大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

「データとアナリティクスのソリューションカンパニー」を目指すTeradataの取り組みを聞く

 Teradataが日本におけるビジネスを加速させている。IntelliFlexおよびTeradata Database on AWSの提供を日本でも開始する一方、新たに分析コンサルティングサービスの提供を開始。約2カ月間という短期間で本格プロジェクトへと移行させることにより、顧客のメリットを最大化するのが狙いだ。

 「データとアナリティクスのソリューションカンパニーを目指す」とする米Teradata Corporation エクゼクティブ・バイスプレジデント インターナショナル・リージョン&グローバル・サービスのダン・ハリントン氏と、日本テラデータの吉川幸彦社長に、Teradataの取り組みと、日本市場における成長戦略を聞いた。

顧客がTeradataに期待しているものは変化している

――ここ数年、Teradataを取り巻く環境は、どう変化していますか。

ハリントン氏
 Teradataは30年以上の歴史を誇りますが、30年前のビジネスの中心はリレーショナルデータベースでした。しかし、いま、多くの企業がTeradataに期待しているのは、アナリティクスに関するエコシステムを活用した支援。つまり、ベストなユースケースを見つけ出すための支援をして欲しいという声が高まっています。ビジネス上の問題、ビジネス上の新たなチャンスはどこにあるのかといったことを発見するためには、アナリティクスに関する設計・実装・管理を行うためのベースとなるエコシステムが重要であり、Teradataの技術だけでなく、それ以外の技術を使いながらも、最適な環境を提案することが必要です。ここ数年、Teradataがコンサルティングサービスに力を注いでいる理由もそこにあります。

Teradata エクゼクティブ・バイスプレジデント インターナショナル・リージョン&グローバル・サービスのダン・ハリントン氏

――エコシステムが求められる環境は、Teradataにとって、追い風になるといえるのですか。

ハリントン氏
 それはチャンスと課題を生むことになります。ユーザー企業の多くは、どこで、どんなシーンで、どんな技術を使うべきかを知るためにさまざまなトライをしています。こうした試行錯誤を繰り返しているために、事業の進ちょくが止まったり、スピードが遅くなるといった課題を抱えています。

 これは裏を返せば、我々にとっては大きなビジネスチャンスといえます。データ量が増加し、分析の必要性が重視されるなかで、それをいち早く実用化するには、誰かに支援をして欲しいと考える。そこにTeradataの役割があります。

 一方で、我々にとっての課題とは、エコシステムが複雑化するなかで、統合するものが増加し、それに向けた時間や工数がかかるという点が挙げられます。そのため、これまでのように急成長してきたスピードが鈍化せざるを得ないという状況が生まれています。しかし、これは短期的なものであると考えています。アナリティクスを設計し、実装し、管理することを支援するための土台づくりを行っているわけで、これが整えば、今後はあらためて事業が加速することになります。成長の機会は、これからこそが大きいと考えています。

信頼されるアドバイザーとしての役割が重要に

――ここ数年、Teradataの製品ポートフォリオが広がり、さらにエコシステムが広がり、事業領域が複雑化していることを感じます。これはまだ肥大化するのですか。

ハリントン氏
 社会を取り巻く環境変化のスピードはとどまることころを知りません。残念ながら、これからもまだ拡張を続けていくことになります(笑)。その一方で、どの技術、どの製品を、どんなユースケースで使うのが最適であるかという支援が重視され、そこにTeradataのコンサルティングチームの力が発揮されることになります。それがTeradataの価値でもあります。オープンソース技術に対する過剰な期待もありますが、それに対しても的確な提案ができます。信頼されるアドバイザーとしての役割は、ますます重要になるわけです。

――ハリントン氏は、インターナショナル・リージョン担当エグゼクティブ・バイスプレジデントとして、日本をはじめ、欧州、中近東、アフリカ、中国、アジア太平洋地域などを統括していますが、データやアナリティクスに対するユーザー企業の意識は、地域によって差がありますか。

ハリントン氏
 地域による差はないと考えています。先週、中国を訪れたのですが、ある企業のデータ統合および分析の考え方はかなり高度であり、先進的です。またドイツの企業では、データ分析の考え方において、高度な洗練された企業がある一方で、データに対する認識が遅れているという企業もありました。地域の差というよりも、むしろ、個々の企業の経営者の考え方が大きく影響しているといえます。データはビジネスのための資産であり、データをより良く形で分析することで、ビジネスを成長させていく。そうした意識を強く持っている企業こそが、成長を手にすることができます。

――日本の企業に対して、Teradataはどんな提案を行うことができますか。

ハリントン氏
 Teradataは、顧客との接点となる営業担当者、顧客の問題をいかに解決するかを考えている技術担当者、そして、事業や業界を熟知したコンサルタントによって構成されており、業界のノウハウや知見、あるいは類似する課題を問題を解決した世界中の実績を、日本の企業に対して活用することができます。

 ドイツのシーメンスは、データに基づいたサービスを提供する新たなプラットフォームであるシナリティクスを活用して、予防保守などにつなげていますが、このノウハウを日本の自動車メーカーにも適用したり、ハイテク企業のほか、多くの業界に当てはめることができます。同じ業界のベストプラクティスを共有することで、日本の企業に対しても、これまでにない価値を提供できます。コネクテッドカーの場合においても、欧州の自動車メーカー、米国の自動車メーカー、そして日本のメーカーも同じ課題を持っており、Teradataはそれを解決するお手伝いができます。

――あらためてうかがいますが、Teradataの強みとはなんでしょうか。

ハリントン氏
 Teradataの最大の価値は、顧客の課題を解決するために、設計・実装・管理するためのソリューションを、我々の技術、サービスを組み合わせて提供することにあります。さらに、ここにエコシステムを組み合わせることができます。競合他社の場合は、技術だけを提供する、あるいはサービスだけを提供するというケースもあります。Teradataの強みは、ハード、ソフト、サービスのすべてを統合したソリューションとして提供できる点でしょう。

 世界中のデータ量が、これから増加していくことは明らかです。それに伴って、高度な分析が必要であり、高可用性も求められています。また、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドに対する需要も、ますます高まっていくでしょう。これらをすべて提供できるのがTeradataです。さらに、オープンソースの技術をフルに活用することで、イノベーションを加速することができます。

すべてのアドバンテージをクラウドでも提供可能に

――Teradataは、今年4月にドイツで開催した「TERADATA UNIVERSE」において、オンプレミスのIntelliFlex、Teradataがパブリッククラウドとして提供するマネージドクラウド、そして、AWS上で提供するTeradata Database on AWSの提供開始を発表しました。これはどんな意味を持ちますか。

ハリントン氏
 この一連の発表によって、Teradataが提供するすべての機能やアドバンテージを、オンプレミスでも、クラウドでも提供できるようになります。これがTeradataの今後の大きな強みとなります。オンプレミスでも、クラウドでも、我々の技術を使ってもらうことができるわけですから、むしろ、Teradataを使わない理由というものが見当たらなくなります。

 特にTeradata Database on AWSは、日本において新規顧客を獲得する上で、有効な手段になると考えています。これまでTeradataを活用するためには、自社のデータセンターにおいて、ハードも、ソフトもそろえないと、試すことすらできなかった。しかしクラウドを活用することで、短期間だけ「オン」にして、Teradataを試していただくことができるようになる。Teradataが自社のビジネスにおいて本当に価値を引き出してくれるのか、といったことを検証できるわけです。企業にとって、活用のハードルを大きく引き下げ、簡単にトライすることができるようになります。

――IntelliFlexおよびTeradata Database on AWSは日本でも提供しますが、マネージドクラウドの日本での提供は、まだ正式にアナウンスされていません。ハイブリッドクラウド戦略が整っていないといえますが。

ハリントン氏
 クラウドが海外でも重視されているように、今後、日本でもクラウドが重視されてくるのは明らかです。Teradata Database on AWSを日本でも提供開始することは重要な意味を持ちます。これは日本のユーザーに対して、マネージドクラウドサービスを提供することになりますし、我々のプロフェッショナルサービスとコンサルティングチームを通じて、顧客に変わって管理する体制が整っています。そして、これを第1弾として、マイクロソフトのMicrosoft Azureについても対応することをコミットします。時期はまだ言えませんが、日本においても早い時期に利用していただけるようになります。

吉川氏
 日本においてもクラウドに対するニーズが高いのは事実です。しかし、全面的にクラウドに移行するという企業はまだ少なく、一部分だけをクラウドでやってみるといった使い方が主流です。その点では、Teradata Database on AWSによって“試してみる”という環境ができたことは、我々のビジネスにとって重要な意味があるといえます。

 日本においても、パブリッククラウドへの対応を拡充するとともに、まだ時期は明確には言えませんが、早い時期にマネージドクラウドへの展開を進めていきたいと考えています。それは日本のユーザーも望んでいることだといえます。

日本テラデータの吉川幸彦社長

ハリントン氏
 競合他社のなかには、当社と同じように、オンプレミスでも、クラウドでも使えるということを訴求している例がありますが、Teradataの価値とは、ハイブリッドというだけにはとどまりません。ビッグデータに簡単にスケールができること、複雑なクエリを処理できること、構造化データ、非構造化データを問わず、さまざまなタイプのデータを取り込むことができます。

 また、何千もの同時ユーザーに対応し、どのようなビジネス課題にも柔軟性をもって対応できます。そして、それを実現するためのコンサルティングの強みもあります。こうした強みをもっと日本の企業に知っていただきたいと思っています。

短期間での本格プロジェクトへの移行を支援

――日本では、新たなサービスとして、分析コンサルティングサービス(Rapid Analytic Consulting Engagement)の提供開始を発表しました。これは、日本の市場に対してどんな意味を持ちますか。

吉川氏
 既存のトランザクションベースの分析であれば、ある程度、その成果を予測することができますが、あらゆるデータを対象とした場合に、どういう形でやりはじめたらいいのかということがまったくわからない顧客が多い。そこに対してアドバイスをしていくのが、今回の分析コンサルティングサービスということになります。

 ユースケースの参照などによって、具体的な道筋やゴールが見えやすくなりますから、それをもとにプラン作成を行うことで短時間化できます。さらに、AsterおよびApp Centerのツールを活用することで、ディスカバリー作業を迅速化でき、分析モデルの作成と検証サイクルを短期間に回すことができるので、生産性を高めることが可能になります。

 モデリングは一度で当たるわけではありませんから、いかに回して、最適なものを探し出すことができるか、なにがバリューなのかということを突き詰めていかなくてはなりません。今回の分析コンサルティングサービスによって、これまでは最低でも6カ月以上かかっていた初期コンサルティング分析活動を、2カ月程度に短縮できます。

 短期間で本格プロジェクトに移行できれば、顧客が利益を得られる期間が長くなるわけですし、投資する費用も少なくて済みます。このサービスをきっかけに、日本におけるテラデータのビジネス拡大へと結びつけていくことができますし、お付き合いがなかったユーザーにも新たにアプローチすることができます。

 当社は、このサービスそのもので儲けようとは考えていません。いち早く本番環境を稼働させて、顧客のビジネスに貢献することが大切です。信頼できるアドバイザーとして、本番環境への移行をしっかりとサポートするというところに意味があります。これは、テラデータにしかできない、差別化したサービスとして提供できるものであると考えています。

――ここで活用するユースケースは、日本の企業に最適化されたものになっているのでしょうか。

吉川氏
 すべてのユースケースが、日本の企業に当てはまるものではありません。しかし、これらは、長い経験のなかで蓄積されたものであり、どんな形でやるのがいいのかということを具体的に見せることができますから、大きな差別化になるのは明らかです。すでに、トヨタインフォテクノロジーセンターやアイシン・エィ・ダブリュといった企業でこれを導入しましたが、大きな成果を上げています。

――本番プロジェクトの開始までの期間が3分の1になるということは、ビジネスが3倍に拡大するということになりますか?(笑)

ハリントン氏
 それはいい計算式ですね(笑)。

IoTでもAoTでも価値を提供できるTeradata

――一方、Teradataでは、IoTへの取り組みのひとつとして、Analytics of Things(AoT)を掲げ、それを実行するチームとして、データサイエンティスト、データエンジニアにより構成されたIoT分析チームを持っています。この組織は、日本の企業にとってどんな貢献をすることになりますか。

ハリントン氏
 IoTが日本の企業に大きな影響を与えるのは間違いありません。というのも、日本には多くの製造業やハイテク企業があり、そうした企業においては、大量のセンサーデータや、マシンによって生成されたデータがリアルタイムで生まれています。これらをリアルタイムに、あるいは準リアルタイムにローディングするとともに、拡張性を持ったプラットフォームが必要になります。そして、マルチジャンルの分析を可能にするアナリティクス環境を実現しなくてはなりません。

 Teradataは、ここでも独自性がある技術によって、IoTでもAoTでも価値を提供できますと考えています。IoT分析チームのラボはサンディエゴにありますが、データウェアハウス(DWH)に対して、データをローディングするためのアーキテクチャを開発するチームは、日本をはじめとする世界各国にいます。またデータサイエンティストは、DWHに入ってきたデータを、どのようにモデルに適用できるかといったことに熟知しており、こうしたスキルを持った社員は日本にも在籍しています。こうした人材を、今後も拡大していくたいですね。

――このほど、ヤフージャパンと技術提携を発表しましたが、この狙いはなんですか。

ハリントン氏
 これは、ヤフージャパンとテラデータラボとの技術提携ということになります。ヤフージャパンには当社の製品を導入してもらっているのですが、その実績をもとに、ヤフージャパンのニーズや要件といったものに、より焦点を当てていくことになります。こうした協業を通じて、今後の製品の改善や進化、ロードマップにも反映させていきます。

 実はヤフージャパン以外にも、イノベーションに富んだ企業と、同じようなパートナーシップを組んでいます。その成果として、たとえば、Asterには150以上のライブラリがありますが、これを特定顧客向けに提供するのではなく、幅広い顧客に提供していくことができるようになります。

――日本市場における、今後のTeradataの重点ポイントはなんですか。

ハリントン氏
 日本市場はTeradataにとって重要な市場です。日本の企業は、大量のデータを分析するパワーが必要があり、同時に、それによってビジネスを改善できる余地が大きいともいえます。それはTeradataにとって、大きなビジネスチャンスがあることにつながります。ただ、日本の企業はTeradataを活用することで、ビジネスを成長させても、どんなことに活用し、どんな成果に結びつけているのかということを内緒にてしていることが多い。その成果を、もっと我々に教えてほしい(笑)。企業秘密の部分もあるでしょうが、ぜひ、もっと深く情報を共有したいですね。

――今後、Teradataはどんな方向に向かいますか。

ハリントン氏
 Teradataは、アナリティクスに関するエコシステムを構築し支援すること、より多くのソリューションを提供していくこと、オンプレミスでも、クラウドでもソリューションを提供し、柔軟な選択肢を提供することに取り組んでいきます。1年後には、これらの取り組みがかなり高度なところにまで進むことになると考えています。これらの3つの成長への取り組みは、はっきりとしたものであり、これからのTeradataの成長を支える要素となります。

 Teradataは、今後、「データとアナリティクスのソリューションカンパニー」を目指します。今回、日本を訪れ、多くの企業の方々と話す機会を得たのですが、それに向けた日本の企業からの反応は、とてもいい感触を得ています。戦略としての正しさに自信を持つとともに、その進ちょくにも大きな成果が見られている。そこに強い手応えを感じています。

大河原 克行