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富士通の新CTOが研究開発戦略を解説、インドとイスラエルで新開発拠点も設立

コンピューティング、ネットワークなど5つの分野に注力

 富士通株式会社は12日、同社の研究開発戦略について説明会を開催した。

 富士通では、未来のシナリオとテクノロジービジョンを描いた「Fujitsu Technology and Service Vision」を毎年発表しており、今回はこの中でフォーカスする技術領域について、7月に同社 執行役員専務 CTOに就任したヴィヴェック・マハジャン(Vivek Mahajan)氏が解説した。

富士通 執行役員専務 CTO ヴィヴェック・マハジャン氏

 マハジャン氏によると、同社が注力するのは「コンピューティング」「ネットワーク」「AI」「データ&セキュリティ」「コンバージングテクノロジー」の5つの領域だ。

 コンピューティング領域では、富士通が理化学研究所と共同開発したスーパーコンピュータの「富岳」が性能ランキングで世界1位を獲得していることをマハジャン氏はアピール。また、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を「ハードウェアやソフトウェアを含むトータルソリューションとして、さまざまな業界にAs a Service型で提供していきたい」と話す。

 量子コンピューティングでも包括的なソリューションに取り組んでいるとし、量子現象から着想を得たデジタル回路によって組合せ最適化問題を解決する「Digital Annealer」という技術を実用化したことを紹介。この技術は、「自動車製造部品の物流ネットワークの最適化や、新型コロナウイルスの治療薬の開発、人工衛星を使った宇宙ゴミの処理などに活用されている」とマハジャン氏。「富士通にしかできないスーパーコンピュータやHPC、Digital Annealer、量子コンピューティングを組み合わせたトータルなコンピューティングソリューションを生み出し、顧客の期待に応えたい」と述べた。

コンピューティング領域について
量子コンピューティングにも注力

 ネットワーク領域では、「エンドツーエンドで仮想化されたクラウドネイティブネットワークを世界中で提供する」という。そのため富士通では、「5Gやパブリッククララウドを含むオープンネットワークに対応し、AIおよびディープラーニングを活用した安全なインテリジェントネットワーク技術を提供する。また、消費電力の削減を含めサスティナブルなインフラを目指したグリーン技術を実現する」としている。

ネットワーク領域について

 AI領域においては、「この分野の富士通の強みは、行動認識の分析や因果関係の分析、AI大規模シミュレーション、AI倫理などだ」とマハジャン氏。因果関係の分析はAIが最も苦手とする分野だというが、「富士通のAIは因果関係を明らかにできる」とマハジャン氏は述べ、「東京大学医科学研究所のがんゲノム医療にも貢献している」とした。また、東北大学および東京大学と共に、AIと富岳による大規模津波浸水シミュレーションを実施したことや、国際体操連盟と3Dセンシング技術を用いた体操競技の採点支援システムを開発し、実用化されたことで公正な判断につながっていることなどを紹介した。

AI領域について

 データ&セキュリティ領域では、「ゼロトラストセキュリティをさらに推進し、業界を超えたコラボレーションに必要となるデータトラストの研究開発に挑戦している」とマハジャン氏。具体的には、異なるブロックチェーンを連携する「Hyperledger Cactus」というプロジェクトにアクセンチュアと共同で取り組んでいるほか、異なるクラウド関連のデータの真正性を保証するTaaS(Trust as a Service)の技術基盤も研究しているとした。

データ&セキュリティ領域について

 そして最後の領域となるコンバージングテクノロジーとは、デジタル技術と人文・社会科学を融合させたものだ。マハジャン氏は、「複雑な課題はテクノロジーだけでは解決できないため、最先端のデジタルテクノロジーと人文・社会科学の知見を融合するコンバージングテクノロジーの開発に取り組んでいる」と説明する。

 映像に映った人の動きからその行動を認識する技術では、すでに世界トップレベルの性能を発揮しているというが、「AI映像解析と行動科学の知見を融合し、人が次に何をするのかを予測するヒューマンセンシングの研究も進めているほか、リアルタイムデータ処理と行動経済学および社会科学を活用したソーシャルデジタルツインの研究にも取り組んでいる」という。

コンバージングテクノロジー領域について

インドとイスラエルに新たな研究開発拠点を設立

 今年4月に富士通は、経営戦略との整合性を高めた研究開発を加速するため、富士通研究所を富士通に統合している。その上で、今年はグローバルでの研究開発体制も強化し、「ソフトウェア技術の研究開発促進に向け、インドとイスラエルに研究開発拠点を設立する」とマハジャン氏は述べた。

 この2国での新拠点についてマハジャン氏は、「デジタル化の加速に伴いソフトウェアの重要性が高まることから、優秀なソフトウェアエンジニアが多いインドとイスラエルに目をつけた」と語る。採用する人材については、「現地の大学と協力し、AIや量子コンピューティング、セキュリティなど、ハイスペックな研究ができる人材を採用する予定だ。インドで50~60人、イスラエルで10~20人規模の採用を検討している」とした。

インドとイスラエルに新拠点を設立

 これまで日本IBMや日本オラクルなどでも要職を務めてきたマハジャン氏は、富士通のCTOとしてのミッションについて「富士通には数多くの技術が存在するが、研究所と本社を一体化したのを機に、その技術をできるだけ迅速にビジネスに貢献できるものにするのがCTOとしての役目だ」と語る。「ハードウェアやネットワークだけを購入したいという顧客はいない。つまり、技術だけではビジネスにつながらないため、As a Serviceを中心としたソリューションビジネスを展開する。顧客の課題解決が最大のポイントで、業務とテクノロジーを一体化することが大きなチャンスにつながる。日本のみならずグローバルで富士通の技術を企業のために、そして社会のために提供していきたい」(マハジャン氏)。