大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Microsoftが考える「インテリジェントクラウド」とは?

 Microsoftは、インテリジェントクラウドへの取り組みを重要な柱に据えている。米Microsoftのサティア・ナデラCEOは、3つのAmbition(=野心)を掲げており、インテリジェントクラウドは、そのなかのひとつに位置づけられるものでもある。今後の成長の柱であるとともに、同社が最も多くの投資をしていく分野でもある。

 では、Microsoftが目指すインテリジェントクラウドとはなにか。米Microsoft本社を訪れ、インテリジェントクラウドへの取り組みを追った。

米Microsoftのサティア・ナデラCEO
2015年夏のMicrosoft Worldwide Partner Conferenceで、インテリジェントクラウドについて説明するナデラCEO

Microsoftの次代の姿の礎に

 Microsoftのサティア・ナデラCEOが掲げる3つのAmbitionとは、「プロダクティビティとビジネスプロセス」「インテリジェントクラウド」「パーナソルコンピューティング(Windows 10およびデバイス)」である。

 「プロダクティビティとビジネスプロセス」では、生産性を追求することで、人の活動などを進歩させ、そのためのツールを提供することを目指す、というものだ。Office 365などがここに含まれる。

 また「パーソナルコンピューティング」では、モバイルファースト、クラウドファーストの時代において、デバイスが人間に適用する世界を実現。仕事での体験と、家庭での体験を、シームレスに体験できるようになるような世界を目指すことになる。Windows 10やSurfaceなどがここに含まれる。

 そして、「インテリジェントクラウド」では、「Microsoftのハイパースケールのクラウド環境を生かすとともに、人工知能や機械学習といった領域でも進化を遂げることで、世界を変えていくことになる」(Microsoft グローバルコミュニケーションのTim O'Brienゼネラルマネージャー)と位置づける。Microsoft Azureを軸としたクラウドサービスが主軸だ。

 インテリジェントクラウドは、2016年度第1四半期(2015年7月〜9月)に前年同期比14%増となる58億9000万ドル、第2四半期(2015年10月〜12月)が5%増となる63億4000万ドルを達成。「プロダクティビティとビジネスプロセス」と「パーナソルコンピューティング」がマイナス成長となるなか、唯一成長を遂げている領域である。

 つまり、Microsoftが取り組んでいる変革の象徴ともいえる領域であり、この成長に先に、Microsoftの次代の姿があるといっていもいいだろう。

 O'Brienゼネラルマネージャーは、「2016年に最も多くの投資をしていく分野が、インテリジェントクラウドになる」とする。

Microsoftが掲げる3つの野心
Microsoft グローバルコミュニケーションのTim O'Brienゼネラルマネージャー

 そして、MicrosoftのMicrosoft Azure担当、Jason Zanderコーポレートバイスプレジデントは、「インテリジェントクラウドとは、コネクテッドワールドと呼ばれる現在の状況において、Microsoftが提案するデファクトプラットフォームであるとともに、当社が掲げる『モバイルファースト、クラウドファースト』戦略を推進する上での重要なプラットフォームになる」と位置づける。

Microsoft、Microsoft Azure担当 Jason Zanderコーポレートバイスプレジデント

クラウドインフラとしての3つの強み

 Microsoftが、インテリジェントクラウドの特徴を掲げるときに、3つの観点に言及することが多い。ひとつは、ハイパースケールのクラウド環境をはじめとするクラウドサービスインフラとしての強みだ。

 それを示すように、Zanderコーポレートバイスプレジデントは、「Microsoftでは、クラウドサービスにおいて、3つの領域に力をいれている」として、次の3つのポイントをあげる。

 ひとつめが、ハイパースケールコンピューティングを実現している点である。

 Microsoftでは、全世界に28のデータセンターを配置しており、「リージョンという観点でみれば、AWSやGoogleを足した数を超える規模になる」とする。「エクサバイト単位の巨大なストレージと、何十万ものコンピューテイングコアを持ち、地球全体を網羅することができる。そして、この仕組みは、結果として、ローカルにおける活用にも最適化したものになっている」とする。日本では、東京と大阪にそれぞれデータセンターを持ち、日本リージョンを構成。このデータセンター同士の連携によって、日本国内にデータを保持した上で、Microsoftのクラウドサービスを利用することができる。

 2つめがエンタープライズグレードのサービスを提供している点だ。

 「セキュリティおよびコンプライアンスにフォーカスしたクラウドサービスであり、それは銀行や保険会社、政府などが活用している信頼性の高いサービスであるということでも証明されるだろう」とする。

 そして、3つめが、ハイブリッドクラウドであるという点だ。

 企業が持つオンプレミスのデータセンターと、Azureのデータセンターを連携したハイブリッドクラウド環境を容易に構築できるのは、Microsoftの強みだと強調。さらに、Microsoftのハイパースケールのクラウドで実証済みのイノベーションを、ユーザー企業のデータセンターに展開し、生産性向上とITの柔軟性、管理の効率化を実現することできるAzure Stackの強みや、デルとの協業によって、Azureの機能をオンプレミス環境で提供するハードウェア製品のcloud-in-a-boxの提供、また、ハイブリッドバックアップの高速化や高可用性を実現し、使用中の変更やセットアップなどについても、Azureのパブリックデータセンターに展開できるSQL Server 2016の特徴などについても示してみせる。

 さらに、Azure IoT Suiteについても言及。「低価格のセンサーやデバイスの登場により、今後、大きく成長するIoT市場に対しても、Microsoftは、過去15年以上に渡って蓄積してきた組み込み型OSのノウハウを活用して、ハイパースケールクラウドと組み合わせた提案が可能になる」とし、Azure IoT Suiteによって、デバイスやセンサーなどの既存資産の使用、既存システムを活用する既存インフラの拡張、収集した各種データと連動させる既存データの活用などでのメリットを示した。

 ここでは、酪農農家における牛乳の生産の効率化のために、牛にセンサーを取り付けたり、エレベーターの予防保守を実現するために、エレベーターにセンサーを活用している導入事例をあげてみせた。

 そして、Zanderコーポレートバイスプレジデントは、続けてこうも語る。

 「ハイパースケールのパブリッククラウドサービスを提供しているのは、Microsoft、Amazon(AWS)、Googleの3社だけである。また、エンタープライズクラスのサービスを提供しているのは、MicrosoftとAmazonの2社。だが、このなかで、SaaS、PaaS、IaaSの3つのクラウドサービスを提供しているのは、唯一、Microsoftだけである。Microsoftでは、Office 365やDynamics CRM OnlineといったSaaS、機械学習、データベースを活用したソフトウェアを構築するためのPaaS、そしてデータセンターを活用したIaaSをAzure上で提供。そして、これをバランスよく提供している。Salesforce.comはSaaSだけを提供し、AWSはIaaSが中心。Microsoftが、3つのクラウドサービスを提供していることは、多くのユーザーが、Microsoftのクラウドサービスを選択する理由のひとつになっている」(Zanderコーポレートバイスプレジデント)とする。

 もうひとつ、Microsoftのクラウドサービスを語る上で欠かせないのが、「数多くのアプリケーションと連携を行っている点である」とする。

 Azureでは、Linuxに対応し、IBM、Oracleとの関係を強化。Red Hat Enterprise LinuxなどのOSS(オープンソースソフトウェア)およびサードパーティ製品など、クラウドで主流となっているプラットフォームのサポートのほか、AmazonやSalesforce.comとの連携、Open Stack、VMwareなどとの連携も発表している。

 さらに、「プライベートクラウド領域と連携したハイブリッドソリューションを実現するための提携も行っている。HPやDellとの連携は、その一例である」とする。

 これまでは競合と思われていた企業との連携関係の強化を促進していることも、Microsoftのインテリジェントクラウド戦略においては、欠かせない要素だといえる。

機械学習を活用したインテリジェント化

 Microsoftが掲げるインテリジェントクラウドの2つめの特徴が、Microsoft Azureが、機械学習を活用したり、ビッグデータやIoTなどに対応したサービスの提供を行うほか、分析、処理、新たな洞察にも長けたものとなっている点だ。

 つまり、インテリジェントクラウドの名称を表現するように、クラウドそのものがインテリジェント化する方向へと進化していることが、Microsoftが提供するクラウドサービスの特徴というわけだ。

 その象徴的な取り組みになるのが、Skypeによるリアルタイム翻訳機能である「Skype Translator」である。Skypeで対話する際に、自分の国の言葉で、画面の向こう側にいる他国の人に話しかけると、相手の国の言語に変換し、しかも発声してくれる。

 Microsoft Researchが研究開発を行っているもので、現在、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、中国語(マンダリン:官話)の7カ国語に対応している。日本語にはまだ対応できていない点は残念だが、テキストの認識および翻訳では、50カ国語に対応。そこでは日本語にも対応しており、日本のユーザーも、インスタントメッセージなどでのやり取りでは、リアルタイムで翻訳機能を活用できる。機械学習を活用することで、その精度は日々、進化を遂げているという。

 インテリジェントクラウドにおける特筆されるもうひとつの取り組みが、「Project Oxford」である。

 これも、Microsoft Researchが取り組んでいる機械学習を活用した成果のひとつだ。

 なにが写っているのかといった映像内容を認識することができる「Computer Vision API」や、笑顔や泣き顔、怒っている様子などを認識することができる「Emotion API」、周りの騒音の中から目的とする音声だけを抽出することができる「Custom Recognition Intelligence Service(CRIS)」など、10のAPIを提供しており、これを開発者に提供することで、アプリやサービスに活用することができるようになる。

 こうした機械学習などによるインテリジェントクラウドならではの機能を活用して、スマホやタブレットなどのさまざまなデバイスにおいて、音声やテキスト、画像認識を活用したサービスを実現できることになる。

最も信頼性の高いクラウドを目指す

 インテリジェントクラウドの3つめの特徴が、信頼性の高いクラウドサービスを提供しているという点だ。

 Microsoftのブラッド・スミス社長は、「信頼してもらわなければ、技術は活用してもらえない。そして、革新的な技術を活用してもらうには、透明性の高いレベルを維持することが大切である」と語るが、クラウドサービスも、この基本姿勢を踏襲している。

ブラッド・スミス社長による技術に対するメッセージ

 Zanderコーポレートバイスプレジデントは、「いま、Microsoftのクラウドに期待が集まっているのは、クラウドによって実現されるコスト削減のメリットでもないし、将来のロードマップでもない。セキュリティとコンプライアンスが最重点課題になっている」とする。

 「多くの企業にとって、重要なワークロードを、クラウド上に移行して大丈夫なのか、バックアップはしっかり確保できるのかといった点に強い関心が集まっている。それに対して、Microsoftは明確な回答を持っている。例えば、Microsoftは全世界で33のコンプライアンスにかかわる認定を取得しており、金融機関が求める基準を満たしている」というのだ。

 例えば、プライバシーコントロールの国際基準である ISO/IEC 27018に、クラウドサービスとして初めて準拠したのもMicrosoft Azureであり、日本では金融システムセンター(FISC)が定める基準要件を満たす認定を受けている。

 「Microsoft Azureは、ほかのサービスとは比べものにならないほどの認定や認証を取得している。Azureで実行されるインフラストラクチャやアプリケーションでは、コンプライアンスを達成するための堅固な基盤が確保されている」と、MicrosoftのNeal Suggs副社長兼顧問弁護士は胸を張る。信頼性の高いクラウド環境の実現は、同社のクラウドビジネスの根幹を成しているというわけだ。

世界各国のさまざまな認証、認定を受けている
MicrosoftのNeal Suggs副社長兼顧問弁護士

 Microsoftでは、コンプライアンスへの準拠、リスクのコントロール、データ保護、そして、透明性の4つにコミット。それを同社クラウドサービスの基本姿勢においている。

クラウドにおける4つのコミット

 Suggs副社長兼顧問弁護士は、「クラウドサービスを導入した当初は、従来のオンプレミス製品と同じ考え方を持っていた。だが、それではこの技術を使ってもらえることにはつながらなかった。われわれは、かねてからテクノロジープロバイダーであったが、クラウド時代においては、テクノロジー/サービスパートナーでなくてはならないと考え、ユーザー企業にとって、コンプライアンスに準拠した提案ができるのか、リスクをコントロールすることができるのかといったことを考え始めた」とする。

 コンプライアンスへの準拠では、データ保護などにおいて最も厳しいとされるEUのモデル条項に5年前から準拠。そのための投資を行ってきたと説明する。さらに、2015年10月以降、新たなアプローチを開始し、グローバルの境界線がないような形で、これらの仕組みを活用できるようにしているという。

 また、米本社内に設置しているサイバークライムセンターの活用によって、サイバーセキュリティへの対策に積極的に取り組んでいることも、信頼性の高いクラウドサービスを提供することにつながっている。

 「いまの時代において、不信感をゼロにするということはできないだろう。だが、不信感を少なくしてもらうために、われわれが正直で、透明性のある行動をとることはできる」と、Suggs副社長兼顧問弁護士。信頼性の高いサービスの提供というテーマは、終わりのない取り組みだといえるが、それに向けて、さまざまな観点からMicrosoftは投資を続けているというわけだ。

 Zanderコーポレートバイスプレジデントは、「われわれの戦略を考えるとき、モバイルファースト、クラウドファーストをフレームに置いている。インリジェントクラウドについてもそれは同様である」とする。そして、「インテリジェントクラウドの旅路はまだ始まったばかりであるが、これによって、これまでにはなかった新たなクラウド活用シナリオ、多種多様なクラウド利用シナリオを提案できる。それに向けて、Microsoftは数多くの努力を行っている」とする。

 もとともはコストダウンの手法としてとらえられたクラウド活用が、価値を提供するためのサービスへと進化しているのは周知の通りだ。それをさらに加速するのが、Microsoftのインテリジェントクラウドの基本的な考え方となる。インテリジェントクラウドによる成果は、技術的進化の側面やユーザーメリットの提供、そして、Microsoftの業績面への貢献という点でも、これからが本番となる。

(大河原 克行)