事例紹介

救急車の“たらい回し”を解消せよ! 佐賀県のiPadを使った取り組み

モデルケースとして全国拡大中

1000台のタブレットで県職員がテレワークを実施

佐賀県 統括本部 情報化 最先端電子県庁 係長 松永祥和氏(右)と佐賀県 経営支援本部 人材育成・組織風土グループ 係長 陣内清氏(左)

 救急車でのIT活用を皮切りに、佐賀県では行政におけるさまざまなIT化を進めている。その中でも、4月から1000人規模での職員のテレワーク(遠隔勤務)に取り組む。「県職員の関心は高く、成果報告会では傍聴席が一杯になりました」と県CIOの森本氏は語る。

 約1000台のモバイル端末を県で用意し、外出の多い人(週に2日以上)を優先的に、あとは課に1台といった形で使わせる。端末の種類は、iPadおよびiPad miniと、Windowsタブレットとで、だいたい7:3の割合となる。

 実は佐賀県では、以前、2010年ごろにもテレワークを実施したことがある。そのときには、職場の雰囲気的に申し込みづらく、20人ぐらいしか集まらなかったという。そこで今回は、2013年8月からまずは管理職約180名に週1回テレワークをはじめてもらい下地を作った。

 テレワークといっても、自宅には限らない。県には各地に事務所などのサテライトオフィスを設けており、そこで仕事をすることも想定している。

 背景の一つとしては、子育て世代や介護世代の職員の離職を防ぎたい意図がある。育児や介護などで、1日のうち“ここだけ時間をとりたい”というときでも、通勤などを考えると1日休むことになってしまう。テレワークでワークスタイルを多様化させることで、休まなくても働けるようになる、という狙いだ。

 そのほか、農業試験場やごみ不法投棄現場といった出先で高度な情報を利用した機敏な行動が求められるなど、行政ニーズの高度化・多様化もある。さらに、インフルエンザや天災などの際の県民サービスの継続も理由の一つだ。「職員のためにやるわけでなく、県民の満足のために」と、佐賀県 経営支援本部 人材育成・組織風土グループ 係長 陣内清氏は語る。

テレワーク推進の背景の一つである、子育て世代と介護世代の分布
テレワークによる県民満足度の向上のビジョン
県のサテライトオフィス
出勤記録のイメージ

 システムとしては、Xen DesktopによるVDI(仮想デスクトップ基盤)にCitrix Receiverで接続するシンクライアントの構成をとる。基本的には端末上にはデータを入れない。なお、県庁となると住民票などの個人情報を扱う仕事もあるが、そうした情報は端末はもちろんVDIにも入れないことにしているため、現在のところはテレワークの対象とはならない。

 端末の管理には、救急車での実績をふまえて「CLOMO MDM」を導入。MDMの機能で、6文字以上のパスワードによるロックも強制する。VDIの認証では、許可した端末にプライベートCA(認証局)の電子証明書をインストールし、その電子証明書を持った端末からのみアクセスできるようにする。

 「ツールより先に、テレワークを実現するのに克服すべき課題はいろいろあります」と、佐賀県 統括本部 情報化 最先端電子県庁 係長 松永祥和氏は説明する。前述した意識改革から、制度やルールの見直し、ペーパレス化や電子化などが先にあり、最後に端末などを整備してテレワークが実現する。こうした課題とシステムを整備し、秋ごろから約1000人が実際にテレワークを開始する予定だ。

タブレットからXen DesktopによるVDIにログインする
VDIによるシンクライアント環境で業務情報にアクセス

タブレットで民生委員の負担を軽減する実証実験

 これらのほかにも、ITやモバイル端末を使った県庁の試みはなされている。県職員のテレワークの前にも、2013年夏に、モバイル端末を使った業務の企画を募集し、選考した中から100台のタブレット端末を配布した。採用された中には、園芸課での現地確認や、設備資料を確認しながらのヒアリング、メールやデジタル地図を使った不法投棄の監視対応、災害時のWebサイト更新などがあるという。

 「そこに住む方々の生命と暮らしや財産を守り、住みよい地域にしていくために、いかにICTを活用して行くかという視点が重要」と県CIOの森本氏は語る。

 取材時に森本氏が注力点として説明したのが、民生委員・児童委員の業務にタブレット端末を導入する実証実験だ。2月から6月まで、佐賀県と佐賀市、日本マイクロソフト(Azure)、インテル(端末)、NTTドコモ(モバイル回線)が取り組んでいる。また、アプリを佐賀のベンチャー企業である木村情報技術が開発している。

 民生委員は、高齢者や障害のある人、母子家庭、経済的困窮者などを訪問して相談に乗る民間の奉仕者。この“個人カルテ”をデジタル化する。これまで、各自が持つ情報は、メモや地図上の情報などに頼り、また書類なども管理しなくてはならない。そのため、「なくしてはいけない」という心理的不安や、交代のために情報を引きつぐときに必要なことをすべて伝えられるか、たとえば「4~5年前から兆候があった」といった知見を伝えられるかどうかという不安があったという。これを円滑にやってもらうために、デジタル化して、負担と不安をなくす。

 さらには、そうした情報が集まったときには、分析することで福祉に役立てることも構想している。「たとえば、認知症の進行や、歩行できなくなったことによる体調への影響など、見えてくるものがあるかもしれない」と森本氏。「これによって福祉が変わると確信しています。細々と続けていく必要があると考えています」。

モバイル端末を使った業務の企画を募集し、100台のタブレット端末を配布
佐賀県・佐賀市・企業による、民生委員・児童委員の業務にタブレット端末を導入する実証実験
民生委員・児童委員によるタブレットでの操作のイメージ