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クラウドも巻き込むTVストリーミングのAereo 最高裁でテレビ局と対決

クラウドサービスを味方につけるAereo

 この訴訟に注目しているのはテレビ業界だけではない。クラウド業界も高い関心を払っている。というのも、データをクラウドに保存してアクセスするという利用形態の合法性も問われるからだ。

 「クラウドコンピューティングサービスは遠隔にあるサーバーに格納した個人用ファイルにインターネット経由でアクセスすることだ。個人用ファイルにはテレビ番組や音楽なども含まれており、クラウドにも影響する」とReutersは言う。また、TIMEは「ユーザーが動画をダウンロードし、DropboxやiCloudなどのサービスを利用してクラウドに保存し、自分のコンピュータで後で視聴する――。これは“公の実演権”になるのだろうか」という判事の言葉を引用している。これについては、Aereoとテレビ局の双方とも、購入済みのコンテンツを視聴する際にはロイヤルティの支払いは不要という見解で合意しているという。

 テレビ局対Aereo訴訟の参考にされる判例が、ケーブルテレビのCablevisionの例だ。Cablevisionは遠隔にDVRを設置してユーザーがこれにアクセスして再生できるというサービスを提供していた。やはりテレビ局に訴えられたが、DVRがクラウドにあるのか自宅にあるのかの違いで著作権侵害にはあたらない、という判決が2008年に下りている。iTunesで楽曲を購入し、Google Driveのようなクラウドストレージサービスを利用して後で再生するのと同じ、というのが今回のAereo側の主張だ。

 こうした背景もあってか、テレビ局側はクラウド全体を敵に回すことを恐れているようでもある。ReutersやTIMEによると、Cablevisionとの違いを問う判事に対し、テレビ局側の弁護士は「クラウドの問題を一度に解決しようと試みる」必要はないと述べた。範囲を狭めて「著作権法の解釈について共通の理解」に向けた議論が必要だ、と促したという。

 そのテレビ局側の弁護士が用いた例えが、コピー店だ。Dropboxは単に“コピーマシンを置いているコピー店”に過ぎないが、Aereoは“コピー店が再版権を持たない著作権のある素材を備えたコピーマシンを置いている”説明している、とBusinessWeekは伝えている。

 Aereo側はもちろん、クラウドの後ろ盾を活用している。Aereo側の弁護士は、テレビ局側に優位な判決が下った場合は、クラウドのビジネスモデルを根底から揺るがすリスクにつながる、と判事に述べたという。AppleやGoogleなどクラウドサービスを持つインターネット企業側はAereo側を支持しているといわれている。

 判決は6月末の予定で、これまでの経過からAereoが優位と見る向きも多いようだ。だが、今回、判事の中にはAereoのビジネスモデルに懐疑的な見方もあるという。Reutersは「あなた方(Aereo)の技術モデルは、あなた方が順守したくない法的な縛りを回避することだけに基づいているように見える」とのコメントを引用している。

 一方で、テレビ業界そのもののイノベーションを問う声もある。Engadgetは「放送技術におけるイノベーションに期待することができるのだろうか」と問いかける。無線やインターネットサービスと比較すると、「この50年ほど、放送事業者とディストリビューターはHDやサラウンドなどの技術をゆっくりもたらしたに過ぎない」と指摘している。

岡田陽子=Infostand