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クラウドは"New Normal"から"Super Power"へ、「AWS re:Invent 2016」でジャシーCEOが見せた王者の貫禄

AWS re:Invent 2016 キーノート

X-Rayビジョン:最先端のデータアナリティクスから見えてくる新たなインサイト

 ジャシーCEOが2つめのSuper Powerとして挙げたのが「X-Rayビジョン(X-Ray Vision)」である。膨大なデータに対し、X線を照射するように分析をかけることで、いままで見えてこなかったものを見えるようにする――。データアナリティクスの世界では"インサイト"という言葉がよく使われるが、ビジネスにSuper Powerをもたらすほどのインサイトを得るには、既存の精度やスピードを凌駕するアナリティクス環境が求められる。そしてAWSは今回、"X-Rayビジョン"を実現するサービスとして、大きく2つのラインアップをGA版として用意した。

 ひとつはストレージサービス「Amazon S3」に対して、標準的なSQL文でもってクエリを実行できる「Amazon Athena」だ。ジャシーCEOはAthenaを「マネージドなPrestoサービス」と表現しているが、もっといえばApache Hiveをクラウド上で実行するイメージに近い。ユーザーはS3上の生データに対してダイレクトにSQLクエリを投げることができ、クエリ実行のための環境設定等はいっさい必要がない。S3データが構造化データか非構造化データであるかも問わない。

 AWSにはすでに大規模データのアナリティクスサービスとしてDWHの「Amazon Redshift」やHadoopのマネージドサービス「Amazon EMR」などがあるが、ジャシーCEOは「AthenaはRedshiftやEMRとは競合しない。S3の生データを加工することなく、ダイレクトにクエリをかけ、数秒で結果を得ることができるインタラクティブなサービスであり、RedshiftやEMRとは目的が違う」と棲み分けを強調している。

S3のデータにダイレクトにSQLクエリを投げることができるAmazon Athenaは、マネージドなPrestoサービス

 もうひとつは「顧客から非常にリクエストが多かったサービス」(ジャシーCEO)というAIサービス群「Amazon AI」だ。AWSとしては初となるマネージドなディープラーニングサービスで、画像認識の「Amazon Rekognition」、音声認識の「Amazon Polly」、自然言語処理の「Amazon Lex」から構成されている。個別で利用することも、3つのサービスを組み合わせて利用することも可能だ。

 Rekognitionは2015年に買収したスタートアップ企業のOrebusの技術をベースにしている。またPollyは日本語を含む27カ国語に対応したText-to-Speechのサービスで、1カ月あたり500万ワードまでは無料で利用できるという。

Amazon AIを構成するひとつめは画像認識のAmazon Rekognition
Amazon AIの2つめはより自然なText-to-Speechを実現する音声認識のAmazon Polly。日本語にも対応

 だがAmazon AIでもっとも注目すべきは、Amazonのバーチャルアシスタント「Amazon Alexa」の技術をベースにした「Amazon Lex」だろう。サービス名も"Alexa"から取っており、自動音声認識(Automatic Speech Recognition: ASR)と自然言語処理(Nstural Language Understanding: NRU)を備えた機械的なチャットボットとして機能させることができる。Lambdaのファンクションをトリガーとして設定することも可能だ。

Amazon AIの中でももっとも注目されるマネージドサービスがAmazon Lex。自然言語処理と自動音声認識でもって自然な会話のようなチャットボットを実現する

 AWSはディープラーニングの分野で競合よりもやや後れた感があったが、Amazon AIの強力なラインアップの登場で、一気にトップに躍り出た感がある。キーノートではAmazon AIの3種類のサービスを組み合わせ、ロンドンまでのフライトをスムースに予約するデモが行われ、いずれのサービスもAWSらしく、きっちりと仕上げてきた印象を残している。