバターのデモを公開した。

トーイ・ジェンスン(写真提供:NVIDIA)

 このほか、デジタルツインの事例としては、NVIDIAとEricssonが共同で、5Gの電波の広がり具合をメタバース環境でシミュレーションするツールなどが紹介された。

Ericssonは、Omniverseを利用して5Gの電波の広がり具合を仮想空間でシミュレーションしているという(写真提供:NVIDIA)