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ファッションとテクノロジーの“共通解” AppleのBurberry CEOスカウト (オンラインと店舗の融合、ウェアラブル、中国市場)

オンラインと店舗の融合、ウェアラブル、中国市場

 このファッション界からハイテク企業Appleへという人事について、Financial Timesは「驚きではない」と言う。というのも、Ahrendts氏のBurberryでの功績の1つに、積極的なハイテク活用があるからだ。Burberryは基幹システムベンダーのSAPとともに「iPad」を利用した接客システムを構築。ショップでは、顧客のオンラインとショップでの両方の購買履歴をベースに、アフターケアまで含んだ包括的なサービスを提供している。

 「Burberry World」として展開するオンライン側では、オンラインショッピングのほか、ファッションショーのビデオも楽しめる。ソーシャルメデイア機能も取り入れており、有名なBurberryのトレンチコートをまとった顧客のスナップ集もある。2012年にはロンドンのフラッグシップ店舗でBurberry Worldをリアル体験に融合しており、ファッション界の話題となった。今年に入ってからは、Googleとのコラボレーションしたデジタルコンテンツ「Burberry Kisses」も展開している。

 Financial Timesは「英国のラグジュアリーブランドにデジタルを持ち込んだことが最も重要な功績だ」「インターネットが持つ力を早くから理解し、販売にとどまらず、ブランドの構築とプロモーションに利用した」と評している。そして、コンサルKorn/Ferryで英国小売業を担当するSally Elliott氏の「デジタル関連などのイノベーションのカルチャーを作り新しいアイデアを促進した」というコメントを引用している。

 そしてAppleがいま必要としているのは、まさにこうした手腕だ。AppleのApple Storeは当初は革新的だったが、その独自性や輝きを失いつつあると見る者は多い。Apple Store各店舗の平均の四半期売上は1300万ドル。フロア面積あたりの売上げで高級宝石店Tiffany & Companyを上回るなど高い収益性を誇るが、6月末までの9カ月間の店舗あたり売上高は2.5%減少している、とWall Street Journalは指摘する。売上げ減少は2009年以来という。

 Appleのブランド戦略にとってApple Storeは重要な役割を持つが、一方では難局にある。Steve Jobs氏時代にApple Storeの立役者だったRon Johnson氏が去った後、後任のJohn Browett氏はスタッフ削減などの対策を打ち出したが、これが不信感を買った。Browett氏は半年もしないうちにAppleを退社している。ブランド戦略コンサルCultureRanchのトップ、Eli Portncy氏は、Apple Storeが「わくわくする場所から、人の洪水になった」とその変化を形容する。「感動のようなものがなくなってしまった。魅力的な雰囲気を取り戻す必要がある」とPortncy氏はWall Street Journalに語っている。

 一方、Ahrendts氏はBurberryのオンラインと店舗の両方に新しい息吹を吹き込んだ。Portncy氏ら専門家は、こうした手腕が今のApple Storeに求められていると見る。Gartnerのモバイル担当アナリスト、Carolina Milanesi氏は顧客情報を活用したBurberryの接客手法を導入すれば「顧客はクラブのメンバーのように感じる」とWall Street Journalに語っている。Financial Timesは、ブランドにとってデザイン、製造、リテールの融合が重要になっていることを指摘しており、Apple Storeの立て直しだけでなく、オンラインと小売りのブランド体験の統合でも氏の手腕が注目されるとしている。

 Ahrendts氏への期待はほかにもある。中国市場だ。中国はAppleにとって2番目に大きく、成長が見込める重要な市場だ。しかし、2012年に25店舗を目指してスタートしたApple Storeは、現在8店舗にとどまっている。

 Ahrendts氏はBurberryで、ブランドの高級感を損なうことなく中国の顧客に価格帯を下げた製品を提供する戦略をとり、これが成功した。ここでAhrendts氏が行ったことは、前任者の決断だった中国市場でのBurberryブランドライセンスを終了し、フランチャイズ店舗を買い取ることだった。これによって、ブランドのコントロールを取り戻したとFinancial Timesは紹介している。

 もう1つの分野がウェアラブルだ。Appleはまだ正式にウェアラブルコンピュータに参入していないが、Googleの「Google Glass」、Samsungのスマートウォッチ「GALAXY Gear」などライバルの進出を黙って見ているはずがない。「iWatch」開発中のうわさも流れて久しい。Appleはすでに、Burberryと並ぶ高級ファッションブランドYves Saint LaurentからCEOのPaul Deneve氏を雇い入れている。元々Appleの社員で古巣に帰るDeneve氏は、Appleで特別なプロジェクトにつくと言われれている。こうした文脈から、New York Timesはファッションに通じたAhrendts氏が、Appleのウェアラブル戦略でも活躍すると予想する。

(岡田陽子=Infostand)