クラウドと仮想化で複雑になる勢力図~VMwareとNovellの提携


 仮想化とクラウドの波に乗って勢力を伸ばすVMwareが、SUSE Linuxの拡大を図るNovellと戦略的提携を結んだ。仮想化/クラウド時代をにらんでエンタープライズベンダーが巧みな提携や買収戦略を進める中、この提携は、広範囲に影響に与えそうだ。

VMwareの狙い~「OSの隙間を埋めるもの」

 6月9日の両社の発表では、VMwareがNovellの「SUSE Linux Enterpise Server」をバンドルするOEM契約を結び、「vSphere」の顧客に対してNovellのSUSE Linuxの配布とサポートを提供する。VMwareはまた、OSとアプリケーションをパッケージ化した仮想アプライアンスをSUSE Linux上で標準化する計画も発表している。両社の狙いはさまざまな角度から分析されている。

 まずVMwareをみてみよう。仮想化最大手の同社だが、ハイパーバイザーでライバル関係にあるMicrosoft、急ピッチで仮想化戦略を強化するRed Hatなどとの競争が激化している。

 MicrosoftとRed Hatの共通点は、ハイパーバイザー(Microsoftが「Hyper-V」、Red HatはKVMベースの「Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor」)とOSの両方を持つことだ。

 一方、VMwareはOSを持たず、これらライバルの製品に依存する。Gartner のアナリスト、Richard Jones氏は、VMwareのハイパーバイザー上で動くゲストOSの「80%以上」が Microsoftと指摘する。こうしたことから、ハイパーバイザーで直接ぶつかることはないNovellと組むことは「理にかなった戦略」(Jones氏)と評価する。

 ハイパーバイザー技術でスタートしたVMwareは、クラウドに拡大を図り、すでにSpringSourceを買収してミドルウェアを手に入れている。今回の提携はこの流れの延長といえるもので、多くの関係者はVMwareの戦略は正しいと見ているようだ。

 豪州ITニュースサイトのIt Newsも「OSの隙間を埋めるもの」「VMwareがOSに進出」と記している。そして、この提携は、Microsoft はもちろん、バンドル戦略を得意とするIBMやOracleへの対抗の意味も持つと見る。ServerWatchも「vSphere をOSとしてみてもらう」ことを狙うVMwareにとって、密接に統合できるOSを得るのはよい動きだと評価する。

Novellの狙い~SUSE事業のシェア拡大

 一方、Novellの方はどうだろうか? NovellはSUSEを主軸とするLinuxベンダーとして地位獲得を図るが、Red Hatに水を大きくあけられている。NovellはSUSE LinuxでXenとKVMの両ハイパーバイザーをサポートするが、ハイパーバイザーベンダーではない。VMwareとの提携はMicrosoftと結んでいる相互運用性の提携を思わせるもので、Novell はこれらの提携で一貫してチャネルの拡大を狙っている。

 しかし、この戦略の成果を決めるのは時期尚早だ。Microsoftとの提携でNovellは3億4000万ドルのクーポンを販売したと報告しているが、今回の提携では金額面は明らかにしていない。OEM契約がどの程度、同社のSUSE事業に貢献するのかは不明だ。

 Novellは経営の不振が指摘されており、ヘッジファンドから買収話を持ちかけられていることが明らかになっている。 GartnerのJones氏は、VMwareがNovellを買収するといううわさを紹介しながら、両社の組み合わせは妥当だとする意見も述べている。

ハイパーバイザーのライバル、MicrosoftとRed Hat

 VMwareとNovell、両社の思惑はさまざまなだろうが、この提携に最も直接影響を受けるのは、MicrosoftとRed Hatだろう。

 Microsoftは実際、仮想化チームのブログで今回の提携に関してコメント、「VMwareは仮想化はOSの機能であると(やっと)気が付いた」と自社の優位性を強調している。このブログを書いたサーバー&ツール事業部担当コミュニケーションマネージャの Patrick O’Rourke氏は、Microsoftは、Hyper-VでLinux仮想マシンをサポートする機能「Linux Integration Service」を加えるなど、相互運用のための取り組みを進めているのに対し、「VMwareは業界の中で孤立している」と、VMwareの戦略を評する。

 だが、ServerWatchによると、Microsoftが置かれた状況も「決してよいものではない」という。Hyper-Vは「Windows Server 2008」に限定されるが、OSの重要性は低くなっている。VMwareはNovellとの提携後もOSに縛られることはなく、競争には優位だろうというのが理由だ。

 なお、ServerWatchはGartnerが先に発表したx86サーバー仮想インフラストラクチャの「Magic Quadrant」(ベンダーポジショニングチャート)で、VMwareが突出していたことに触れ、「仮想市場の戦いはまだ終わっていないが、Microsoftにとっては状況は芳しくない」と記している。

 Red Hatは2008年に買収したQumranetのKVMを核に、仮想化ポートフォリオを埋めることを急いでいるところだ。Red HatはOSとハイパーバイザーの相互運用でMicrosoftと提携しながら、自社のKVMをプッシュしていく。これに対して多角的に提携を進めるNovellについて、The VAR Guyは“包囲戦略”と形容。今回の提携は、6月22日に開幕する年次カンファレンス「Red Hat Summit 2010」の直前というタイミングもあり、「先制をかけた」と分析する。

 顧客のニーズとメリットを考えると、ハイパーバイザーベンダーとOSベンダーが提携するのはごく自然なことといえる。 MicrosoftとCitrix Systemsの提携にはじまり、Novell、Red Hat、そして今回のVMwareと、各社は必要に応じてライバルと手を結びながらも競争している。

 そこにクラウド(パブリック/プライベート)が加わり、勢力図ができあがっていくことになる。VMwareとNovellの提携はそれを実証するものである。この分野、今後もさまざまな駆け引きがあちこちで繰り広げれられそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/6/21 11:30