新OSの役割は? 「Chrome OS」ローンチ近付く


 GoogleのオープンソースOS「Chrome OS」の発表から約1年。いよいよ搭載製品が登場する約束の2010年後半に入り、新しい情報もいくつか出てきた。Microsoftの牙城を脅かす可能性を持ったOSとして注目を集めたChrome OSだが、その後の環境の変化で、期待される役割も変わってきているようだ。Chrome OSは、果たしてどんなインパクトを市場に与えるのだろうか?

今秋には搭載デバイス登場~Acer、ASUS、HP、東芝に加えDellも参入

 Chrome OSは、LinuxとWebブラウザ「Chrome」をベースにデバイスドライバなどを加えた軽量OSで、アプリケーションにはブラウザ経由でアクセスする。Webアプリケーションを実行することに特化しており、ネットブックのような機器をターゲットにするという。

 6月はじめ、台湾で開かれた「CompuTex Taipei」で、Googleプロダクトマネジメント担当副社長のSundar Pichai氏が、デバイスに載るのは「今秋の遅い時期」と発言して、具体的なスケジュールが明らかになった。

 これまで、Acer、ASUS、Hewlett-Packard(HP)、東芝などのPCメーカーが公式に開発への協力を明らかにしているが、Dellもこれに加わる見込みだ。6月21日付のReutersの記事によると、Dellの中国・南アジア担当社長のAmit Midha氏は、「今後2、3年で、新しいコンピューティングの形態とともにユニークなイノベーションが起こる。その最前線に立ちたい」と述べ、「Chrome OSやAndroidを利用して」市場をリードしていきたいと意欲を見せたという。

 現時点でGoogleのChrome OS公式サイトにDellの名前はない。また、GoogleもDell本社もこの件に特にコメントはしていないが、DellがChrome OS搭載機を示唆したことは、Chrome OSローンチに向けて弾みをつけそうだ。

明らかにされた新機能~「Chromoting」と「Cloud Print」

 Chrome OSについては機能面でも、いくつか新しい内容が明らかになっている。たとえば「Chromoting」は、リモートデスクトップ機能を使ってWindows、Linux、MacなどPC上にある既存アプリケーションを利用できるというものだ。「Chrome」と「Remote」の造語で、Chromeデバイスをシンクライアントとして使うということになる。「Microsoft Office」などのネイティブアプリケーションが利用できないというChrome OSの機能制限を補う対策として、期待できそうだ。

 「Cloud Print」はGoogleが4月に発表したクラウド環境向けの印刷機能で、プリンタドライバなしに印刷が可能となる。この機能はオープンソースプロジェクトで開発されており、Chrome OSに限定したものではないが、GoogleはまずChrome OSの印刷サービスで同技術を採用するとしている。

激変する端末市場~タブレット/スレート端末の台頭

 こうして、Googleは正式ローンチに向けて準備を進めている。だが一方で、OSを取り巻く環境や端末市場は、1年前とは大きく変化している。

 最大の変化は、タブレット、スレートカテゴリーの台頭だろう。Appleの「iPad」は発売後3カ月足らずで300万台以上を売り上げており、新しいタイプの端末への消費者の強い関心と需要を実証した。今後、端末メーカー各社がこぞってこの分野を狙ってくることは必至だ。この分野には、Nokiaなど高機能化した携帯電話のメーカーも入ってくると予想される。

 これで最も打撃を受けそうなのが、ここ数年間パソコン市場をけん引してきたネットブックだ。画面サイズがあまり変わらないとなると、操作性、携帯性に優れるタブレットを選ぶユーザーも多いかもしれない。

 調査会社のForrester Researchは、米国ではタブレットカテゴリーは2015年まで年間成長率42%で拡大し、2012年にはネットブックの出荷台数を追い抜くと予想している。2014年には、ユーザー数でもタブレットがネットブックを上回るという。

 Chrome OSはネットブック向けと見られてきたが、新しいトレンドとなったタブレットに採用される可能性は高い。Google 自身も、2010年1月にChrome OSが動くタブレット形のコンセプト端末を公式ブログで公表している。

再度浮上するChrome OSとAndroidのすみ分け問題

 こうしたChrome OSがネットブック向けかタブレット向けかという位置づけから再度浮上してくる課題が、Androidとのすみ分けだ。Samsung は「Galaxy Tab」といわれる7インチ画面を搭載したタブレットをAndroidベースで作成しており、Dell もAndroidを利用して作成した5インチ画面の「Streak」を発表している。

 eWeekにコメントしたIDCのアナリスト Al Hilwa氏は、Chrome OSがAndroidとオーバーラップする可能性を指摘しながら、「GoogleがAndroidの成功を傷つけるようなことをするはずがない」とみる。だが同時に「選択肢が多くなると OEMがコミットできない状況を生む」とも警告する。

 コンシューマー市場はクラウドに情報を保存し、複数の端末でアクセスするモデルを受け入れると予測されるため、これに向けて Googleは、AndroidとChrome OSの戦略を編んでいかねばならない、とHilwa氏は述べている。

 また「エンタープライズにチャンス有り」とみるのはChrome OS情報サイトのChrome OS Siteだ。企業は「Google Apps」などのクラウドサービスを受け入れつつあり、数年前にLinuxなどのオープンソースデスクトップがMicrosoftに挑戦したときとは状況が違っているという。

 さらに、Chrome OS Siteの別の記事は、Chrome OSがSSDや高性能グラフィックなどハードウェア要件を高くしたことで、途上国市場という大きなチャンスを逃してしまうのではないか、とも指摘している。

 まったく別の視点からの意見もある。PC Worldは、Chromotingについてコメントしながら、「Windowsの代替になりたいのであれば、Windowsとリモート接続して作業環境を提供する機能よりも、それ自体でメリットを提供するOSを目指すべき」と鋭く指摘している。

 インターネット、モバイルなどの要素が入りながら、PC/端末市場はダイナミックに変化している。オープンソースプラットフォームを無償で提供するというAndroidのモデルは成功し、メーカーも消費者もGoogleブランドを認めている。Chrome OSがこのパターンを踏襲して成功する可能性は十分あるだろう。

 ただ、Chrome OSがWindowsの後を追うのか、iPadの後を追うのか、それとも新しいカテゴリーを作り出すのか、それによって結果は違ってきそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/6/28 09:58