事例紹介

クルマ選びの価値観を変えたい!――ガリバーのテーマパーク型店舗「WOW!TOWN」誕生秘話 (欲しいクルマが見つかる仕掛け)

自分でも気づかなかった欲しいクルマが見つかる仕掛け

顧客一人に一台配られるiPad mini。中に専用ガイドアプリが入っている

 具体的に顧客はWOW!TOWNをどのように利用するのか。その流れの中からITを使った仕掛けを紹介したい。

 顧客は来店するとまずシアタールームに通され、WOW!TOWNのコンセプトムービーを視聴する。5分ほどのモノだが、シアタールームは薄暗さや大画面、音響にもこだわった。「ここで一度頭をリセットして、従来の中古車販売とはまったく異なると、認識を新たにしてもらうのが狙いです」(坂口氏)。

 ムービー視聴後は、いよいよiPad miniの登場だ。一人一台配られ、中には「QRコードリーダー」「MAP」「お気に入りのクルマ」「クルマを探す」「アンケート」といった機能を備えたガイドアプリが入っている。ここでアンケート機能を使って、「遊びの計画を立てるのが好き」「車は主に通勤や買い物など移動手段として使う」「何でも使い勝手よりデザインで選ぶことが多い」といった10個の設問に回答。すると自分でも気づかなかったクルマへの要望――走りが重要だけどエコも重視したいなど――が、レーダーチャートに可視化される。その結果によって重点的に周るべき展示ゾーンが決まる。

アンケート例。10個の設問に回答する
各設問には5段階で回答。ここは直感に頼ってパパッと決めよう
アンケート入力。図はiPadだがWOW!TOWNではiPad miniが配られる
クルマへの要望がレーダーチャートに可視化される

 展示されている車には、価格表やスペックシートが一切貼られておらず、ただ、QRコードのみが貼られている。詳細を知りたいクルマがあったら、iPad miniを使ってQRコードを読み取ってもらう。するとクルマの価格や走行距離などの情報が表示され、「後で見る」といったお気に入り登録も可能となる。また、QRコードを読み取ったクルマから他のオススメ車を紹介するレコメンド機能、アンケートによる適性診断と実際に選んだクルマの傾向を比較する機能なども搭載されている。

展示されたクルマにはQRコードのみ貼られており、iPad miniで読み取る
アンケートによる適性診断と実際に選んだクルマの傾向を比較

 価格を表に出さない中古車販売は珍しい。ここには「クルマ選びの際に価格から入ってほしくない」という思いがある。「今までの中古車販売とは一線を画し、新たな価値観でクルマ選びをしてもらうため、意図的に価格などの情報を表に出さないことにしました。例えば、あるクルマがほしいと思ってもそれが400万円と表示されていたら、その段階で検討をやめてしまうかもしれません。でも、中古車販売の場合、多くの車種を提供できますから、もしかしたら、同じ車種で型落ちの比較的安価なものもあるかもしれない。ですので、価格ではなく、あくまでライフスタイルからクルマを選んでほしかったんです」(同氏)。

 QRコードはサイズなどを試行錯誤し、iPad miniをかざして近づくだけで認識されるような大きさとした。また、QRコードのみでは無機質なため、担当営業の顔写真なども掲載した。アンケートやiPad miniのようなゲーム感覚な仕掛けは特に子供にウケが良い。

 一方で玄人には不評な面も。「WOW!TOWNをお披露目した際に自動車評論家にも意見をいただき、“ビギナーやファミリには良いね、けど欲しいクルマがピンポイントで決まっている人にはめんどくさいね”ということでした(笑)」。しかし、「確かにクルマ好きには、そんなこと(アンケートによる適性診断など)いちいち言わなくても分かるというのはごもっとも。ただ、WOW!TOWNのコンセプトは顧客の裾野を広げるというものなので、これはこれで良いのです。実際に今の時代はこれが欲しいというよりも生活にあったクルマを選ぶ傾向も強いので」と同氏は語る。

 つまり、WOW!TOWNのターゲット層は「個車×価格」指定層ではなく、市場の大半を占めているだろうと思われる、要望を絞りきれなくてクルマに詳しくない「もやもや・ぼんやり層」というわけだ。

 展示を一通り見終わった顧客は、併設されたカフェ「WOW!CAFE」で一休み。「さっきのクルマが気になるね」や「あのクルマでどこ行こうか」と想像を膨らませたり、必要に応じてこの場が具体的な商談スペースにもなる。子供連れのファミリ客のために、広々としたキッズルーム「WOW!KIDS」も用意。部屋の様子はクルマを選びながらiPad miniで覗けるようになっている。

 また、主に欲しいクルマが決まっていない人を対象とするため、iPad miniのアプリでお気に入りに登録した情報などは、自宅に帰ってからも検討できるよう、Webでお持ち帰りも可能となっている。

 こうしたWOW!TOWNが実際にどう構築されていったのか。開発の裏側に話を移そう。

(川島 弘之)