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「協創による成長を目指す」~社会イノベーションにおける日立の取り組み

Hitachi Innovation Forum 2014 TOKYO基調講演

 日立グループは10月30日・31日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、プライベートイベント「Hitachi Innovation Forum 2014 TOKYO」を開催。開催初日の9時30分から、株式会社日立製作所(以下、日立)の中西宏明執行役会長兼CEOが、「人々の未来を拓く社会イノベーション~新たな協創による成長をめざして~」と題した基調講演が行われた。

Hitachi Innovation Forum 2014 TOKYOの会場

社会イノベーション事業の取り組みについて紹介

 日立グループの幅広いパートナーリングと、長期にわたる「価値の協創」によるイノベーションで、社会やビジネスのさまざまな課題を解決する同グループの社会イノベーション事業の取り組みについて紹介する内容となった。

 冒頭、中西会長兼CEOは世界地図を映し出し、「全世界をみると、いまでも電力が使えない人たちは13億人に達している。また地球の直経は1万3000キロメートルだが、淡水だけを集めた直径はわずか400kmしかない。こうした状況をとらえ、社会イノベーション事業で社会に貢献するのが日立の役割である」と切り出し、「日立は、社会イノベーション事業で世界に応える決意をした。だが、社会イノベーション事業とはなにかということを、社外だけでなく、社内からも聞かれる。そのときに、社内に向けては、社会に貢献するのであれば、その仕事はもうからないといけない、ということを言っている」などと語った。

 また、中西会長は、「21世紀への切り替わりにおいて、ITの使い方が大きく変化してきた。効率化を目的とした利用から、多くのデータを活用した新たな知恵の創造に活用され、ITが知的創造を支える社会基盤になっている。また、距離と時間が短くなっている。かつては100年にかけて大きな都市が作り上げられたのが、10年で大きな都市が生まれる。海外で起こったことがすぐに日本の経済に影響するといったことも、大きな変化のひとつだ。距離と時間が縮まるなかで、エネルギーや環境問題、水や食料、安全保障といった世界的な課題を考えていかなくてはならない。日立が、社会イノベーション事業で世界に応えるなかで、経済成長と社会課題解決を両立する必要がある」と述べた。

日立製作所の中西宏明執行役会長兼CEO
地球の直経は1万3000キロメートルだが、淡水だけを集めた直径はわずか400kmしかない
21世紀のパラダイムシフト
経済成長と社会課題解決を両立する必要がある

 日立グループでは、エネルギー、都市、交通、ヘルスケア、水・資源、ロジスティクス、製造・建設、金融という8つの領域に対して、社会イノベーション事業に力を注いでいる現状についても説明。エネルギーでは、英国Greater Manchesterにおける地域にあわせたエネルギー制御の事例を紹介。エネルギーの低炭素化とエネルギーの適正価格維持という点で具体的な成果があがりつつあることや、インドやイラクでは、インテリジェントウォーターシステムを構築し、淡水化による水資源の有効活用に貢献している例を紹介した。

 さらに、「お客さまの課題を理解するためには、お客さまと会話をして、お客さま視点で一緒になって取り組む必要がある。これが日立が目指す『協創』である」と前置きし、「ITを活用し、データを収集し、分析・予測を行い、そこからフィードバックし、お客さまの事業の成長と社会の課題解決に取り組む。幅広い事業経験を生かして対話の場を作り、お客さまの事業を改革していくのが、社会イノベーションである」と語った。

日立が取り組む社会イノベーション事業
英国Greater Manchesterにおける実証
お客さまとの協創

全体最適化と共生自律分散

 また、「個々に成長してきたインフラやビジネスを磨き上げていくことも大切だが、個別最適化は、リソースの無駄や、システムの複雑化をもたらし、脆弱性を生む。例えば、交通を発展させると便利にはなるが、交通渋滞を起こし、住みにくくなるといった社会的課題や、なにか災害があると交通網が麻痺して、社会そのものが機能しなくなるという脆弱性もある。もはや、個別最適では限界がある。特に社会インフラは、それぞれが連携して、協調した、全体最適の使い方が必要になる」と提言した。

 日立が取り組む全体最適化の具体的な成果として、JR東日本の「東京圏輸送システム(ATOS)」について言及。「25年前から検討をし、20年前から徐々に導入してきたもので、私自身が20年前にはこのシステムのプランナーであった。首都圏全域の安全、安心、確実な列車運行を24時間支えているシステムであり、最大の特徴は、自律分散システムであるという点。首都圏の19路線約300駅が、それぞれの駅同士がITを活用して相互に相談して、列車を安全に運行している。今後、自律分散コンセプトは広げていく必要がある。それぞれが自律的に動き、全体が連携しながら、課題を解決できる。共生自律分散は、社会イノベーション事業の進化につながる。企業も同じように動くことが理想的である。いま、日立では、共生自律分散が重要なキーワードになっている」とした。

個別最適ではすでに限界が
制御システムで培った自律分散システム

 また、「インターネットの世界は人と人のつながりだけにとどまらず、IoTに代表されるように機械同士がつながるようになってきた。こうした世界が共生自律分散のベースになる」と述べた。

 共生自律分散は、エネルギーや資源活用の革新、ビジネスの革新、リスク管理やセキュリティ強化を実現できるとし、その事例として、ハワイでのエネルギーシステムにおける実証実験の取り組みを説明。ハワイでは、さまざまな取り組みが連携することで、2030年に再生可能エネルギーを40%にまで引き上げるとした。

 また、鉱山事業を行っているRio Tintoとの事例では、これまでのシャベル導入だけの取引だけでなく、ロジスティクスを含めたアセット最適活用やオペレーションの効率向上を高めるといった取り組みを紹介。さらに、北米でのビッグデータを活用したシェールオイル生産業者向けデジタル油田ソリューションも説明した。「これらは、お客さまとしっかりと対話をして、課題を理解して、一緒になって課題を解決していくという共生自律分散の事例のひとつである」と語った。

共生自律分散がもたらす価値
エネルギーシステムでの例
Rio Tintoとの事例
ビッグデータを活用したシェールオイル生産者向けのソリューション

 最後に中西会長は、「日本は、高性能や高信頼性に対する技術を持ち、きめ細かさや調和を重んじるという文化がある。だが、日本の文化の弱みがあるとすれば、多様性に対する柔軟性。これを乗り越えて、世界に安心、安全な社会を提供し、世界各国で社会イノベーション事業を展開していきたいと考えている。日本が世界一のイノベーションハブになるには、人、モノ、カネ、情報がグローバルに、そしてセキュアに流通する必要があり、これがイノベーションを加速する。日立は、社会イノベーションで夢あふれる豊かな社会の実現を目指す。これに向けて、技術開発に必死で取り組んでいきたい」と締めくくった。

明日はポール・クルーグマン教授が登壇

 Hitachi Innovation Forum 2014 TOKYOは、日立グループ最大規模のイベントと位置づけられ、「人々の未来を拓く社会イノベーション ~情報活用が革新するビジネスと社会~」をテーマに開催。社会が直面する課題に、日立グループが持つ情報活用によるイノベーションで応える各種取り組みを、講演、セミナー、展示を通して幅広く紹介するものだ。

 開催2日目の10月31日には、2008年のノーベル経済学賞受賞者であるプリンストン大学のポール・クルーグマン教授が、「日本経済の展望とグローバル経済の動向」と題した特別講演を行うか、日立製作所の川村隆相談役が参加するシンポジウムなどが行われる。

 また、情報・通信システム関連では、情報・通信システムグループ長兼情報・通信システム社社長の齊藤裕氏による「情報活用が革新するビジネスと社会」と題したビジネスセッションが行われ、IoT時代の本格的到来のなか、情報活用によって、企業の活動や人々の生活、それらを支える社会インフラがどのように変わるのか、また、日立が目指す社会とはどのようなものかについて講演した。

 そのほか、JR九州の唐池恒二会長、作家のロジャー・パルバース氏、ビジネス・ブレイクスルー大学学長の大前研一氏、ハーバード・ビジネス・スクール教授のロザベス・モス・カンター氏などの講演も行われる。

 さらに、セミナー会場では、「社会インフライノベーション」、「ライフイノベーション」、「ビジネスイノベーション」、「セキュリティ」、「ITプラットフォーム」の5つのカテゴリーから、80以上のセミナーが予定されている。

 また、展示ホールでは、日立が取り組むフェデレーテッドクラウドを軸とする最先端のクラウドサービス、ビッグデータを活用した各種ソリューションや活用事例、M2Mへの取り組み、サイバーセキュリティへの対策、ICTを利活用したヘルスケアや農業支援などの実例を展示。展示ホール全体を対象に、人間行動分析技術を適用した体験型デモンストレーションも行っている。

展示ホール全体を対象に、人間行動分析技術を適用した体験型デモンストレーションを実施している

大河原 克行